第113話 センサー

某月某日、都内某所。

コスプレと同人誌。

この二つを楽しめる中規模イベントに二人組の女性の姿があった。


女性達はフルコンプリート所属の能力者。


「うわー、凄い人込み」


郷間凛音と。


「どう、凄いでしょ?」


そして神木沙也加だ。


「はい!とっても」


「まあ、私も来るのは久しぶりなんだけどね」


神木沙也加は、以前よくこの手のイベントに顔を出していた。

魔法少女関連の同人誌を買い漁る為に。


一時、彼女は魔法少女断ちをしていたためブランクが開いているが、勇気蓮人という主と出会い、新たな一歩を踏みだした事で返って来たのだ。

この戦場へと。


因みに、凛音は特に魔法少女や同人誌には興味はなく、ただの付き合いである。

同じ職場で働くうちに神木沙也加と仲良くなり、面白そうという理由で今日はついてきた感じだ。


「今日はクレイスちゃんの分までお供させてもらいますね」


「ありがと」


同じ趣味で仲のいいクレイスは、勇気蓮人の特訓の手伝いをしているためこのイベントには不参加である。


「あ、沙也加さん。魔法少女物っぽいのがありますよ」


「あれは駄目よ」


凛音が可愛らしい表紙の本を見つけそのブースに近寄ろうとするが、神木沙也加に制される。


「え?駄目なんですか?」


「あそこにあるのは魔法少女を汚す邪悪な物18禁よ。決して近付いては駄目」


神木沙也加には、一瞬でそれが禁書であるかどうかを見抜く力があった。

魔法少女の持つ第六感と言っていい。

そのため、表紙が可愛らしいというだけのフェイクには引っかからない。


因みに、神木沙也加にとって、18禁物は魔法少女を汚す汚物と認識されている。

そういった物を作るサークルに怒りを感じはするものの、表に出さないのは彼女がしっかりとした社会人——魔法少女になっているとき以外――だからだ。


「え?そうなんですか?あんなに可愛らしい表紙してるのに……」


「見た目に騙されては駄目よ。ここは魑魅魍魎が蠢く、そんな戦場なんだから」


「恐るべし、ですね」


「ええ、気を付けないと」


神木沙也加は自身のセンサーを頼りに、健全な魔法少女の同人誌を求め彷徨いさすらう。


だがそれは険しい道のりだった。

何故なら、同人誌の大半はエロだからだ。

不快な18禁物を躱しながら、純粋な魔法少女物を探すというのは、神木沙也加には苦行に等しかった。


だが、彼女は止まらない。

真っすぐに歩みを続ける。

そこに魔法少女本希望ががあると信じて。


そんな神木沙也加と一緒に行動しながら凛音は思う。

沙也加さん、凄く生き生きしてるな、と。

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