エピローグ だから、今 俯瞰視点(1)
「「ふふっ」」
後世に語り継がれるような大きく賑やかな式と、そのあとに開かれた同規模のパーティーが終わったあとのこと。美しく形のいい満月が、澄んだ空の中で煌めく夜。
新婚夫婦となった2人はアドレルザ侯爵邸内を歩いており、その際――不意に揃って、笑みと小さな笑い声が零れました。
「シリル様。もしかして、今……」「ベルティーユ。もしかして今……」
そして再び行動が意図せず一致し、2人はまた柔らかく口元を緩めます。
「ここも、ピッタリですね。ということは」
「はい。私も、お会いしてから今日までのことを、思い出していました」
商談の際にトラブルが発生し、あっという間に心を奪われてしまったこと。この国に招待して、『ハスベルク湖』――綺麗な景色がある場所で初めてデートを行い、楽しんでもらえたこと。これまでの人生で最も緊張してしまった、プロポーズの日のこと。レリアに関するトラブルを、無事解決できたこと。などなど。
商談から3日後に、気持ちの籠った手紙が届いた時のこと。ハスベルク湖で初めてのデートを行い、幸せな時間を過ごせたこと。誰よりも好きになっていた人から生涯の宝物をもらった、プロポーズの日のこと。レリアに関するトラブルから、護ってもらえたこと。などなど。
2人は始まりから現在までの出来事を思い出し、そうすることで幸せが満ち満ちて――。間もなくそれは体内に収まりきらない量となったため、零れ出してその姿を変え、あの笑みと笑い声が生まれていたのでした。
「……こんなにも心が清い人が居るとは、思ってもみませんでした。そして――。同じ時間を過ごせることがこんなにも幸せだと、感じる人がいるとも思ってもみませんでしたよ」
「……私も、です。あの時――ルナレーズ商会の支部の前を通った時、シリル様は周囲の被害を案じられていました。同業者、ライバルの脱落を喜ぶのではなく、そちらを本心で心配される。そんな反応をされる経営者が、そんな方がいるとは、思ってもみませんでした。そして――。私のためにあんなにも怒ってくださって、それが何よりも幸せで。こんな感情を抱く方と、抱いてくださる方と、出会えるなんて思ってもみませんでした」
シリルとベルティーユ。そう告げ合った2人は、穏やかな月光の下で――。月明かりが静かに差し込む廊下で、揃って立ち止まって見つめ合い――
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