プリンス×プリンス(プリンセス)~俺の親友(男、イケメン)が、かつて愛を誓い合った幼なじみ(女、美少女)であることに俺は気付いていない~
1 まえがき的なものと、こじらせ主人公と、キャラ紹介のようなものと、
プリンス×プリンス(プリンセス)~俺の親友(男、イケメン)が、かつて愛を誓い合った幼なじみ(女、美少女)であることに俺は気付いていない~
青井かいか
1 まえがき的なものと、こじらせ主人公と、キャラ紹介のようなものと、
〇
一つ、この物語を始める上で、まえがき的なものを挟んでおこうと思う。
あくまでこれは、俺と〝彼女〟の、ありふれているようで、不思議に弄ばれた恋愛にまつわる、騒がしさとすれ違いに満ちた日々の記録、ということになるのだと思う、たぶん……。
〇
今からこの文章を読み進めるであろう物好きの読者諸君に俺が言いたいことがいくつかあって、それは、恋というものが、常軌を逸して人を盲目にさせてしまうような、猥雑かつ神秘に満ちた現象であるということ、そして、この世には決して理屈では説明できない神秘的で意地の悪い現象が存在するのだ、ということである。
〇
恋は盲目であると、昔のすごい作家が作品の中でそう示した。
大切なものは目に見えないと、別の昔のすごい作家が作品の中でそう示した。
つまりこれは、恋をして盲目になったとしても、大切なものを手に入れることは可能だ、ということになるのではないだろうか?
違うか……? 違うな。違うかもしれない。
まぁ、大体そんな感じである。
〇
現代のすごい男が、次のような言葉を残した。
「童貞の何が悪い?」と。
その男が、次のような言葉も残した。
「彼女がいなくて何が悪い?」と。
ちなみに俺の言葉だ。現代のすごい男とは、俺のことだ。
「な、そう思うよな?」
俺は隣にいる光希の肩をポンと叩いた。
「……何が?」
ピクリと体を震わせた光希が、何のことかよく分からないという表情で首を傾げる。
「いや、別に童貞でも彼女がいなくても俺たちは気に病む必要ないよな、ってこと」
「ど、童貞って……」
光希は俺の言葉に少し動揺した反応を見せたが、すぐに小さく吐息して、呆れたように俺を見た。
出会った当初は全く下ネタに耐性がなかった光希だが、一年以上も俺みたいな奴と付き合っていると、流石に慣れてくるものらしい。彼があまりそういうネタが好きじゃないことは知っているが、どうにもついつい口から零れてしまう。だって思春期の男の子ですし、ぶっちゃけエロいことに興味津々ですし?
しかし、しかしである。興味津々なのは認めよう。そこは認める。
セクシュアルなリビドーが溢れ出て止まらず我が身を取り巻き、エロのことになると理性というブレーキを宇宙の彼方に棄却して暴走しがちな男子高校生の、それも二年生にもなろうという生き物が、純情ぶって「いやいやエロいことになんて興味ありませんけど?笑」という顔をしても、往生際が悪いだけである。全く以って見苦しい。
一部の例外を除き、この世に生きる男子高校生という生き物の中には大別して二種類しかおらず、それは『スケベ』か、『むっつりスケベ』かのどちらかである。覚えておいた方がいい。
ちなみに俺が『スケベ』で、俺の隣にいるこの光希という男が『むっつりスケベ』だ。どうぞよろしく。覚えなくてもいい。
もし、「いや、それでも俺はスケベじゃない」と主張する阿呆がいるならかかってこい。お前のその虚勢に塗れた鼻先に、俺が秘蔵しているバリエーションに富んだエロ本コレクションをズラリと並べてやろう。
すると貴様は、エサをお預けされた犬のようにヨダレを垂らしながら生命の神秘と言う名のエロティシズムを凝視してしまうに違いない。どんなに体裁を取り繕っても、内なるリビドーには敵わないのだ。そういう哀しくも情けない生き物なのだ、男は。……泣ける。
そして、その上で俺は言うのだ。「しかし――」と。
そう、しかし、である。俺がエロいことに興味津々であることと、俺が童貞であること、俺に彼女がいないことは、全く寸分も関連性を持たない。
俺がエロいことに興味津々な超健全男子高校生であるにも関わらず、未だ純潔を保ち、彼女もいないからと言って、俺が哀れな男の子になってしまうことはない。そう、断じて違うのだ。
俺は彼女ができないのではない。つくらないだけなのだ。
おーけい? おわかり?
