第2話 方針
さて、これからどうするか。
この数年はリーナ達をどう鍛えるかで行動を決めていたから、それが急になくなると方針に悩む。元々この大陸にやって来たのは戦い以外の娯楽を学ぼうと思ったからだ。しかし中々上手くいかない。ならばまた敵でも探すか?
「……いや、そんな気分にはならないな」
かつてはただ強者との闘争だけを求めた。戦い、打ち負かし、相手の血も肉も魂でさえも喰らい、全てを我が物とする。それこそが生きる目的であり、最高の娯楽だった。なのに今はあの時の熱狂が遥か遠い。
「リーナ達を鍛えるのは意外と面白かったし、また誰か育ててみる……か? でもその誰かを探すのが面倒だな。ならどうするか。あ~……ソロで冒険者でもやってみるか?」
この大陸の人間としてグロウ・レバナンになり、冒険者になったのはいいものの活動をほとんどしない内にリーナ達と出会ったので、ソロで冒険者活動をした経験が殆どない。
「そうだな。それで行くか」
他にやりたいことも特にないし。
そんなわけで目先の方針が決まった。次は活動の拠点となる場所をどこにするかだが。
「今いる国が確か中立国ダイアイラで、北に剣王国と魔帝国とかいうデカい国があるんだったか?」
そしてその二つに挟まれる形で小国がいくつかあったはずだ。
「一先ずそのあたりを目指してみるか」
別にこの国で活動を続けてもいいが、リーナ達が近くにいるとどうしても気にかけてしまう。報酬をもらった夜にセンベツを一つ渡しておいたし、今のあいつらなら不測の事態に陥っても、そう簡単には死なないだろう。
「……じゃあな。いい人生を送れよ」
届くことのない言葉を置き土産に俺は大地を踏み砕いた。跳躍。思ったよりも地面が派手に陥没してしまったが、人気のない森の中だったし問題ないだろう。
「さて、どこに着地するかな」
魔力で推進力を獲得。適当に宙を移動しながら拠点となる国を探す。少しばかし進んだ先でーー
「結界か?」
ドーム状に広がる魔力の放射を感知した。街をすっぽりと囲む規模。人間が作ったにしては中々だ。
「ならあそこが剣王国、あるいは魔帝国か」
空を飛ぶ魔物などを警戒した感知系の結界のようだし、別に無視しても構わないが、人間として活動している以上、意味もなく人間を挑発する必要もないだろう。
「この辺りで一旦降りるか……ん? あれは」
眼下では貴族が乗ってそうな馬車が黒装束で顔を隠した賊に襲われていた。
「取り込み中か。面倒だが着地はもう少し移動してからにーー」
師匠! 人が襲われてるよ。助けに行かなきゃ。
騒ぎ立てるピピナの姿が脳内で再生される。もしもこの場にいたら絶対同じことを言っただろう。
「正直、あんまり人助けって気分ではないんだがな」
迷っていると、今度は何も言わずに人助けに飛び出すリーナとそんな彼女を守るように追従するフローナの姿まで思い浮かんできた。
「……はぁ。まぁ別にこれくらい良いか」
教え子達にすっかりと影響されてしまった自分に呆れつつも、俺は馬車のすぐ近くへと着地した。
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