第14話 知り尽くしていた理由~出会いと想い~ シリル視点(1)

 僕がベルティーユ様に恋をする切っ掛けは、偶然によるものだった。

 あの日――今から1年と7か月前。僕は体調を崩した父上の代わりとして、レビックス卿と――お父上であるトマ様と商談を行うべく、レビックス子爵家を訪れていた。そしてその際に、


「ぁ、ぁ……。わたくしは、なんてことを……」


 従者であり補佐を務めていたロックが足を滑らせてしまい、バランスを崩した拍子に花瓶を割ってしまったのだ。


「レビックス様、申し訳ございません。彼の責任は、わたくしの責任でございます。なんなりとお申し付けくださ――」

「っ、大丈夫でしょうかっ!? お怪我はございませんかっ!?」


 原因となった場所に問題は何もなく、全てはロックの責任。臣下の責任を背負うのは、当然の責務。そのため片膝をついて謝罪を行っていたら、大きな音を耳にした子ウサギのような女性が――ベルティーユ様がいらっしゃった。

 そしてこの方は割れた花瓶ではなく、ロックのもとに駆け寄ったのだった。


「破片が突き刺されば、大変なことになりかねません。痛みはございませんか?」

「ぇ……? は、はい。痛みなどは、ございません……。で、ですが……。わたくしの失態によって――」

「そういったことは、誰にでもございます。ね、お父様。仕方のないこと、ですよね?」

「ベルティーユ……。それは、お前が気に入って――いや、そうだな。我々だって、犯してしまう可能性があることだな。……アドレルザ様。今の出来事は、忘れていただいて結構でございます」


 それは明らかに、ベルティーユ様のお気に入りだった。にもかかわらず真っ先に『不問』を提案され、しかも――


「レビックス様。やはり、お詫びをさせていただきたく思います。つきましては、今回の取引で――」

「なにもなかったのですから、お詫びの必要などございませんよ。……わたしとしてはどうしても、有利に進めたい気持ちはあるのですがね――。そうしてしまえば先の言葉が嘘になり、娘に嫌われてしまいますからな。元々が有難い取り引きですし、あの内容でサインをさせていただきますよ」


 先の出来事を違う形で利用する気も、貸しを作る気も、まるでない。ベルティーユ様は本心で、ロックを想ってくださっていた。


 ――あのようなお姿を見て、更にはこのようなことを知ったのだから――。

 ――そうなるのは、必然的だった――。


((ベルティーユ・レビックス様。素敵な方だ))


 僕は瞬く間に恋をして、だからアプローチをさせていただいて。有難いことにベルティーユ様は僕に異性として関心を持ってくださって、最愛の人が恋人になり、やがては婚約者になっていただけたのだった。


 だからベルティーユ様は、僕の宝物。何よりも大切な人。こんなことを言うと、それこそ嫌われてしまいそうなのだけれど。この命に代えても、護り抜きたい人。僅かでさえも、つらい思い、悲しい思いをさせたくない人。

 だから――


「……ベルティーユ様が平手打ちをされた……!?」


 その日の、翌日。偶々会う約束していたことで僕はソレを知り、じっとしていられなくなって――

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