別に俺がそのことを望みさえすれば、三分クッキングばりの手際の良さで、既に完成したものがこちらになります~♪と、他のモテない野郎どもに可愛い恋人とのいちゃいちゃラブラブ♡を見せつけることだって可能なのだ。
でも俺はそれをしない。あえて、それをしない。あえてだ。
なぜか?
それは、俺が求めているのは、運命の相手だからである。
俺は多様性を重んじる気高い人種であるので、とりあえず何かノリで恋人をつくってきゃっきゃうふふと色気付いている奴らを否定はしない。
否定はしないが、俺が大切な恋人に選ぶのは、運命の赤い糸で結ばれた素敵な女の子をおいて他にいない。
そういう薄っぺらい情欲に身を任せた安易な行いが、時には青春の一ページを刻む素敵な何かになり得ると理解はしていても、俺はそういう勢いだけの波に大切な我が身を投じることはしないのである。内なるリビドーに抗えない哀しくも情けない男の子であったとしても、必要以上に惑わされることはしない。何故なら、それは同時に後悔を生み出す可能性を孕んだ危険な行いだからだ。
一つ例を挙げよう。
俺には、中学生だった時代に仲の良かった一つ下の後輩がいた。名前は田中。純粋真面目でその場の雰囲気に流されやすい健気な男の子である。彼は昨年の冬、中学三年生だった訳だが、つまりそれは高校受験を控えた大切な時期だ。
田中には同じクラスに仲の良い女子がいた。田中と彼女は同じ塾に通い、受験生になってからも話す機会は多かった。そしてある日、受験勉強に追い込みをかけるべき秋、田中は彼女に告白されたのだ。「わたしたち、付き合ってみよっか」と甘い言葉で誘われたのだ。
田中は悩んだ。
実は、その女の子は特に深い意味を込めて告白したわけじゃなかった。最近なんか田中くんと良い感じだし受験勉強しんどいから息抜きするためのカレシ欲しいし何かそういうノリになっちゃったからとりあえず告白してみただけなのだ、その女の子は。
しかし真面目な田中は悩んだ。真剣に悩んだ。勉強が大切なこの時期、色恋に現を抜かすのもどうかと思ったが、自分が告白を断ったせいで、彼女が悲しんで勉強の調子を崩してしまったらどうしようとも思った。
田中は悩んだ。
そして一番の悩み所として、実は田中はずっと前からその女の子のことが気になっていたのだった。
比較的大人しく異性との交流が少ない自分に親しげに話しかけてくれるその女の子のことが気になって仕方なかった。健気だ。泣ける。当時の田中に今声をかけてあげられるなら優しい声でこう言ってやりたい。その女の子は別に田中だから優しくしていた訳じゃないんだよ、と。
まぁ結果として、その場の雰囲気に流されやすい田中は告白をOKし、晴れて初めての恋人を手に入れたのである。
田中は嬉しかった。
毎日を悶々と過ごした。勉強より、彼女のことばかり考えてしまった。彼女といちゃいちゃしている時、田中はこれ以上なく幸せいっぱいだった。
結果、田中は受験に失敗し、同じ高校に行こうね♡と彼女と約束していた高校に行くことはできなかった。ちなみにその女の子は受かった。
あまりに悲しすぎる結末なので明記するのは憚られるが、ここまで語ってしまった以上責任をもって言わせてもらおう。
そして、田中はフラれた。
理由は違う学校に通うことになるし会う時間減りそうだから、というのは建前で、実際はその女の子が田中との付き合いに飽きたからである。酷すぎる話だ。あまりにも酷い。
俺が当時の田中の心情を知っているのは、その時、田中に色々相談されたからである。
田中の話の内容は、相談とは名ばかりの自慢と惚気じみたものだったが、俺は寛大な良き先輩だったので耐えた。
当時、絶対に勉強に集中した方がいい女のことは忘れろと忠告したのも別に嫉妬じゃない。……嫉妬じゃない。
結果的に田中は女を選んだわけだが。じゃあ相談なんてしてくるんじゃねえよぶっとばすぞ!? 彼女がいない俺に彼女ができたことを自慢したかっただけか!?
