第18話 気配
廃墟の教会は思ったよりもずっと植物ハウスだった。
「ツキノ草以外もあるな。リッチの魔力の影響か?」
動物、植物に関わらず魔力種と呼ばれる魔力を含有した種は魔力が豊富な土地に生まれやすい。あのリッチがどれだけここにいるのかは分からないが無関係ということはないだろう。
「へっ。この程度で俺をやれたと思ったのかよ?」
「ゴラルド、大丈夫なんですの?」
「ああ。だが……そろそろ終わらせようぜ」
大剣を持った男から溢れる血液が床を赤く染めていく。
「ッ!? ……そうですわね。サクッとやってしまいましょう。二人も、いいですわね」
「それしかないじゃろうな」
「神様どうか我々をお助けください。全員が無理なら私だけでもお助けください」
袋に詰めた薬草を確認する。結構集まったな。これだけあれば飯代には十分だろう。
「ほう。くるか。カラカラ。よかろう。受けて立つ」
爆風が教会全体を揺らした。
「さて、帰るか」
薬草にかけていた結界を解除する。この様子ではここの薬草は全滅しそうだが、その時はまた適当な場所を探せばいい。
「どうした? その程度か? それなら次はこちらの番だな。闇の散弾に撃ち抜かれろ。『ダーク•シャワー』」
リッチの放った魔術が教会の至る所に着弾する。俺はこっちに飛んできたそれを適当に手で払った。
「ってか、長いな」
リッチ一匹に何をそんなに時間をかけているのだろうか?
「光よ、闇を祓いなさい。『ホーリーシャワー』」
「我が剣の冴えを見せてあげますわ。『四連・月ノ斬撃』」
「うぉおおおお!!」
「魔術の奥義を喰らうが良い。『黒ノ煉獄』」
人間達の決死の攻撃をリッチは余裕をもって防ぐ。
「効かん! 効かんな!! カラカラ。カラカラ。所詮は人間、死に怯える生者の技よ」
なんか負けそうだな。
四人の攻撃は人間の基準で見れば悪くないが、どうもあのリッチは魔物の基準でそこそこの強者のようだ。正直なところ袋一杯にしたこの草を持ち帰るよりもあのリッチを倒した方が金になる気がする。
「……横取り禁止だったか?」
確か後からきて他の冒険者の獲物を横通りするのはご法度とかギルドで聞いた気がする。
ん? なら今の俺の行為は大丈夫なのか?
袋に入った草を見る。
いやいや。コイツらの狙いはこのリッチのようだから、これはセーフだろう。だがまぁ念の為、聞くだけ聞いておくか。
「おい。この草、持って帰ってもいいか?」
「今のが貴様らが放てる最大の攻撃か? カラカラ。カラカラ。人間にしては頑張った。褒美に静かなる終焉を与えよう。訪れよ闇。『ダークブラインド」」
「なっ!? なんですのこれは? 何も見えませんわよ?」
「範囲魔術!? これほどの規模を一瞬で? 降参。降参して命乞いしましょう。そうしたらワンチャン助けてもらえるかも」
「クリスティナがパニック起こしたってことは、マジでやばくなってきやがった」
「なーに。こんなもの。若い頃のピンチに比べたら何でもないわい」
リッチが周囲を暗くしたせいで、俺の質問がスルーされてしまった。
「あっ。いや、違うか。気配消したままだった」
これならスルーされても仕方ない。
俺はアイツらでも認識できるよう、気配を消すのをやめる。
「よし。これでーー」
「さぁ、教えてやろう人間共。真の絶望というものを」
せっかく止まっていた戦いが再開された。どいつもコイツも忙しそうで話なんて聞いてくれそうもない。
「あ~……帰るか」
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