第72話 パーティー

勇気蓮人から、凄まじい殺気が放たれる。

やる気満々なのはいい事だが、まだここで戦う気はない。


奴には私の用意した特殊なクリスタル――ダンジョンに案内するつもりだからな。


「まあそういきり立つな。それとも、ここで戦う気か?私は別に構わんが」


この場で戦いが始まれば、困るのは奴だ。

それを指摘してやる。


まあ此方にも目的があるので、いきなり自我を失い暴れられても困るのだが、一々それを教えてやる謂れは無い。


「くそ……」


勇気蓮人が苦し気に呟く。

その殺気自体は押さえ切れては居ないが、取り敢えずいきなり襲い掛かって来る事は無いだろう。


「勇気蓮人。お前が周囲を気にせず戦える良い場所がある。どうだ?私としても、是非全力の貴様と戦いたい所だからな。勿論、嫌なら無理強いはしないが」


そう、無理強いはしない。

ただ拒む様なら、奴の家族を人質にとって交渉するだけだ。

飲むも飲まないも、奴の自由意志である。


「いいだろう……」


勇気蓮人は少し考える素振りを見せたが、案外あっさりと私の提案を飲んだ。

罠の危険性も考慮した上で、それでも戦えば自分が勝つという誤った認識から来る判断だと思われる。


奴は異世界で戦った際の私を基準にしているのだから、それは仕方のない事だ。

まあ此方としては手間が省けて助かるので、その勘違いは放置しておく。


「ついて来い」


転移魔法を発動させる。

転移先のイメージと座標を、魔法で勇気蓮人に送った上で。


飛んだ先は、富士山と呼ばれる日本一の山の火口部だ。

場所をここにした事には、特に意味はない。

何となくである。


「ん?」


遅れて転移して来た勇気蓮人の体が、何故か少しふらついていた。

転移魔法は、決して体に負担のかかる魔法ではないのだがな。

謎だ。


まあ何らかの要因があるのだろうが、深刻なダメージがある訳でもなし、気にする必要はないだろう。


「さて、では出すか」


私は掌にクリスタルを生み出す。

7色が絡み合って輝く、虹色のクリスタルを。

これは勇者である勇気蓮人の為だけに用意した、特設ダンジョンだ。


放り投げると、クリスタルが巨大化して地面に突き刺さる。


「――んなっ!?」


クリスタルを目にした勇気蓮人から、強い動揺が伝わって来た。


「お前が……」


「ああ、この世界のクリスタルは全部私が生み出した物だ。単に干渉しているだけと思ったか?当然目的は――」


そういえばこの世界には、自らの悪事を自慢気にべらべら喋ると退治されるというジンクスがあったな。

迷信を信じる訳ではないが、余り饒舌に語り過ぎるのも無粋か。


「――まあその話は良いだろう」


私はクリスタルに干渉し、勇気蓮人に向かってパーティー申請を行う。


「クリスタルの中ならば、どんな戦いだろうと外に影響は出ない。そしてこのダンジョンは、2週間は強制的に維持される事になっている。これなら思う様暴れる事が出来るだろう?」


「……」


奴から返事は帰って来なかったが、表示パネルにはしっかりとパーティー受諾が表示されていた。


死ぬ程憎んでいる相手と、形だけでもパーティーを組む。

さぞ不快な事だろう。

私はニヤリと口の端を歪め、奴の怒りの炎に燃料をくべるべく、煽る。


「これで私と貴様は同じパーティーという訳だな。勇者と魔王のパーティー。今までお前が組んだどんな下らんパーティーより、豪勢だと思わんか?」


まあ心配は無いと思うが、いざ始める段になって中々スキルが発動しないでは話にならないからな。


「貴様……」


勇気蓮人から向けられる殺意が一段と膨れ上がったのを、私は肌で感じとる。

いい感じだ。

これなら中に入って、少し挑発してやれば即座にスキルを発動させてくれる事だろう。


「さて、では入場と行こうか」


私はクリスタルをコントロールし、勇気蓮人と共にダンジョン内に転移する。

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