闇の精霊

第98話 負けられない戦いがある

「よし!クリアーだ!!」


ダンジョンから出てきた郷間武が雄叫びを上げる。


――郷間武ごうまたけし


レベル4の能力者プレイヤーで、取得している能力は鑑定と結界。

ダンジョン攻略会社、フルコンプリートの代表をしている。


彼が今クリアーしたのはAランクダンジョンだった。


「特に活躍した訳でもないのに、よくもそれだけ俺がクリアしてやったぜ的な雄叫びがあげられるな」


そんな郷間に、共に攻略をおこなったパーティー員である柳鉄針が冷ややかな声をかけた。


――柳鉄針りゅうてっしん


レベル6の能力者で、針と毒(独の方は周囲には秘密にしてある)を操る能力を持つ。


「うっせぇ。俺の結界だって、華麗に敵の攻撃を防いでただろうが。まさに大活躍!」


「ふふ。一度敵の攻撃に破られて、慌てまくってたけどね」


凛音が兄をからかう。

彼女も今回の攻略にパーティー員として参加していた。

探索と、弓を使った遠距離アタッカーとして。


――郷間凛音ごうまりんね


レベル4の能力者であり、郷間武の妹。

スキルは探索と、水を生み出し操る能力である。


「あ、あれはだな……弘法も筆の誤りって言うだろ!」


「誤ってない筆も見せて貰いたい物だな」


「まあまあ、郷間さんはまだレベル4なんだから仕方ないですよ」


神木沙也加が郷間武のフォローを入れる。

彼女もパーティーのメンバーだ。


――神木沙也加かみきさやか


レベル4の能力者で、その能力は魔法少女とオーラウェポンとなっている。


「レベル4と言うのなら、お前もそうだろう。もっとも、郷間とは天と地だがな」


神木沙也加はレベル4であったが、幼い頃から続けてきた剣術の腕前と、見た目は兎も角、強力な魔法少女(剣)と言う能力。

それに剣を扱う上で大きく有利に働くオーラウェポンが噛み合って、その強さは下手なレベル6以上となっていた。


「サーヤはぁ、私の相棒ですからぁ」


クレイスが、まるで甘える様に神木沙也加の腕を取って寄りかかる。

沙也加もそれ程小さくはないのだが、いかんせんクレイスの体格がかなり大きいため、傍から見たら伸し掛かる様にしか見えない光景だった。


――クレイス。


地属性の精霊。

耐久力がずば抜けて高く、レベル8の能力者以上の戦闘力を有している。

このパーティーにおける保護者と言っていい立ち位置だ。


以上5名が、フルコンプリートのAランクダンジョンクリアのメンバーとなっている。


「しかしまさか、こうして柳さんと一緒にダンジョン攻略するなんて夢にも思いませんでした」


「それは此方もだ。一寸先は闇ではないが、世の中何が起こるかっ分からない物だ」


シェンはあの騒動の後、翌日には中国へと帰国していた。


本人は日本に残りたがっていたのだが、国ではそれ相応の立場ある人間であるためそういう訳には行かない。

なので、自分の代わりとして、柳鉄針を勇気蓮人の側に置いて行ったのだ。


――フルコンプリートでの臨時雇用と言う形で。


え?

そんな奴雇う?


そう思うかもしれない。

と言うか、それが普通だ。


だが――郷間武は『まあ大丈夫だろ。蓮人がいるし』という理由で秒で雇用していた。


本当に何も考えていない男である。


「そういえば、勇気蓮人様はまだゲームしてるのか?」


柳鉄針が尋ねる。

この場に居ない勇気蓮人について。


「ああ。あれから一週間、寝る間も惜しんでゲームしてるよ」


何があったかは不明だが――


「魔王如きには負けられねぇ!俺が……俺こそが真の義妹ギャルゲーマスターだ!!」


――と言う雄叫びと共に、勇気蓮人はシェンとの一件以来、一週間近く寝食も惜しんで『義妹を育てろ!エンジェルハニー♡完全版』をプレイしていた。


何が彼をそこまで駆り立てているのかは、神のみぞ知る事である。


因みに彼は今、家を出て郷間家に仮住まいしていた。

家族に寮に入ったと伝え。


何故家を出たのか?


その理由は簡単である。

体が縮み、若返ってしまったからだ。


魔法でそんな物はどうにでもなるだろう?


本来ならそうだ。

蓮人は女性に化ける事も容易い。


だが、その限界を超えて進化した肉体は違った。

肉体への変化や影響を及ぼす魔法を、無意識化で弾いてしまうのだ。


――それは肉体が魔王と闘うため、成長に最適化していたためである。


成長過程で下手な影響を受けると、その奇跡のバランスが崩れてしまう可能性があった。

それを避けるため、勇気蓮人の本能が余計な要素をすべて弾いてしまっているという訳である。


そのため、現在勇気蓮人は10歳前後の姿である事を余儀なくされている状態だ。


「天才の考える事は理解できんな」


鉄針が首を傾げる。

その顔には、本気で意味が分からないというメッセージがありありと読み取れた。


「明日、海外のSランクダンジョン攻略組が帰って来るみたいですね」


神木沙也加がスマートホンを開くと、メールが届いていた。

その内容は、Sランクダンジョン攻略に向かっていた姫宮零ひめみやれい達4人の帰国を知らせる物だった。


「英雄達の帰還って奴だな。ま、そのうち俺もその中に加わる事になる訳だが」


「戯言だな」


郷間の言葉を絵空事と、鉄針はばっさり切り捨てる。

だが彼は知らない。


いずれ郷間が本当に、英雄の一人と呼ばれる程の活躍を見せる事を……



――勇気蓮人ゆうきれんと


レベル無し。

引き篭もりのゲームオタク。


あと勇者。

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