美しき名探偵と放課後のお茶会
白兎追
第1話
「絶対に許せない。和也の奴」
S市立西の丸小学校5年2組のなかでも、読書が趣味の比較的おとなしい性格で知られる葛城あきらだったが、この日の学校からの帰り道に限ってはかなり息巻いていた。
「ホント。和也君があんな奴だなんて」
そう答えたのは並んで歩く山崎アキ。あきらの同級生にして学区内一の資産家の娘であり、普段の雰囲気は清楚なお嬢様そのものだ。だがこちらも表情は憤懣やるかたないといった感じだ。
「お二人さん、随分荒れてるわね」
突然呼びかけられて二人が振り返ると、絶世の美女が一人立っていた。買い物袋片手という、いささか庶民的な格好ではあったが。
「「ネイレ!」」
二人はすぐに駆け寄った。
どこからどう見ても日本人であるネイレの本名が何なのか、家がどこなのか、仕事は何をしているのかについて、町の人達も親や学校の先生達も誰も知らない。いつの間にか町に来ていたのだ。ただ確かなのは絹のような髪に透き通るような肌をした、恐ろしいほどの美貌の持ち主だということ。そして町の子供達みんなに好かれているということだった。
「二人とも、せっかくの素敵なお顔がしかめっ面で台無しよ。何かよほどの難事件でも抱えてるのかしら?」
あきらとアキは顔を見合わせた。
ネイレはその美貌だけでなく頭脳の点でもずば抜けていた。これまでにいくつもの難事件を解決してきた名探偵なのだ。その点については町の大人達も認めている。
あるいは彼女なら最高の仕返し方法を教えてくれるかも。あきらはアキに目配せした。アキもすぐにピンときたようだ。
「ネイレ、実は聞いてほしいことがあるの」
「あら、じゃあそこにある図書館のカフェで話を聞こうじゃないの」
まるで喪服のような真っ黒のワンピースを翻し、軽やかなウェーブのかかったセミロングの髪を揺らすと、ネイレはさっさと図書館の方へと向かっていった。
ネイレが奢ってくれたメロンソーダフロートを前に、二人はさっそく和也について話はじめた。和也のことは二人とも友達だと思っていたこと。その和也がしたこと。二人がなぜ怒っているのか。そしてどうしたら和也に仕返しできるか、ネイレの意見を聞きたいということ。
「なるほど。確かに二人が怒るのも無理ないわね」
「でしょ。ネイレなら最高の仕返しの方法を教えてくれるかと思って」
「それじゃあ、ちょっと昔話をするわね。それを参考にしてくれるかしら?」
「いいよ、もちろん」
「まだ、私が子供だった頃にね……」
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