第37話 勇者の勧誘
「お前の負けだ、勇者よ………」
「………ゴフッッ…」
世界の平和を守るため、魔族軍のリーダー魔王との決戦、魔王を倒すために集められた屈強な戦士、今は俺以外に立っているものはいない。
「終わりだ」
「悪いみんな…」
魔王は魔法弾を出現させる、トドメを刺す気なのだろう……今の自分にその一撃に対抗する手段はない……。
「死ねッッ!!!」
「ーーーーッッッッッ??!!」
放たれるのは黒い魔弾、全てを喰らい尽くす漆黒の球は俺を殺すべく、刻一刻と迫ってくる、目を瞑ることしかできない俺。
「ナニッッッッ??!!」
「………?」
「気になったんで様子見に来たけど……正解だったね………」
ーー刹那、耳障りな金属音が鳴り響く、いつまで経っても自分に魔弾が当たらない事に疑問を感じ、目を開けると、目の前に誰かが立っている。
「ーーーー貴様、一体何者だ!!!」
「悪いけど……ゆっくりお話しするつもりはないんだ……一気に勝負をつけさせてもらう……『
聞き覚えのない、詠唱を聞いたところで、体力の限界がきた俺は意識を闇に落とす。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーたか?」
「ん?」
「ちゃんと話を聞いてましたか?」
「わ、悪いクリス、考え事してて聞いてなかった」
「もう仕方ないですね」
「魔王軍との戦争を終わらせたのに………浮かない顔をしてるね…」
「まだ実感湧かないんじゃない?」
「……そんな所かな……」
聖女クリス、魔法使いエミリア、盗賊セシリア、一緒に旅をしてきた仲間達だ。
「それにしても一人で魔王を倒しちゃうなんてアレックスは本当にすごいよね~今でも信じられないよ」
「は、ハハ……」
世界征服を目論んだ魔王を倒したのは勇者たる俺、アレックスが倒したとされているが、実はそうではない、誰かが俺の代わりに魔王を倒してくれたのだ、倒したと言っても数十年後には復活してしまうが、そもそも魔王というのは魔力の塊だ、殺したところで再度魔力が集まり生き返る。
「あ、見て見てみんな、なんか面白いのやってるよ」
「ん?、どれですか?」
「これこれ、なんでも王子様の婚約者を決める大会なんだとか」
「へぇ~」
記録映像を映し出す水晶玉を覗き込む仲間達。
『ーーー
「ーーーーッッ??!!!」
「聞いた事ない詠唱」
「おおすっごいなにこれ~」
あの時聞いた詠唱が水晶玉から聞こえた。
「ーーちょ、ちょっと見せてもらっていい??!!」
「え、い、良いけど」
俺は水晶玉を彼女達からひったくるように手を伸ばす。
『ーーーおおっと、イヴ・ペンドラゴン選手の奥の手か??!!』
「………イヴ・ペンドラゴン………」
水晶玉に写っていたのは銀髪の女性、肉食獣めいた笑みを浮かべ、敵を屠っていく。
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「俺のパーティーに入らないか!!?」
「断ります」
金髪キラキライケメン、超絶有名人の勇者アレックスがいきなり私の家に来たかと思えば、彼のパーティーに誘われる。
「な、なぜ??!!、魔王を倒したとはいえ世界にはまだ悪が栄えている、貴女が力を貸してくれれば心強い!!」
「私は今の生活に満足してます、世界が滅びるっていうなら手を貸しますけど、世界中の人を救うというほど聖人君子ではないので」
「そ、そんな」
勇者パーティーに加入すればかなりの大金をもらえるが、その代わり、厄介な仕事を任される、例えば古代の竜を倒せとか、国一つを滅ぼすゴーレムをなんとかしろとか、無理難題を押し付けられる、誰が好き好んでそんなパーティーに入るか、冗談じゃない。
(………それに、後ろの女性陣からの入るなオーラがすごいいし………)
突き刺さる視線、勇者パーティーは勇者アレックス以外、全員女性だ、おそらくだかアレックスを好いているのだろう、自分が好きな男が必死に勧誘する女なんてそりゃ気分は悪いだろう。
「そ、それなら、魔王を倒したのは俺じゃなく君だという事実を世間に公表しないのは何故ムグッッ」
「あ、あはははは、なにを言ってるんですか勇者様、笑えない冗談はやめてくださいよ!!」
「?」
急いでアレックスの口を塞ぐ私、ま、まずい、魔王を倒したなんて国のお偉さんにしれたら、面倒臭い任務を押し付けられるに決まっている、気を失ったアレックスに手柄を押し付けたので忘れていたが、どうやらアレックスは私が魔王を倒した事を知っているようだ、首を傾げる勇者パーティーのメンバー達、よかった聞かれてないようだ。
「す、すいません、ちょっと勇者様借ります~」
「え?、ちょーーー」
私は急いでアレックスを部屋の外へと連れ出す。
「魔王を倒したのは貴方ということにしてくれませんか?」
「な、なぜ??!!、最高位の勲章をもらえる戦果をなぜ人に譲るんですか??!!」
「……別に誰が倒したかなんてどうでも良いじゃないですか、魔王が倒されて、世界が平和になった……それだけで充分じゃないですか?」
「ど、どうでもいい………」
心底理解できないというふうに疑問をぶつけてくるアレックス、私は適当に返事する、本音の勲章なんかもらっても嬉しくないというのは隠しながら、アレックスは私の言葉に衝撃を受けたのか、呆然と立ち尽くす。
「す、素晴らしい自己犠牲の精神………貴女こそ、勇者を名乗るにふさわしい」
「え?」
「やはり俺の目に狂いはなかった……頼む、俺のパーティーに入ってくれないか?」
「断ります」
「そ、そんな……」
なにを言われても私の返事は変わらない。
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