第46話 早とちり

「リ、リーナ様? これは一体、どういう、きゃっ!?」

「ラーズ。彼女から目を離さないでください」

「畏まりました。ゼニーヌ、後ろを向いて壁に手をつくんだ。早く」


 二人のやり取りを背後に部屋の中を横切る。先程ゼニーヌが見られたくなさそうに視線を向けた先、構造的にこちらにあるのは……寝室?


 酷く嫌な予感がした。


 ピピナもいることだし、大丈夫だとは思うのだけど。


 私は剣を抜き放つとそのままドアを切り刻んで中へと突入する。


「おい、何があっーーうぉおお!? リ、リーナ様?」

「貴方は……ロドさん?」


 ゼニーヌの寝室にいたのは彼女の恋人だった。


「ど、どうしてそんな格好をしているのですか? いえ、やはり説明はいりません」


 ロドさんはベッドの上で全身をロープで縛られており、一見すると緊急事態に見えなくもないが、白いシーツの上に転がる卑猥な道具や、安堵ではなく羞恥を浮かべる彼の表情を見れば、この緊縛が合意のものであることは一目瞭然だった。


「ち、違うんです。姫様。彼を監禁してたとか、そういうんじゃなくて。それは、えっと、それは……」


 隣の部屋から酷く焦った声が飛んでくる。


「監禁? リーナ様、そちらの様子はどうですか? 何か不審な点は……あ、こら。動くんじゃない」

「ラーズ、大丈夫です。離してあげてください」


 私が許可を出すと、泡を食ったゼニーヌが寝室に飛び込んできた。それに続いてラーズも入ってくる。


「ロ、ロド!? これはどういう……」

「後生だ。見ないでくれ」

「えっと、その、これは決して危険な行為ではなくてですね。単に私達の性的嗜好がマイノリティといいますか、なんというか……えっと、ええっと~」


 顔を真っ赤にする二人を前にすると、少しばかりの罪悪感が込み上げてくる。


「いえ、こちらこそすみませんでした。どうやら早とちりをしてしまったようで」 


 フローナとピピナがどこに行ったのかは気になるところではあるけれど、少なくともここにはいないようだ。


「ラーズ、私達は退散しまーー」

「リーナ!!」

「え?」


 ドンっ、と押しのけられた。


 誰に? ラーズに。そしてラーズの胸には短剣がーー


「ラーズ!!」

「チッ。邪魔よ。このボケ!」


 本性を表した魔女がラーズを殴り飛ばす。胸を短剣で貫かれた彼は抗うことも出来ずに吹き飛ばされた。


「ゼニーヌ!!」


 驚愕。焦燥。混乱。あらゆる感情を捨て、今はただ魔女を切るべく剣を振り上げる。そんな私を見て魔女の口角が歪に釣り上がった。同時に背後から膨れ上がる殺気。私の後ろにはロドさんがいたはずだ。彼も仲間? その可能性が高い。なのにゼニーヌを切ることに囚われてしまい、不意打ちを許してしまった。


 ダメだ。今からでは間に合わなーー


「サンダーショット」


 紫電が走り、踏み潰されたカエルのような声が聞こえてくる。


「なっ!? どうやって脱出を?」

「はぁあああ!!」


 フローナの登場に驚愕する魔女へと、私は刃を振り下ろした。

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