第17話 教会内
「まったく、商人や冒険者の失踪の犯人がこんな怪物だったとは。事前調査を担当したのは何処の間抜けですの?」
ウェーブのかかった黒髪の女が憎々しげに呟く。
「熱くなるなラーシャ。ここは一旦引くぞ。殿は俺がやる」
大剣を持った男が目の前のリッチから目を離さずにそう言った。
「この私が真っ先に逃げるわけがないでしょう。引くなら貴方達が先ですわ」
「本当ですか? それではお先に失礼します」
「ちょっ、おい。クリスティナ! 逃げるのはいいがラーシャも連れてけ」
「三人とも集中せい。くるぞ」
リッチに魔力が収束するのを見て、三人が慌てて身構える。残りの一人、ギルドで最初に俺に話しかけてきた栗色の髪の女は仲間を置いてダッシュで逃げようとするがーー
「闇よ全てを飲みせ。『ダークホール』」
「炎よ、原初の光を灯せ! 『始源•炎星』」
リッチの放った闇と魔術師の放った炎がぶつかって起きた爆発に吹き飛ばされた。
「きゃあああ!?」
「ちっ」
咄嗟に俺は魔術を使って爆風から教会内に生えているツキノ草を守る。
「ぷぎゃあああ!?」
女が教会の壁に顔から思いっきりぶつかった。
「ううっ。楽な仕事だと思ったのに、なぜ私がこんな目に。でもこれで逃げ……あ、あれ? どうして?」
廃墟だけあって教会の壁はボロボロで所々空いた穴から外が見えるくらいだ。クリスティナも壁を壊して逃げようとしたのだろうが、どれだけ女の細腕に魔力を込めて叩いても、今にも崩れそうな廃墟の境界はびくともしなかった。
「カッカッカ。この儂の貴重な時間を奪っておいて逃げられるとでも?」
「爺さん、これは?」
「魔力密度による結界か、あるいは空間隔離か。獲物を追い詰めたつもりで、その実誘い込まれたのは儂らの方みたいじゃな」
「逃げられないって、そ、それは困ります! 私、すっごく困ります」
「落ち着きなさいな。結局、こいつを倒してしまえばいいだけの話ですわ」
黒髪の女が不敵な笑みを浮かべる。
「爺さん?」
「流石にこの状況で結界を破ることはできん」
「なら仕方ねーか。オラ、クリスティナ。いい加減腹を決めろ。死にたくなきゃ勝つしかないぞ」
「わ、分りました。私、まだまだやりたいことだらけなんです。だからリッチさん。私のために死んでください」
四人が見せる決死の表情を前に、リッチが骨と骨をぶつけあってカラカラと笑う。
「いいぞ。最近の冒険者は骨のない奴らばかりと思っていたが、お主ら、なかなか良いぞ」
「骨しかないやつが次期剣聖である私に偉そうな口を聞くんじゃありませんわ」
「うぉおおお!!」
黒髪の女と大剣を持った男がリッチへと切り掛かり、魔術師の二人が魔術で援護する。中々の連携。それを前にリッチがしつこく骨を鳴らした。
「全力を尽くすがいい定命の者たちよ。その果てに死を超越した者のみが辿り着ける魔術の心奥を見せてやろう」
そうして激化する争い。不毛なそれから薬草を守り切る自信はあるが、終わるまで待つのも面倒だ。
「そんなわけで邪魔するぞ」
リッチが張っている結界に穴を開けて、真面目に戦っている先客の邪魔にならないよう、気配を消してこっそりと教会に入る。
「ぐおお!?」
「ゴラルドさん!? くっ、よくも!」
「カラカラ。カラカラ。どうした? 動きが鈍くなっておるぞ」
喧騒の中、俺は黙々と薬草を集めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます