第6話 視力がね

「最近どうも見にくくてさ」


角のとがったデビルの少女が言った。


「自分の容姿が?」


耳のとがったエルフの少女が言った。


港町の喫茶店に二人の姿はあった。


「いや、そっちの醜いじゃなくてさ」


「うん」


「ん? ってひどくないか。今の発言」


「すごい時間差。気づくの遅いわよ」


「まったくだ。危うく聞き逃すところであったわ」


「聞き逃した方が幸せだったかもね」


「それもまったくだ。知らぬが仏。不都合なことは知らぬままホトケになりたいものだ」


「うーん、流石にちょっと言いすぎたわ。謝罪するわね」


「そうか。では、1000ゴールドで手を打とう」


「守銭奴が。前言撤回よ、あんたは心も醜いわ」


「当然だ。アタシをなんだと思っているのだ?」


「暇人」


「っー……今のすげぇな、たった二文字なのにかなり効いたよ」


「え? ホントに暇人なの?」


「カマかけおったな、この女狐めが」


「狐? まあ、確かに耳はそれっぽいわね」


「何の話だ。というかこんな暇人に付き合うようなお前も、立派な暇人だろ」


「そうよ」


「ぬぬ、鋼メンタルめ」


「鉄は打たれれば打たれるほどに強くなるのよ」


「このマゾヒストが。お前のような奴は鉄粉に帰しても平然としてそうだな」


「誉め言葉として受け取っておくわ。で、何の話だったかしら?」


「醜い。否、見にくいという話だ。最近どうも視力が落ちたようでな」


「メガネ買えば」


「ああ……まあそうだな」


二人は喫茶店をあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る