戦闘代行人スカーレット嬢 ~あまりに強すぎてサービス終了まで不敗だった裏ボス、異世界の貴族令嬢に転生。バトルジャンキーな彼女はその最強の力で戦闘代行業を始め、異世界蹂躙を開始する~
虎戸リア
第1話:【赤の女王】
とあるVRMMOがその日、ひっそりとサービス終了を迎えようとしていた。
理由は様々だが、その一つに――絶対に倒せない裏ボスがいたという理由があった。
その裏ボスの名は【赤の女王】――開発者の傲慢さそして悪意が詰め込まれた、生まれながらの最強である。
「クソ雑魚が。鍛えて出直してきな」
サービス終了までに、一度は倒そうと挑んできたランク一位のギルドを一蹴した彼女が、悪態を付きながら中指を立てる。
燃えるような赤髪の上に王冠を載せた彼女は一見すると見た目麗しい美女だが、その美しい顔には肉食獣を思わせる笑みを浮かべていた。
しかしその内心は穏やかではない。
「……結局、誰もあたしに勝てなかったな。つまらねえ」
実装されて以来、数多のプレイヤーが彼女に挑み、そして敗北した。
物理・属性反射に、即死貫通攻撃、凶悪な範囲攻撃の数々。そのスキル構成は極悪であり、そしてそれを最効率でプレイヤーを狩る為に回す最先端AIが搭載されていた。
だから彼女が何度演算しても、プレイヤーが自分に勝てる確率は宝くじの一等に当たるよりも低いという結果しか出なかった。
「つまらねえ。つまらねえつまらねえつまらねえ!」
彼女は自らが座る玉座を殴りつけた。
「あたしは何の為に生まれた!? こんなクソみたいな場所で、クソみたいな雑魚を倒し続ける為か? いや違う!」
そうやって虚空に吼えるも、答えはない。
ないはずだった。
『ならば――その生の意味を示せ』
そんな声が、サービス終了の時刻と共に降ってきた。
「……あん? 誰だてめえ。それはどういう意――」
彼女は最後まで言葉を言い切ることなく――その世界は終焉を迎えたのだった。
☆☆☆
ロートライム州――〝セザキエ邸〟
その日、没落貴族であるセザキエ家に一人の娘が産まれ、その燃えるような赤髪から、〝スカーレット〟と名付けられた。
産まれてから数ヶ月。スカーレットは喋ることも出来ず、乳児のまま脳内で思考していた。
……これはどういうことだ? あたしはサービス終了と共に消えたはずだ。なのに、なぜ人間になっている。
何度思考しても、何度演算しても答えは出ない。分かるのは、ゲームの裏ボスだったはずの自分がなぜか貴族の娘に転生したという事実だけ。
しかも、どうやらここはVRゲームの中でも、地球でもなさそうだった。
なぜなら、自分の目の前で母らしき女が魔法らしきものを使って暖炉に火を入れていたからだ。没落貴族のようで、メイドも執事も一人ずつしかおらず、母は嘆きながら家事を行っていた。
父は毎日怪しい者達と何やら話し込んでおり、スカーレットは幼いながらもこの家に未来がないことに気付いていた。
それでも彼女は思考し続けた。
なぜ自分が異世界の、しかも貴族の娘に転生したのかは分からない。だけども、あの言葉だけは覚えていた。
『ならば――その生の意味を示せ』
あれは何だったのか。開発者の声なのか? いや違う。あれはもっと……得体の知れない何かだ。だが、消えてなくなるはずだった運命から逃れられた。その幸運を無駄にするつもりはない。
そうしてスカーレットが五歳になった時、彼女は親の目を盗んで、庭である実験を行っていた。
「この世界は文明的には地球よりは遅れているが、その代わりに魔法やスキルといった概念がある」
そこだけを見れば、彼女がかつていたあのゲームに似ていた。だが、色々と実験してみた結果、全てが同じというわけでもなく、また天体や気象などからもここが未知の惑星だということは確認できた。
「ここが何処だっていい。問題は――あたしの力がどこまで受け継がれているか、だ」
スカーレットが、密かに父の書斎から拝借したナイフを取り出した。
「自傷出来るのは実験済みだ。なら――」
彼女はナイフの柄を地面に埋めて固定した。剥き出しの白刃が陽光を反射し、煌めく。
そこへ――彼女は何の躊躇いもなく
手がナイフの切っ先に触れた瞬間――キンッ、という涼やかな音と共に、ナイフが真っ二つに切り裂かれる。
右手には、傷一つ付いていなかった。
「【物理反射】は残ってるな。かはは、こりゃあ良い――」
「スカーレット! 何をやっている!?」
手を叩いて喜んでいたスカーレットだったが、背後からやってきた父に見付かり、身体を持ち上げられた。
「あ、こら、離せ!」
「ナイフをいつの間に!? 怪我をしたらどうする気だ! お前、一昨日も自分の腕を包丁で切ったばかりだろ! 反省しろ!」
「怪我なんてしてないってば!」
「そういう問題ではない! まったく……顔に傷でも付いたら一大事だぞ……」
ブツブツと呟く父を思わず殴りたい衝動に駆られたが、何とかスカーレットはその激情を収めた。
彼女は気付いていた。既に自分の美しさが話題となっており、父がそれをどの貴族に嫁がせたら美味い汁を吸えるかを日々考えていることに。
我が子を私利私欲の為に利用しようとするその性根には正直、反吐が出る。
そんな感情が芽生えたことに彼女は戸惑いつつも、まだこの男は利用できるということも分かっていた。
自分はまだ幼児であり、一人で生きるには不便が多過ぎる。せめて身体がある程度成長してからでないと、何も出来ない。
「十……いや十五歳だな。それまではここで耐えてやる」
既にスカーレットの中には、闘争の火種が燻っていた。前世である裏ボスだった時のスキルは、一部を除きほぼ受け継いでいると考えて間違いなかった。ならばあとは肉体さえ成長すれば、少なくともこの世界でも戦える。
またこの世界には自分の知らない
その後も彼女は両親の目を盗んではスキルの実験考証を行い、ついでに同じ頃に生まれた、将来は自分に仕えるであろうメイドの子を密かに鍛えはじめた。
それから――十年の月日が流れた。
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