第107話 マッチョ

魔王の事は話すべきか……


そう俺が迷っていると――


「それより。本当の孫の顔を爺ちゃんには見せてくれんのか?」


和人爺ちゃんにそう言われる。


「ああいや……」


「爺ちゃんには見せられない様な状態なのか?」


「そういう訳じゃないんだ。まあちょっと若返っちゃってね。今のおれって、10歳ぐらいの子供の姿をしてるんだ」


「ほうほう、10歳か。かわいい盛りじゃな。どれ、孫の可愛い姿をわしに見せてくれんか?」


「いや可愛いって……俺もう21歳なんだけど?」


「うむ、21歳では可愛げが無いからのう。だからかわいい孫の顔を見せてくれと言っておるんじゃ。ケチケチするな」


「ケチケチって……まあいいけどさ」


本体は郷間の所でゴロゴロしていたので、転移魔法で公園へと飛ぶ。


「ほうほう、転移も出来るのか」


「まあね」


「うむうむ。やはり今の蓮人より100倍は可愛いのう」


「ちょ、爺ちゃん。俺はもう21だって言ってるだろ」


爺ちゃんが、俺の本体を抱っこしてひたすら撫でまくって来る。

後、頬ずりも。

そういや子供の頃は、田舎に行くたびにこうやってしてきてたな。

爺ちゃん。


「ふぅ、満足じゃ。それで……なんでこんな事になったんじゃ?変身してるわけでもなさそうじゃし」


「それは……実はこの世界に魔王がやって来ていて」


話すべきかどうか俺は少し迷う。

が、意を決して爺ちゃんに今の状況を説明する。

嘘で誤魔化しても爺ちゃんには見抜かれる気がしたのと、それに……誰かに相談したかったというのがあったから。


まあ魔王の事は衛宮姉妹や姫宮達に話してはいるが、正直、彼女達は半信半疑って感じだったし、何より、あんまり頼りに出来る感じではない。

だから爺ちゃんに吐き出したかったのだ。


あ、郷間とかは論外な。


「そんな事が……厄介な相手に目を付けられてしまったな」


「うん。だから俺は、強くならなきゃならないんだ」


「一人で抱え込まんでいい。お前には爺ちゃんがおる」


爺ちゃんが俺の頭を抱えてくれる。


「爺ちゃん……」


「いいか蓮人。魔王との戦いには爺ちゃんも呼ぶんじゃ」


「けど、魔王はとんでもなく強くて……」


「なんじゃ、蓮人はわしが弱いから役に立たんと思っとるのか?」


「い、いや。そういう訳じゃ」


俺は言葉を濁す。

確かに爺ちゃんからは不思議な力を感じはしたが、それ程強力な力には感じられなかった。

ぶっちゃけ、魔王どころか今の俺にすら届いていないというのが本音だ。


「やれやれ、爺ちゃんも舐められたもんじゃのう。逃げ帰ったとはいえ、こう見えても勇者じゃぞ。どれ、一つ爺ちゃんの本気の力を見せてやるとしようか」


爺ちゃんが俺の本体を離し、ベンチから立ち上がる。

そして――


「数十年ぶりじゃが……よく見ておくがいい。本気を出した爺ちゃんを、な」


爺ちゃんの肉体から、先程感じたのとは別次元の力があふれ出す。


「な……あ……」


そしてその肉体が膨らみ、まるでボディビルダーの様な筋肉質な身体つきになっていく。

着ていた服が、筋肉のふくらみに押されてピチピチだ。

更に顔なんかの皺がなくなっていき、若々しい青年の様な姿へと変わってしまう。


「どうじゃ?爺ちゃんの本気……感じておるか?」


「すげぇ……」


その一言。

本当にその一言に尽きる。

今の爺ちゃんから感じる力の波動は、俺なんかの比ではない。

それは【破壊の化身化バスター・モード】を含めてもそうだ。


……ひょっとしたら、魔王とだって互角以上に戦えるんじゃ?


祖父の力は、俺にそう思わせるほどの圧倒的な力の放出だった。

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