第29話 予想外
まずいな。まさかこんな事態になるとは。
換金所への道を歩きながら、ついため息が溢れてしまう。これは完全な想定外だ。流石の俺も少し参ってしまう。
「早くも草取りに飽きてきた」
長い時を生きて、結構気長になった自覚があるのだが、まさか十年どころか一ヶ月も経たないうちにやめたくなるとは、草取り、恐るべし。
「……あいつらを鍛えてる時は全然退屈しなかったのにな」
この違いは一体何なのか、不思議に思いつつも俺は薬草を詰め込んだ袋を背に換金所へと入る。
「おう。兄ちゃん。調子はどうだい」
「こんな感じだ」
カウンターに乗った袋を見て、換金所の親父ーーゲンダは下手くそな口笛を吹いた。
「やるじゃねーか。どうやらマジで穴場を見つけたみたいだな。兄ちゃんこの国初めてだろう? それがまぁ、よくこれだけの量を連日。今の場所、誰にも教えちゃいけねぇよ」
「……ああ」
教えるも何も単に草がありそうな場所までジャンプしているだけなのだが……。喋ったところでどうってことない気はするが、昔と違い人の社会に混じってもう結構な時間を過ごしている。人間が些細なことで大騒ぎする生き物ということは学習済みだ。この街をしばらくの拠点にする以上、余計なことは言わないほうがいいだろう。
「ほらよ。代金だ。それとウケナの奴から兄ちゃんが顔を見せたらギルドに来るよう言付かってるぜ」
「ウケナ?」
「兄ちゃんがここのギルドに初めて来た時に受付を担当した女だ。何でも兄ちゃんに会いたがってる奴がいるんだとよ」
「俺に?」
闘い以外の娯楽を探し始めてからは人間ともそれなりに交流してきた。だがこの大陸に来てから日も浅く、わざわざ俺に会いたがる奴など片手の指程もいない。
必然、リーナ達三人の顔が浮かぶ。
「おい、兄ちゃん。まさか女との待ち合わせにギルド使ってるんじゃないだろうな」
「……何でそう思う?」
「顔に出てたぜ。仕事以外でギルドの連絡網使ってると上に睨まれるから気をつけるんだな。ほら、行った。行った」
シッ、シッと追い払うように手を振るゲンダ。何はともあれ、ギルドへ向かうことにする。
もしもリーナ達ならどんな用事だろうか? 契約は既に終了しているが、あいつらが新たに契約を結びたいというのならば断る理由はない。
「……いや、待てよ?」
もしかしたら魔術紋の位置についての苦情かもしれない。だとしたら少し困る。紋を解除することは不可能ではないが、込めたエネルギーを考えると心身への負担が大きくなるのであまりお勧めはしない。同じ理由で位置を変えるのもやめておいたほうがいいだろう。だがそう言って納得するだろうか?
「まっ。会ってから考えるか」
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