キャンプファイヤー殺人事件

神城 希弥

第1話

      〜桜井さくらい紗夜さや視点〜



「高校にも林間学校ってあるんだな」

「中学の頃にもスキー林間とかあったでしょ?」


 確かにと呟いて、俺は乗っていたバスから降りる。

 目の前に見えた景色はあたり一面緑色。それと、この派手なホテルだ。



       〜犯人視点〜



(ここはいい! 立地、イベント、自由時間。全てが俺の計画に反抗しない)


「ねぇ、何ニコニコしてるの?」


 不覚にもニヤついてしまったらしく、隣の者から声をかけられてしまった。


「いや、このホテルが俺好みでさ」


 ニコリと笑って適当に答える。この場で沈黙が続けば、急に話しかけられた事による激しい鼓動が聞こえてしまうと思い、ササッと人から離れた。



      〜桜井紗夜視点〜



 突然だが、俺の紹介をしておこう。

 俺の名前は桜井さくらい 紗夜さやだ。

 一般の高校1年生であり、通ってる学校も誇れる点は何もなく、平凡という言葉が似合う男だ。何か少しでも特徴を挙げろと言うのなら、運が少しだけ良いって事だけだ。

 運が良かったねエピソードは、長くなるから割愛する。


 そして、隣で話しているのは、入学当初に仲良くなった笹本ささもと 秀太朗しゅうたろう

 登校初日に席が近いという理由でなのか、親しくなった人だ。身長が高校生とは思えないほど低く、中学1年生と言っても信じてしまうほどの童顔を持っている。


 そして今は、夏の真っ只中。夏休みの最中で、なんでこんな暑い時期に行かなくちゃいけないのかと思ったけど、行かなかったら何かのレポートを書かせると脅されたのだから仕方がない。



 林間学校の一日目の予定は『グループ別学習』『自由時間』『キャンプファイヤー』であり、二日目の予定は『ドローン体験』『陶芸体験』『クラス発表会』で、三日目の予定は『グループ別学習』である。


 初日のグループ別学習は、『うどん作り』『ボルダリング』『異文化交流』という3つの選択肢があるわけだが、俺はボルダリングに参加することになっている。

 部屋に荷物を置き、各々の体験メニューに必要な物を取り出し、少しゴロゴロしてから集合場所へ向かう。

 部屋は4人部屋で俺と笹本の他に、クラス委員長の新葉しんば 恐打きょうだと、一学期末のテストで学年トップの土木つちき 一歩いちほと一緒である。

 俺に比べてクラスの中心にいる二人だからか、少し緊張している。


「敬語は辞めてくれよ」

「え? 何も言ってないけど」

「フッ。心配することないか」


 急に土木が話し始めた。誰に向かって話していたか分からんが、つい反応してしまった。


「あ、僕は新葉です。クラス委員やってるけど知らないですよねそりゃクラスに何か貢献できたかと問われれば何もないんですから」


 喋っている途中、何言っているのか分からなくなったので、話の途中で俺の紹介を始めた。


「桜井です。一般高校生です」

「敬語」

「一般人だ。よろしく」


 互いに握手を交わす。新葉の手は土木の手より一際大きかった。

 その後、雑談をして体験学習の時間になった。

 俺、笹本、新葉は『ボルダリング』、土木は『うどん作り』へと向かう。



 ボルダリングウォールはホテル地下一階の体育館にあった。壁のほぼ全面がボルダリングウォールになっているため、大人数でも待ち合いにはならないのが良い点だ。


 準備運動をして初級から登り始める。俺一番と準備運動もせずに級の高いところに行ったゴリラみたいな男は、速攻で落ちて捻挫していた。クッションは敷いてあれど、全ての衝撃をカバーできる訳ではなさそうだ。

 彼のおかげで準備運動の大切さが分かった。次に彼に出会ったら心の中で感謝しておこう。


 そんな事を考えていると、手がホールドから外れ落ちていった。落ちている途中、足が何箇所かホールドに当たる。瞬きをすると、背中からドンという音が轟き、頭が跳ね上がる。

 2,3度のバウンドの後、起き上がろうとすると足に激痛が走る。イタッと少し声を出してしまう。

 すると、笹本が走ってきてポケットからティッシュと絆創膏を渡してくれた。傷は、小さい絆創膏では収まらない大きさだったものの、ティッシュにはとても助けられた。


「ティッシュありがと」

「やっぱりティッシュがあると便利だよ。皆もティッシュ配りは貰ってこ!」


 彼はいいやつなのか、出会ったティッシュ配りは全て貰うほどのお人好しだ。他にも、選挙のよく分からん紙とかも貰ってくる。選挙権まだないだろ。


 ◇◇◇◇


 ボルダリングはかなり疲れる。普段使わない筋肉を使っているからだろう。体育館の中は涼しかったから、汗で濡れた服に風があたり、風邪でもひくんじゃないかと思った。

 この後は、『うどん作り』グループの手打ちうどんが食べれるらしいので少し楽しみにしている。


 2階に上がり食堂に通される。正直汗臭い服をいますぐ着替えたいのだが、先生がルールだから仕方がない。

 席は自由と言っていたが、俺には笹本以外に友人はいないので笹本と食べる事になる。そこに土木と新葉が登場し、結局部屋の4人で食べることになった。これは新しい友人が出来そうな予感。


 戴きますの合図を出され、うどんを口にする。もぐもぐ。もぐもぐ。

 うん! 喉越しも最高で、運動後に食べたくなるうどんだ。そこらのお店にも負けてないんじゃないかとも思える。つゆも麺もとても美味だ。……………あれ?


 俺は急に椅子から転げ落ちた。

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