おっと失礼。別に田中が悪い訳じゃない。むしろ田中には同情している。内なるリビドーに抗えない男の性と男を弄ぶ女が悪い。
また、なぜ俺が当時の田中の彼女の心情まで知っているかについては、ひとまず置いておこう。
さて、話を戻す。
例に挙げた話からも分かる通り、一時の欲やその場の雰囲気に流されて色恋に身をやつすのは、取り返しのつかない危険を生む可能性を孕んだ行いという訳である。
だから俺が恋人に選ぶのは、運命の相手ということになるのだ。
俺の運命の相手であるその娘は、何から何まで俺と気が合って、相性抜群であるのは当然のこと、とても可愛く気立ても良い、天使のような人物である。
顔も良く背も高く運動神経も良く、勉強も出来て、極めて高度な思考レベルを持つこの俺に相応しい、そういう素敵な女の子なのだ。
故に、再び彼女と運命の出会いを果たすまで、俺は裏ルートで手に入れたエロ本のほか、高度に発展したネット社会に生まれ落ちたアドバンテージを駆使し、ネットの大海に散らばるありとあらゆるエロ概念をサルベージしながら、いずれ来たる運命の赤い糸で結ばれた女の子との甘く崇高な愛に満ちたいちゃらぶを予習すると共に、内なるリビドーを発散する日々を送っている訳だ。
だから別に俺がモテない訳ではないということだけは、しっかり理解してもらいたい。
「だから、そういうことなんだよ」
「……だから、何が?」
俺を呆れたように見ていた光希が、増々残念なものを見るような目線を俺に向けた。
現在の状況を説明しよう。
正午過ぎ、午前の授業課程を終え、昼休み、場所は新校舎の屋上。
我が白花高校は屋上が開放されており、背の高いフェンスに囲まれ、木製のベンチやイス付きのテーブルが設置されたこの空間は、生徒たちの憩いの場となっている。花壇に咲いた花々も飾られており、中々良い雰囲気である。
俺と光希は、そんな屋上の隅にあるベンチに並んで腰かけ、購買で買って来た総菜パンをかじっていた。
俺は焼きそばパンの最後の一口を呑み込んで、少し困ったように俺を見ている光希に言った。
「だから、まぁ簡単に言うと、俺に彼女がいないのは、別に俺に魅力がないからとか、そういうことじゃないってことだよ。俺はあえて彼女をつくらないんだ。な、そうだろ?」
「えっと、なんというか、……確かに王子くんは、すごく魅力のある男子だと思うよ、ボクは。王子くんに彼女ができないのは、別に王子くんが悪い訳じゃなくて」
「気休めやお世辞はいいんだよ! お前みたいな魅力満点の完璧イケメンにそんなこと言われても情けなくてへこむだけだわ! あと王子って呼ぶんじゃねえぇッ! 別に呼んでもいいけど王子くんはマジで体がムズムズするからやめてください」
「えぇぇ……なんでボク今怒鳴られたの……。あと、王子く――、王子は王子じゃん」
理不尽だとでも言いたげに、光希が眉をひそめる。こういう顔もいちいちイケメンだ。
ここらで我が校が誇る超イケメン、一条院光希について話そう。
俺は改めて光希の顔をまじまじと見る。すると光希が、「な、なに?」と少し照れたように視線を逸らした。相変わらず男の癖に妙な所で恥ずかしがる奴だ。でも多分こんな仕草を年頃の女の子が見たらキュンキュンしちゃうんじゃないだろうか。イケメンの照れ顔だ。今のワンシーンをビデオに収め、一条院光希ファンクラブの少女たちに売り払ったら大儲けできるだろう。
日本人とフランス人のハーフであることを特徴付ける目鼻立ちのハッキリしたさわやかな顔立ち、青みがかった瞳、明るい色の髪。一八二センチあるらしい高身長。
しなやかな筋肉の備わった細身。どこからどう見てもイケメンであり、顔や体の作りはもちろんのこと、纏う雰囲気そのものが他の追随を許さないイケメンである。ちなみに成績優秀、運動神経抜群だ。
そんな彼の名こそ、一条院光希。名前すらイケメンというのもそうなのだが、注目すべきは一条院という名前である。
なんと、光希の祖父は、現代日本において幅広い事業展開を見せるかの元財閥の大企業グループ――一条院グループの現総帥である。光希はその直系の孫ということになる。
もう何から何まで普通じゃない完璧イケメンなのだ、この一条院光希という男は。
