第114話 ガチ勢
「ふぅ、相変わらずここは疲れるわ」
ブース巡りを終え、休憩できる場所で神木沙也加が一息ついた。
イベント会場は広く。
健全な魔法少女本を手に入れるため彼女はセンサーを全開にしていたので、その疲労は濃い。
もっとも、その表情は疲労に反して晴れ晴れとしたものだった。
それもそのはず。
お宝を手に入れたオタクの喜びに比べれば、この程度の疲労など無いに等しいのだ。
「こんなに広いのに、6冊しかありませんでしたね」
神木沙也加が手にした魔法少女本はたったの6冊。
広いイベント会場からすれば、その数は少ないと言わざるえない。
だが仕方ないだろう。
この手のイベントのメインはエロありきだ。
むしろ6冊も健全な作品が発掘で来た事は、喜ばしいレベルと言っていい。
「ふ……得難い貴重な物だからこそ、手に入れる価値があるんです」
「なるほど」
沙也加のドヤ顔に、凛音が「そういう物だろうか?」と思いつつ頷く。
「あれ?ひょっとして……姫宮のマネージャーさんじゃ?」
ドリンク片手に休憩していた二人に、正確には神木沙也加に、茶髪の女性が声をかけて来た。
「貴方は確か台場剛毅さんの……」
「ご無沙汰してます。グリードコーポレーションでマネージャーを務めさせて貰ってる、台場剛毅の妹の蘭です」
声をかけたのは、同じくイベント会場へとやって来ていた台場蘭だった。
お互い大手ギルドのマネージャーだけあって――沙也加はもう辞めてしまっているが――二人は顔見知りである。
「まさかこんな所で神木さんと会うなんて、夢にも思いませんでしたよ」
「ほんと、奇遇ね」
「で、そっちの人は……確か、フルコンプリートの郷間凛音さんですよね」
「え、あ、はい。お久しぶりです」
凛音と台場蘭はSランクダンジョン攻略の際、顏を合わせていたので、一応知り合いではあった。
「フルコンプリートって、ダンジョン攻略の?」
台場の横にいた女性。
「え、あ、はい。そうですけど……貴方は?」
「ああ、ごめんなさい。私は娘々。
「中国の方みたいね」
神木沙也加が、名前から娘々を中国人だと推測する。
「ええ。日本へは、ある男性のハートを射止めに来たの」
「え?そうなの?用事があるって言ってたのって、男の人を口説くためだったの?てっきりコスプレとお宝漁りとばっかり思ってた」
「そっちはおまけよ」
「惚れた相手のために国を渡って来るなんて、随分情熱的な人みたいね」
好きという気持ちを突き進むため、国という障害を越えて来た娘々に神木沙也加は好意的な視線を向ける。
彼女の行動に、魔法少女を愛し年齢という障害を乗り越え突き進む自分を重ねたためだ。
まあ普通に考えれば全然違う事なのだが、魔法少女脳に侵されている彼女の思考は独特だった。
「あー、いや。そういう訳じゃないのよねぇ……」
情熱的な恋と言われ、娘々はそれを否定する。
何故なら、彼女の行動原理は決して恋ではないからだ。
「ん?違うってどういう事?娘々は好きな人が出来て、その人を口説きに来たんじゃないの?」
「違う違う。だいたい、蘭はあたしの趣向知ってるでしょ」
「あー……まあそうか。そう考えると、確かに娘々が誰かを口説くってのんはありえないわ」
「趣向って言うと?」
「もちろん……BLよ!」
沙也加の問いに、娘々が胸を張ってそう答えた。
普通なら周知から伏せがちにされろうな主張だが、彼女にそう言った感情はなさそうである。
「えーっと、BLってなんでしょう?」
BLと臆面もなく口にした事に神木沙也加が表情を歪める反面、その言葉の意味が良く分からない凛音が質問してしまう。
普通に生きていく上で全く知る必要のない、略語の意味を。
「BLってのは、ボーイズラブの略よ。分かりやすく言うと、男同士の美しい恋愛を指す言葉ね」
「は、はぁ……なるほど。勉強になります」
どういう反応を示せばいいのか迷い、凛音は適当に返事を返した。
「そう!私は男同士の恋愛にしか興味はないの!だから、単品の男性に惚れるなんて事は絶対にないわ」
シェン・ニャンニャン。
彼女はBLに全身全霊をかけるガチ勢だった。
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