痴女なギャルに貢ぐオタク君

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痴女なギャルに貢ぐオタク君


 私はギャルが嫌いだ。

 恋とか愛とか、曖昧で不確かな物も嫌いだ。


「はよー」


 なにが言いたいのかと言うと、見るからにギャルですと言わんばかりの格好をした金髪染めの雪菜ゆきなって女が嫌いってこと。


 クラス内カーストトップの金髪ギャル。スカートはパンツ見えるんじゃないかってぐらい短く、黒いブラと谷間が見えるぐらい胸元を開けた痴女だ。

 無駄に色気を振りまいて、異性を惑わす魔性の女。金を貢げばヤラせるという噂は事実に違いない。


「ねぇ、ゆずる。あーし、このアクセ欲しいんだけどー」

「いいですよ。買っちゃってください」

「んー、あんがと」


 金髪ビッチのたかりに快く応えたのは、整髪剤も付けてない黒髪眼鏡の見るからにオタクって感じの男子生徒だ。いつもスマホを弄ってる根暗野郎。

 傍から見ると、カーストトップのギャルにカースト底辺のオタク君がカツアゲされてる構図だが、ちょっとだけ違う。この二人、付き合ってるのだ。

 つまり、私のだいっきらいなカップルという奴だ。ギャルとオタクが付き合うとか、フィクションだろ。私は信じてない。


「譲のどこが好きかって? んー。優しいところ」


 でったー。褒めるところがない時に出てくる褒め言葉ー。女の優しいなんてイコール都合の良い奴って意味だから。掃除当番交換してくれる奴のことだから。

 つまるところ、この女がオタク君と付き合ってるのも、都合が良いだけってのが証明されたわけだ。


 実際、このオタク君はどこにそんなお金があるのか知らないけど、雪菜にバカみたいに貢いでいる。


『あーし、バッグが欲しい』と言えば即ポチリ。

『あーし、夏物の服買いたいんだけど』と言えば、デートという名の荷物持ち兼財布として付き添う。

『これかーいくない?』とバカみたいにデカくて値段も高いぬいぐるみを見せては、暗に買えと言う。


 結果、雪菜の周囲はブランド品や新しい物で埋め尽くされている。その全てが貢物とか、見るからにこの女の性根を現していた。

 なんでそんなことを知っているかって? 教室でやたらデケー耳に障る声でキィキィ鳴かれたら嫌でも聞こえるっつーの。盗み聞きなんてしてないから。


 口では好き好き言って男に貢がせるギャルと、口だけの好意を鵜呑みにして嬉々として貢ぐ男。

 恋も愛もこの世界に存在しないって、分かりやすい事例だ。恋人という名の奴隷制度に他ならない。


「別に。金なんてなくても譲のこと好きだし」


 はんっ。

 見え透いた嘘だ。金がなくなりゃ搾取関係も終わりだろうに。

 それを聞いていたオタク君はそりゃもう嬉しそうで。キャバ嬢に貢ぐ男そのものだ。

 オタク君じゃなくて、金と付き合ってるだろうにねー。


 そんなギャルとオタクの奴隷カップルの関係が変わる出来事があった。


「……(FXで有り金全部溶かした顔)」


 男が投資に失敗したとかで、有り金全部溶かしたらしい。

 幸い、ればれっじ(?)とかいうのはやってなくって、借金はこさえなかったらしい。けど、これまで通り雪菜に好きな物を買ってやることはできなくなるだろう。


「雪菜ちゃんと別れんじゃね?」

「元々釣り合ってなかったし、そりゃそーだろー」


 当事者が溶けて聞こえないとは言え、良く本人の前でそんなこと言えんな。だからモテねーんだぞ、お前ら。

 とはいえ、クラスのゴミ男共に共感するのは釈だけど、私もまったくもって同意だ。

 金のなくなったオタク君になんの価値があるのか。優しさ? ないわー。

 金の切れ目が縁の切れ目。

 愛を囁いてくれたキャバ嬢は、お前が好きなんじゃなくてお金だったってわけ。

 はー、まったくもって飯ウマ案件ですわー。ごちそうさまでした。

 そんなことを思いながら、一人両手を合わせて南無南無していた私だったけれど、翌日、度肝を抜かれることになる。


「はよー」

「あ、雪菜おはよ――って、どうしたのその髪っ!?」

「んー。染めた」


 雪菜の取り巻き――名前は知らない――が驚いていた。私も驚いた。

 なぜって。


 化粧濃いめの金髪ギャルが、黒髪クール系美少女になっていたからだ。


 これには教室に居たクラスメート全員が驚いて、空気が震えた。

 しかも、学校鞄の代わりに持っていたブランドバッグは普通の学生鞄に変わり、チャラチャラと付けていた宝石の付いた装飾品も残らずなくなっている。

 唯一、残っているのは開けっ広げなおっぱいぐらいだが、え……どうしたの? 父さんが倒産したの?


「なんか、バイトで金髪はダメっつーから」

「え? 雪菜バイト始めたの!?」


 お前、働けたんか……。


「ば、バッグとかは? 一杯あったじゃん!?」

「んー。全部売って譲に渡した」

「はぁあっ!?」


 おいおいおいおい。なに言ってんのお前は。そういうキャラじゃないでしょうよ。映画で良い子ちゃんになるガキ大将じゃないんだから、急なキャラ変は止めていただけません?

 空いた口が塞がんなくなるわ。


「は? 別れてねーし。なんであーしが譲と別れなきゃいけないのよ」


 こっわぁ。

 無神経なチャラ男がオタク君と別れたか聞いてガチ切れされてる。人殺しそうな目付きしてるよ、あれ。


「えー、でもなんか意外。なんで別れないの?」


 金魚の糞がそんなこと質問をする。私もすげー気になるから、耳をそばだてていたら、元金髪ギャル女は当たり前のように言った。


「好きだからに決まってんじゃん」


 おふっ。

 当然のように返す雪菜に、私は致命傷を負いかけた。ピュアかよ……。


 その日、オタク君は学校に来なかった。

 どうやら、雪菜がバッグとかを売ったお金を元手に、投資をしているらしい。適当にやっていた投資を、本気で勉強しているとのことだ。

 また、失敗すんぞと、この時の私は思っていた。けど、ギャルとオタク君カップルの私の予想は、悉く外れてばかりだ。



 その一ヶ月後。

 黒髪クール系美少女は、彼氏が貢いだ高価な装飾品を身に付けた金髪ギャルへと戻っていた。

 オタク君が投資に成功し、再びお金を貢ぎだしたからだ。バイトも直ぐに辞めたそうだ。


「譲ー。あーし、この靴欲しいんだけど」

「はい、好きに買ってください」

「んー。ありがとー」


 表面上は元通り。

 カーストトップの金髪ギャルが、カースト底辺のオタク君に貢がせている奴隷関係。

 けれど、雪菜に対する私の印象は百八十度変わっていた。

 良い女が男を育てるってのはこういうことを言うんだろうか。

 ぽけーっと口を開けて見ていると、不意に雪菜と目が合ってドキリとする。


「なに? 葛ノくずのは

「い、いえ……なんでもないです」

「そ」


 素っ気ない反応。けれど、私は心臓がドキドキして、内心舞い上がっていた。

 私なんかの名前、覚えててくれたんだぁ……。


「格好良いなぁ……」


 私はギャルが好きだ。

 恋も愛も確かに存在して、尊い物だ。


 私の価値観を変えた、大きくも小さな事件だった。

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