第108話 呪い

「ふふふ。爺ちゃんの事、尊敬したか?」


「ああ、凄いよ爺ちゃん!これで俺がバスターモードさえコントロール出来れば、二人で魔王を――」


「あ、いかん」


魔王にだって勝てる。

そう言おうとしたら、爺ちゃんの体から溢れ出ていたオーラが消え、その体がしぼんでしまう。

顔の皺なども戻り、若々しかった姿が完全に老人の者へと戻ってしまった。


「ふぅ……呪いはある程度弱まってきているとはいえ、やはり極短時間しか無理じゃな」


「呪いって……」


「異世界から逃げ出す前に、邪神共に致命的な攻撃を受けてしまってな。その際に呪いを受けてしまって。そのせいでこの有様という訳じゃ」


爺ちゃんに呪いがかかっていたのか。

そんな気配、全く感じなかった。

それに鑑定の際も、呪いについては全く出ていなかった。


だからって、爺ちゃんが嘘を吐いているとは思えない。

なら考えられる事は一つ、鑑定のスキルでも見抜けない程、そして俺の今の力でも感じ取れない程、強力な呪いという事だ。


さっきの爺ちゃんの力は桁違いだった。

その爺ちゃんを追い込んだ相手の呪いと考えれば、それも頷けるというもの。


「俺は回復魔法が使えるから、爺ちゃんちょっと見せて」


「回復魔法が使えるのか。便利じゃな。まあここは、孫の世話になるとしようか」


爺ちゃんの体に触れ、その内側へと感覚を研ぎ澄ます。

だがやはり何も感じられない。

取りあえず俺は、自身が使える最大の回復魔法を使ってみた。


弱い呪いなら、これで解呪もできる訳だが……


「どう?」


「ふむ……駄目じゃな」


爺ちゃんが首を横に振る。

せめて感じ取る事さえ出来れば、その呪いを習得してそこから解呪方法を見つけ出す事も出来ただろう。


だが、感じる事すら出来ない物を習得する術はない。

つまり、今の俺では解呪しようがないという事だ。


「今は呼び出せないんだけど、俺は回復が得意な水の精霊が召喚できるから。彼女が目覚めたら爺ちゃんを見て貰うよ」


回復関係はアクアスの得意分野だが、彼女は俺の覚醒を支えるために無茶をした結果、現在は回復のために深い眠りについていた。

彼女が目覚め次第、試して貰う事にする。


「うむ、そうか。まあだが、仮に呪いが解けなくても心配せんでもいい。命を燃やせば、呪いに対抗できなくもないからな」


「命を燃やすって……そんな真似したら、爺ちゃんの寿命が縮むんしまうんじゃ?」


「まあそうじゃな。じゃが、爺ちゃんは十分生きた。世界を守るために命を賭けるぐらいどうって事はない。いや……寧ろ有難いくらいじゃ。一度は逃げ出したこの身、勇者としての汚名を濯ぐチャンスが舞い込んで来たんじゃからな」


爺ちゃんが寂しげに笑う。

異世界を捨てて逃げだした事。

その事が、数十年経った今でも祖父を苦しめているのだろうと考えると、胸が締め付けられるような気分になる。


「だから爺ちゃんに任せておけばいい」


「ありがとう爺ちゃん。でも、そんなチャンスを爺ちゃんに譲るつもりはないよ。俺が強くなって魔王を倒す。そして世界初の、二度世界を救った勇者になるよ」


俺が強くなればいい。

そう、それだけでいいのだ。

だから祖父の命を賭ける必要なんてない。


「世界を二度も救った勇者なんて、どこを探しても絶対見つからないだろ?俺だけのトロフィーだ。だから爺ちゃんはヨボヨボになるまで生きて、布団の中で大往生してくれ」


「蓮人……そうじゃな、世界を二度も救った孫の事を……あの世に行ったら皆に自慢するとするかの」


「ああ。見ててくれよ。スパッと魔王なんて倒して見せるからさ」


アクアスによって回復するかもしれないなんて、それは甘い見積もりだ。

今の俺が感知できないレベルの呪いな訳だからな。

だから魔王は俺一人で倒す。

強くなって必ず。


「ん?」


公園の入り口から、見た事のある人影が二つ入って来た。

小さな女の子と、そのお姉さんっぽい二人組。

衛宮姉妹だ。


「あいつら帰って来たのか?」


「なんじゃ、あの子らは知り合いか?」


「ああ、いや……俺が一方的に知ってるって感じかな」


衛宮姉妹とは知り合いだが、それはエギールレーンとしての話である。

俺、勇気蓮人としては顔を合わせたことが無い。

なのでまあ、一方的に俺が知ってると爺ちゃんには答えておく。


「なんじゃ、孫のガールフレンドじゃなかったか」


「全然違うよ」


俺のガールフレンドは全て二次元だ。

三次元なんてお呼びではない。

月とスッポンである。


「あっ!」


「あぁ!!」


こっちの方に歩いて来た衛宮姉妹がこっちを見た瞬間、驚いた様に二人そろって大声を上げた。


なんだいったい?

後ろを振り返ってみるが、俺達の背後には生垣だけだ。

あいつらは一体何に驚いているのだろうか?


「本当に知り合いじゃないのか?」


「うん、全然」


そう答えては見た物の、衛宮姉妹が迷わずこっちに駆け寄って来る。


ひょっとして、俺がエギールレーンだってのがばれたのだろうか?

いやいや、そんな馬鹿な。

あいつらにそんな能力ないだろうに。


じゃあ何だと聞かれると困るんだが……

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