第26話アホと休日2




ゆっくりとまぶたを開け周りを確認する、世界には塵が積もれば山となるなんてことわざがあるらしい。


一理あると感じさせる光景が広がっていた。


屑鉄が積もって一山作られ、歪なバランスで保っていたが、時間とともに崩れてまた新たな屑鉄が頂点に乱雑に積まれていく。


大半は上に引っかかることもできず、騒音を立てながら落ちていき、最後に甲高い音を立てて地面に叩きつけられる。


地面に落ちた屑鉄は二度と陽の目を見ることはなく、一生を終える、いや、終わったからこそここに行き着いたのか。


運良く万が一、頂点に残れたとしても次に弾かれたらそこまで、後は転がり落ちるだけで地面という最底辺へ落ちていく。


確かに集まれば山になるだろう、しかしそれに価値はあるのか?


小さい事でもコツコツとやれば山になる、そこに善悪の区別はない、なぜならこうして乱雑に処理したごみ山がいくつも集まってできたのが、不毛の地、廃品解体処理屑鉄投棄場


生き物はおらず、魔物だってここには近づかない、ここにあるのはただのガラクタのみ、最初からか途中からかは判別がつかないが、無駄、無意味、無価値、存在否定の烙印を押され、原型を止めることすら許されない、せめて嵩張らないように朽ちてくれ、捨てた人間の心理はこんなところだろう。



(…………私は……そうだな………さしずめ人間の形をした塵………)



無価値な屑鉄塗れの世界で唯一、人が眼中に入れてくれる存在かもしれない、邪魔臭いという理由で。


なんとなくそれでも誰か見てくれるだけマシか、そんな歪んだ価値観になんの疑問も持たずに納得する。


彼女達はそもそも人間ですらない、いや人間だったが妙な物を体に捻じ込まれ、なんだかよくわからないものにされた、人でもなければ魔物でもない。




神を目指して、中途半端に人の枠を飛び出して、天使どころか、悪魔にもなれず、なら私達は一体何なのか、彼女なりに出したのがさっきの答え。



もしかしたら自身を元人間と思い込んでるだけの化け物かもしれない、ここに来る前の私を忘れてしまってるのか、それとも最初から人間じゃなかったかもしれない、自身の過去を示す物的証拠など持ってない。



形があり、木材やら硝子よりも硬度を誇っていた、鉄や鋼が今やただのガラクタ、元の姿など面影もない、いや、硬く、一度形を決めてしまえば後は変えづらい、だからこそここまで執拗に潰されるということなのだろうか?




ともかく、有形物ですらこの有様なのだ、最初から形などない無形な記憶などいくらでも歪み、改竄され、無から有にすらなる、さながらいらない物を叩き、潰し、切り刻み、有形物をバラす解体処理工程のよう、一つ違うのは減ることはあっても増えることはないということだけ。



それでも妄想に浸れる分まだ意味がある気がする、無形物にすら負ける鉄と鋼、その事実に辟易する彼女。



何にもわからない彼女が自信を持って言えるのはこの世で最も脆いもの、それは鋼と鉄。




硝子も木材も石も、存在を許されるが、鋼と鉄だけは許されず削られ、燃やされ、溶かされ、屑鉄という残りカスになる事すら出来ない物もある。




哲学とも言えない幼稚な考えを頭の中で展開するが、胸の中の憂鬱が増しただけだった。



(……………鉄と鋼なんて……脆すぎる………)



上から他のに比べると巨大な塵が落下してきて奇跡的、または必然的に当たらなかったのか、それすらわからない。




彼女と同じ最底辺に落ちてきたものを横目で確認する。




自身と同じ、人間の形を型取った塵、ただ自我あるかないかそれだけの違いしかない。




「………こんにちは……

………何人目の家族かはわからないけど……

…私は…………外の世界に行くよ………

……貴方を置いていくことを……

……許して……

…こういう時人って……

……貴方の分までで生きることが葬いになる……

……なんて言うけど……そんなの生者の理屈よね……きっと私が貴方だったら………

こうして見下ろして……

外に出る私を恨みがましく見るんだろうね……

……でもね…………それでも…………許して……」





よく見なければ微かにしか光が見えない淀んだ彼女の瞳から、雫が落ち、彼女が言うには人間の形をした塵の瞳に溜まった後、頰を流れていく、濡れた頰を拭ってあげる彼女、しかし、拭われた塵本人は彼女のことを光のない空虚な瞳で見ていた、まるで嫉妬と憤怒が織り混ざった末に漆黒に染まった、そんな風に思い込んでしまいそうになる。




瞳ではなく、ぽっかりと空いた穴と言われれば納得できてしまうほど、深淵の色を宿した瞳だった。




これはとある少女の遠い昔の記憶。


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「おーーい、コバト起きろ~」


「ん?、ああ寝てたのか私」


「食うか?」


「サンキュ」


ハルがなんか昼飯買ってくるとか言って出店が集まっているところに歩いていく、立って待つのも嫌なので公園のベンチにぼーっと座って待っていたらいつの間にか眠っていたらしい、何か夢を見ていた気がするが、はっきりとは覚えていない、不意に肉が刺さった串を渡してくるハル、礼を言いながら貰う私。


「なんか悪い夢でも見てたのかお前」


「なんでそう思うの?」


「ほら」


「……………?」


なぜかハンカチを渡してくるハル、意味がわからない。


「それで涙拭け」


「ーーー!!、ありがと」


彼の言葉でようやく自分が涙を流していることに気づき、感謝を述べながら涙を拭く、自分でもなんで涙を流しているのかわからない、先ほど見た夢が関係してるのだろうか、なんだかさっきの夢は、遠いのに近い、そんな二律背反な感覚を覚えた、気がする。



「そういやお前、王族の護衛じゃなかったっけ?、休日でもこんな所いて良いのか?」


「アルバートがかわりに護衛してくれてる」


「あ~なるほどね」


気まずい雰囲気だったのでハルが適当に話題を変えてくれる、私もそれに乗っかる、近況を雑談する私達。


「それでさっきは何してたの?」


「え?、歴史を教えてた、かな?」


「歴史って何?、セブンボールの歴史?」


「いやだって、頭空っぽの方が夢詰め込めるじゃん?」


「お前、良い加減にしないと顔蹴るぞ」


さっきの子供たちに嘘を教え込んでいた件を詰め寄ると頭スーパーゼットな返答が返ってくる、頭が痛い。

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