第28話 オレの小説をさらに書き継ぐゾ
「…暗黒魔王・メシスの若き日に受けたトラウマ、それは何だったのであろうか?何であれ、そのために彼は森羅万象の全てを憎み、生きとし生けるものすべてを闇に葬り去ろうという宿願を抱くに至ったのだ。けして素顔を見せない、醜い男、メシス。その醜さゆえに、手ひどく女にでもフラれたのであろうか?」…
そこまで書いて、おれは書き悩んだ。だいたいが全く腹案を持たずに書き始めるので、いったん筆が止まると、なんだかいろいろ悩んでしまうのだ。おれには、厄介な幻聴もどきという持病があって、渡辺淳一さんも「鈍感力」という本の中でこの幻聴もどきを普遍的な現象みたいに取り上げていた。なぜ、幻聴が「普遍的な現象」なのかの説明はされていない。そこが現代社会とおれとの厄介な確執というか、軋轢のよって来たるゆえんで…しかしまあ、それもおいおい取り上げる予定ではある。
幻聴もどきと格闘しながら小説を書くのはずいぶん骨というか、気骨を損なうような大変なことではあるが、そういう大変さは、渡辺さんの言っていることにウソがないなら、耳の敏感な、神経の繊細な人にとっては、少し細かいような作業、注意の集中の必要な作業は、すべて困難事であるはずなのだ。
自分だけの不幸と思わず、人類全体への等しい受難?そう思って、頑張ろうとは思う…
「メシスの消息に詳しい、ある老人によれば、そのトラウマには彼の母親が関係しているという。彼は、生涯にわたって、母親とのアンビバレントな関係に悩んでいた。母親は彼のことを愛してはいた。表面的には愛していると思い込んでいた。が、様々な事情で、その愛情は屈折していて、メシスと母親の間には越えがたい溝と、葛藤が生じていた。彼は若いころから努力家であり、そうした葛藤を自分の努力で乗り越えられるという信念を持っていて、実際に乗り越えつつあった。が、その矢先に、母親は何者かによって誘拐されて、行方知れずになってしまったのだ。メシスは半狂乱になって母親を探し求めたが、その所在は杳として知れずじまいだった。母親を奪われ、理不尽に無力で無能な、肉親の危機においても何もなしえない人物という境遇に置かされるに至って、彼の中で何かが弾けた。「怒り」、やりきれないこの世のすべてのものへの「怒り」が、彼の全存在を侵食したのだ。ただ、されるがままに甘んじていれば、すべてを奪われる。要するに「食うか食われるか」それがすべてだ!
身に染みて、この世の摂理というものを、彼は思い知らされ、あるいはそう思い込まされて、截然として、彼は「力の信奉者」、「殺戮者」そのものへと豹変したのだ!
もう後戻りはできない。
メシス、それは復讐の女神・ネメシスから命名したものだった。
母親を奪ったこの全世界というものを、彼は「極限まで破壊し尽くしてやる」!そう心に誓ったのだった…」
<続く>
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