俺も、男子高校生にしては我ながら中々高スペックだと自負しているが、この男には、唯一俺の高尚な思考レベルを除き、その他一切に置いて負けを認めざるを得ない。
俺が光希と出会ったのは、高校に入学してからだ。もう一年以上の付き合いになる。
一条院光希は日本で生まれ、小学校の低学年のあたりまでは日本で暮らしていた。しかしその後、父親の仕事の都合で海外に住むようになった、らしい。
そして一昨年の春、白花高校に入学すると同時に日本へ帰ってきた。つまり帰国子女、という訳である。
一条院光希は、そんなウルトラスペックを有しているにも関わらず、秀でた自分に驕ることはない。かといって、謙虚過ぎて嫌味になるということもなく、誰にでも分け隔てなく接し、時に優しく、時にさりげなく、時にさわやかで、時にクールである。
なぜ、彼のように超非凡な人物が、いくら地元ではそこそこ有名な学校とは言え、一般庶民も通うような白花高校に入学してきたのかは、白花高校七不思議の一つに数えられる。
そこから導かれる当然の結果として、一条院光希は学校の中でも知らぬ者などいないレベルの有名人だ。
いつの間にか定着していた彼のあだ名は、『白花の
その名が示すように、一条院光希は学校の女子たちの憧れの的である。
学校のどこに行くにしても「王子様、王子様」と黄色い声で呼ばれ、日々熱烈な視線を集めている。嘘か誠か、ウチの学校の女子たちの約四割が一条院光希ファンクラブに所属しているという噂もある。ほんとかよ。
だが、実際に今この瞬間も、屋上にいる女の子たちが、チラチラこちらを――というか光希を熱い目線で見ているのが分かる。
端的に言って、光希はトンデモナイ奴である。
少女漫画に出てくるヒーローだって、もう少し慎み深いと思う。
そして、今もこうして共に昼食を取っているように、そんな彼は俺の友人である。
友人の中でも、彼とは際立って一緒にいることが多い気がする。純粋に俺の友達が少ないとも言える。
光希はとても良い奴で、どれくらい良い奴かと言うと、ひねくれ過ぎてねじ切れるレベルまでこじらせてしまった俺みたいな奴を相手にしていても、ひねくれることなく友達を続けてくれる程には良い奴である――と、『漫研の魔物』と呼ばれる俺の知り合いはそう述べる。
が、しかし、俺に言わせればソイツこそ相当にひねくれこじらせているので、あまり参考になる証言ではない。第一、俺はそこまでひねくれていない。
ともかく、光希はとても良い奴で、俺とも何かと気が合う。趣味が被っているとかそういう訳でもないのだが、一緒に居るのが色々と気楽で、話しやすい。
そんな光希ではあるが、完璧すぎる奴であるが故に、いつも一緒にいる俺が、彼と比較されてしまうという弊害が生まれる。
光希は何一つ悪くないのだが、異次元スペックを有する彼と比較され続けることで、本来高スペックであるはずの俺が、『白花の王子様』こと一条院光希のオマケみたいな扱いをされている。「なんかあの冴えない男、いつも光希さまの近くにいるよね?笑」的な。
オマケというか、もはやネタキャラ扱いである。俺が冴えないのではなく、光希が冴えすぎているだけということを理解してない奴が多すぎる。有象無象のバカ共め……。
あと、俺がネタキャラ扱いされるのには、もう一つ大きな要因がある。
俺の本名は、『
もう一度言おうか、ホシノ、オウジだ。そう、ホシノオウジだ。
最後に『様』を付けると完全にあの名作になってしまう。かの作品を馬鹿にするとかそういう話ではなく、俺の名前を聞いた奴はまず笑う。
まぁ、俺だって多分そんなユニークネームを持つ奴が目の前に現れたら笑うと思う。過去、俺の名前を聞いて変な顔をしなかったのは一人だけだ。
分かるか? 何だこの名前は。
こんな名前を子供に付ける親の顔が見てみたいと言いたいところだが、幼い頃から両親の顔は見続けてきているのでもう見たくない。
俺の両親は、決して悪い人たちではないが、というか間違いなく善人だが、割と笑えないレベルでの天然を頻発させ、お互い呑気に笑い合っているのを見た俺と妹が、このままではこの家は滅ぶと危機感を覚えるレベルの天然夫婦である。
まだ笑えるレベルの例を一つ挙げると、犬の散歩に行くと言いながら愛犬を置いて二人でデートを楽しんできたことが何度かある。一度じゃない。悪気ゼロな所がマジで怖い。素で忘れているのだ。
