第7話:殺したり得る力
ジゼの言葉の意味に気付いた一人の男が声を荒げた。
「てめえ、俺らは人間以下って言いてえのか!? 舐めた真似を!」
「なに!? ええい殺せ!」
「その首をまずは店内に叩き込んでやる!」
男との内の二人が曲刀を抜刀。残る一人が何の躊躇もなくボーガンの矢をジゼへと放った。
「どうやら、お客様ではないようですね。残念です」
ジゼがふわりと上がったスカートの裾から、大振りのダガーを一本抜くと、それで迫る矢を弾いた。
超反射と、ミリ単位を狙える正確無比な斬撃だからこそ出来た芸当だが、彼女をそれをまるで当然とばかりにこなした。
「マジかよ」
「うおおおおお!!」
「しねええええ!!」
突っ込んでくる二人の内、先頭の男のがむしゃらな一撃を最小限の動きで躱すと、ジゼは飛び上がりそのまま顔面に蹴りを叩き込んだ。
「ぼぎゃっ!」
「おらあ!」
蹴られた勢いで吹っ飛んだ男が、飛んできた二本目の矢へと当たり、悲鳴を上げる。
着地したジゼを刈るように男が曲刀を横に払うも、スッと姿勢を低くしてそれを回避したジゼに腕を掴まれてしまう。
「さようなら」
「あ、ちょ、待っ――ぎゃああああ」
ジゼが腕ごと男の身体をブンブンと自分の身体を中心に振り回すと、そのまま手を放した。
「あっ」
ガシャーン! という窓ガラスの割れる音と共に、ジゼは思わず開けてしまった口を手で塞いだ。
そして聞こえてくるのは、男の情けない悲鳴と――
「ジ~ゼ~! てめえ窓ガラスに恨みでもあんのかこら!」
地獄から響くような声と共に、スカーレットが投げ入れられた男の足を掴んで、その身体を引きずりながら外へと出てきた。
「……すみません」
素直に頭を下げたジゼの頭をスカーレットがポカリと叩くと、そのまま引きずっていた男を、唯一この場で無事であるボーガン男へと投げた。
「客じゃねえ奴に用はねえ。帰りな」
「て、てめえ! 〝
男が虚勢を張るが、既に興味を無くしたスカーレットは帰れとばかりに手を払った。
「何組だが知らんが、ケンカを売ってきたのはそっちだろうが。うちの店はな、他人のケンカを代わりに買う店でな。こっちから売るなんてとんでもない」
「お前は何も分かってねえ! ちょっと強いぐらいじゃ、この街では何の意味も為さない! なんせここには神の御
――かはっ」
言葉の途中で、男の頭部が破裂。地面に、銀色に光る小さな何かが刺さり、石畳を割る音が響く。
「っ! ジゼ、下がれ!」
いつになく、緊迫した声を出したスカーレットの言葉に、ジゼは素早く反応する。
「はいっ!」
同時にスカーレットは
本来であれば――物理反射と属性反射を常時展開している彼女に届きうる攻撃は存在しない為、回避の必要性はない。
だが、彼女はその野生の勘ならぬ、元AIの勘とでも言うべきもので、それを回避することを選択した。
それはスカーレットが初めて経験する、計算予測演算出来なかった事象、つまり全くの未知の現象であった。ゆえに、彼女は回避を選択し、そしてそれは正解だった。
「おいおい、嘘だろ」
彼女の足下には、銀色の歪な形をした十字架が突き刺さっており、それには血が付着していた。
「お嬢様! 腕が!」
「かはは……来たか来たか! 待ってたぜこれをよお!」
スカーレットは、
傷は浅いが確かにそれはスカーレットに命中しており、血が流れて出ている。
「理屈は分からねえが、あたしを殺したり得る力がやはりここにはあったか! おら、どうした! もっかい撃ってこいよ!」
スカーレットが嬉しそうに叫ぶが、その後、銀色の十字架が飛んでくることはなかった。
「スカーレット様! 怪我をされたのですか!?」
飛び出てきたレクスが驚愕する。
「怪我をした。そう、あたしは生まれて初めて……
嬉しそうに笑うスカーレットを、レクスとジゼが二人がかりで店の中へと押し込んだ。
「気持ちは分かりますが、今は落ち着いてください! 頭部を狙われたら流石のスカーレット様ひとたまりもありませんぞ!」
レクスがそう叫ぶのを見て、スカーレットが優しい表情で、乱れたレクスの襟を直した。
「大丈夫だ、落ち着け。多分、さっきのは脅しだ。本気で殺す気なら全員死んでいただろうさ。もしくは、連射できない力なのか。いずれにせよ――」
スカーレットがそれはそれは嬉しそうに、これまでレクスもジゼも見た事のないほどの満面の笑みを浮かべ、こう言い放ったのだった。
「神の
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