第3話 生首 1
廊下の周りは和室のふすまが取り囲んでいた。さすがに、勝手にふすまを開けるわけにはいかなかった。私はどんどん廊下を進んだ。廊下には重ぐるしい雰囲気があった。何となく雰囲気に圧倒されて、みんな無言だった。
それにしても長い廊下ね。いったいどこまで続いているんだろう。
しかし、番組的にもいつまでも無言でいるわけにはいかない。そろそろ視聴者も飽きてきているだろう。廊下はまだ先に続いていたが、私は適当なところで立ち止まった。そして、横のふすまに手をかけた。
カメラの伊藤さんが寄ってきて、すかさず私をアップで撮る。私は少し黄色い声を出して笑顔で言った。
「素晴らしいお宅ですね。こんな見事な廊下は初めてです。皆さん、素晴らしい廊下をご堪能いただけましたか? では、ここで思い切って、お部屋を探検させていただきましょう。お部屋、たんけ~ん」
私はふすまを開けた。大きな部屋だった。20畳ぐらいはある畳の部屋だ。私を先頭に全員が部屋の中にぞろぞろと入っていった。しかし、薄暗かった。明かりがついていないのだ。私は壁を探った。すると、スイッチが手に触れた。私はスイッチを押し下げた。
パッと明かりがついた。明かりの中に浮かび上がったのは、赤茶けた畳の色だった。ずいぶん古い畳だ。それにしても何もない部屋だった。部屋の奥に床の間があった。しかし、掛け軸も何もなかった。何か丸いものがポツンと置いてあるだけだった。それは何だか花瓶のように見えた。
何もないお部屋ねえ。これでは、レポートのしようがないわ。仕方ないわねえ。
私はやむなく石頭教授の方を向いた。そして、無理やり話題を教授に振った。
「教授。あの花瓶は高級そうですねえ。どこで焼かれたものでしょうか?」
石頭教授が舌打ちをした。小声で言った。
「わしは花瓶なんか知らんがな」
それでも、何もしないのはテレビ的にまずいと思ったのだろう。教授は床の間の前まで歩いて行って、花瓶を胸のところまで持ち上げた。
「これは信楽焼ですな」
そう言うと、教授は花瓶を持ったまま、こちらを振り向いた。
誰もが息をのんだ。教授の手の中にあったのは花瓶ではなかった。女の生首だった。白い顔に長い黒髪がまとわりついていた。床の間では女は背中を向いた形で、後頭部を見せていたのだ。黒色だけが見えていたので、花瓶のように見えたのだった。生首は眼をつむって口を閉じている。ほほのところが少し赤くなっていた。まるで、生きているみたいだ。
教授は自分が待っているのが生首だとは気がつかないようだった。教授が説明を始めた。
「この色と言い、表面のすべすべしたところといい、これは信楽焼の中でも絶品の花瓶で・・」
すると、教授の手の中で、女の眼が開いた。一拍おいて、紗季の声が和室に響いた。教授のでたらめの説明が紗季の声でかき消されてしまった。
「キャー」
今度は生首の女の口が開いた。そこから、真っ赤な舌が伸びてきた。まるで、軟体動物のようにくねくねと中空を動いている。
女の口がさらに大きく開いた。不気味な声が聞こえた。
「ようこそ。この家へ」
また、舌が動いて、女の
それを見て、教授がやっと異変に気付いたようだ。「うわー」と言って、生首を放り投げた。生首がころころと畳を転がって、紗季のミニスカートの下に入った。
「キャー。いやあー」
紗季が驚いて飛び上がった。その瞬間、生首を蹴り上げてしまった。生首はすごい勢いで天井に当たって、ディレクターの元山さんの頭の上に落ちた。元山さんの声が飛んだ。
「うわーあああ」
生首は元山さんの頭に当たった。ちょうど、サッカーのヘディングをしたように、生首は元山さんの頭で跳ねて、今度はスタッフの女の子の足元に落ちた。女の子の叫び声が聞こえた。
「いやあああ」
女の子は恐怖で動けないようだ。ぶるぶると震えたままだ。生首からまた声がした。
「おのれ。私をおもちゃにするか! お前たち、思い知れ!」
首から舌が伸びて、女の子の足に絡みついた。
(第3話 了)
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