そういう時、星野家の愛犬たる豆柴のムギは、玄関で寂しくお座りしている。哀愁すら漂っている。そして俺か妹が散歩に連れて行く。
あと銀行の通帳が行方不明になって大騒ぎになり、一家大捜索に発展した結果、冷凍庫で通帳が冷え冷えになっていたこともある。
買い物と銀行に行って帰って来た母がアイスと一緒に入れたらしい。母と父は笑っていた。俺と妹は笑うしかなかった。
そんな両親のお陰で俺と妹はしっかり者に成長し、うちの家庭はいつも笑いが絶えない。
閑話休題。
そんな訳で、俺は名前からしてもうネタキャラなのだが、ホンモノの学園の王子様である光希と比較されることにより、そのネタレベルが加速度的に大きくなるのだ。
光希の学校での異名が『白花の王子様』であるのに対し、俺の異名が『星の王子様(笑)』である。(笑)を忘れてはいけない。
俺はまぁいいが(よくないけど)、フランス人に謝って来いよお前ら? フランスパンで殴り飛ばされても知らねえからな。
「つまり何が言いたいかと言うと、光希は滅茶苦茶ハイスペックなイケメンで、滅茶苦茶良い奴で、俺の大切な友達、ということになる」
「……今日の王子、大丈夫?」
残念な奴を見る目だった王子の顔が、心配するような表情に変わる。しかし、若干戸惑いつつも、俺に素直に褒められたことで、照れているようでもある。素直な奴だ。
「まぁ、王子がおかしいのはいつものことか」
ふと、納得したように頷く光希。納得されてしまった。
その時、俺が二つ目のパンの包袋を破ろうとしていると、スマホが震えた。
スマホを取り出して画面を確認すると、ラインが届いていた。
送ってきたのは
『先輩、いまどこですか?』
俺は顔をしかめる。ついつい既読を付けてしまったので無視する。既読無視だ。
『絶対みてますよね?』『ちゃんと昨日のこと覚えてますよね?』
無視する。今度は未読無視。
その後もスマホは鳴り続ける。『まぁ別にわたしはいいんですけどね』
「王子、何か来てるけどいいの?」
「いいんだ」
バイブレーションと共に鳴り続ける俺のスマホ。もう電源を切ろう。
『先輩が約束を破るっていうなら』『わたしにも考えがありますし』『約束を破るような先輩は』『わたしが何しても文句言えませんよね』
「…………」
電源を切ろうとしていた俺の手が止まる。
『わたしを泣かせた責任だけは』『とってもらいますよ』『絶対に』
「……」
スマホが震え、俺の手も震える。何コイツ怖い。
『今ゆきちゃんが隣にいるんですけど』
ゆきちゃんとは、俺の妹のことだ。妹もこの白花高校に通っている。
俺の妹、星野
白雪という名前も、そこそこインパクトが強いが、王子には遠く及ばない。
名前の由来が白雪姫から来ていることは明白だが、なぜそこを捻ることができたのに、俺にはドストレートに王子と名付けてしまったのか、あの天然ペアレンツは……。
『きのうのこと』『ゆきちゃんに話したくなってきました』
「……」
『わたしはきのう先輩にひどいこといわれて泣かされて』
『おーけいわかった』
俺は諦めることにした。勝てる気がしない。あの性悪後輩め……。
『今屋上で光希と飯食ってくるから、よかったら千花も一緒に食べないか?』『白雪を連れてきてもいいぞ♪』
『いえ』『ゆきちゃんは他の子と一緒に食べるらしいので』『わたしだけ行きますね♡』
そして、「GOGO!」と腕を突き出している可愛らしくデフォルメされたネコのスタンプが送られてくる。
俺はため息を吐いて、光希に言った。
「すまん光希、後輩が一緒に飯食いたいらしくて、今からここに来るわ」
「あぁうん、いいよ。後輩って言うのは、部活の後輩とか?」
「いや……、なんというか、あえて説明するなら……妹の友達」
「え、も、もしかして女の子?」
俺は頷く。光希は目を丸くして、驚いていた。俺に女の子の知り合いがいるのがそんなにおかしいか。
しかし、別に彼女も俺に会いに来る訳じゃない。光希に会いに来るのだ。
俺はげんなりした気持ちで、昨日の放課後のことを思い出す。
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