第99話 夢

「おいおい、その選択肢じゃだめだぞ。まったく、これだからずぶの素人は――」


「うっさいわね。つうか誰が素人よ。私には私のプランがあるのよ。口出しすんな」


「へっ、そうかよ。じゃあ精々頑張んな。無駄な努力って奴を」


「あんたいちいち一言多いのよ。ぶっ飛ばすわよ」


「ふふふふ」


「んあ?タヌキ何笑ってるんだ?」


「そうよ。何が面白いのよ」


「だって、姉さん達のやり取りが面白くって」


「なるほど。キツネの滑稽な姿が面白かったって訳だな」


「んな訳ないでしょ!あんたの的外れな主張が無様だったからに決まってるでしょ!」


「なんだと!」


「なによ!」


「ふふふふふふふ」


◆◇◆◇◆


「ぶっ飛ばすわよ!って……あれ?ここは……」


「姉さん、何か悪い夢でも見たの」


聖奈が心配そうに、隣の席から私の顔を覗いて来る。


「あ……夢か……」


今現在私達は、姫宮グループの用意したプライベートジェットで日本へ帰還中である――姫は用事があって残念ながら別行動。

Sランクダンジョンの攻略を終えて。


地球に突如同時に現れた7つのSランクダンジョンは、どれもブレイクを起こす事無く処理する事が出来ていた。

その立役者は、日本のレベル7能力者である私達である事は疑いようがない。


なにせ、急ピッチで3つもダンジョンを回って来た訳だしね。


そのせいか疲れがたまり、どうやら私はジェット内でうたた寝してしまっていた様だ。


「どんな夢だったの?」


「まあ、ちょっと昔の夢をね……」


「ふーん……あ、ひょっとしてあの人の夢?私達の王子様の」


「はぁ?王子様ぁ?あのバカが?確かにギャルゲーの素晴らしさを教えてくれた事だけは感謝してるけど、あんな奴王子様でも何でもないでしょ」


どこの世界の王子様が、女の子にギャルゲーの差し入れをすると言うのか。

そんな話、古今東西聞いた事もない。


「ふふふ。でも、あの人がいなかったら私達死んでたかもしれないんだよ。だったらやっぱり王子様じゃない」


「何言ってんの、あの程度で死ぬ訳ないでしょ。命の恩人とか大げさよ」


「姉さんったらもう、ほんと意地っ張りなんだから」


妹の聖奈が、呆れたと言わんばかりに首を振る。


全く、意地なんか張ってないっての。

本当にこの子は……


「そういえば、あれからもう10年以上経つね。あの人、今頃何をしてるのかしら?きっと素敵な人になってるわよね」


「ふん。どうせ今でも、ブヒブヒ言いながらギャルゲーやってるでしょうよ。萌え豚よ。萌え豚」


10歳でギャルゲーを嗜む様な奴だ。

きっとキモオタ街道まっしぐらに違いない。


「不細工だったし、異性には無縁でしょうから」


「ブヒブヒは姉さんと一緒じゃ……まあそれは置いておいて。あの人、不細工どころか凄くかっこよかったでしょ」


「それはただの思い出補正の産物よ。昔はよかった的なあれ。聖奈にとっては一応、初恋の王子様な訳だから脳内で勝手に美化されてるだけ。現実を見なさい。現実を。リアルはゲーム程甘くないんだから」


「もう。ほんと、姉さんには浪漫が無いんだから」


「ロマンはゲームの中にのみある!」


ゲームこそ至高!

現実に期待するのはお子様と言わざるえない。


まあ確かに、ゲームから出て来た様な凄い人間はいるにはいる。

例えば、姫とかがそうね。

でも大抵は、知ると大した事が無くてがっかりする物だ。


あいつもきっと、今頃は私の口にした通りの、平凡でざっこくしょうもない萌え豚になってるはずである。

だから別に会いたいとは思わない。

そんな現実を突きつけられるぐらいなら、美しい思い出としたまま胸の奥にしまっていた方がましだから。


「さて、この話はここまでよ。あたしはもうひと眠りするわ。聖奈も疲れてるなら寝ときなさい」


「そうね。まだ着くまでに時間があるみたいだし、私もひと眠りしとておくわ。おやすみなさい」


「お休み」


けど、そうね。

久しぶりに思い出したんだし、眠るまでの少しの間ぐらい。

あの時の事を思い出しても、ばちは当たらないわよね。


私は目を瞑り。

そして思い出す。


11年前。

あの小生意気な少年と出会った時の事を。

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