第63話 格差

特殊能力、魔法少女を習得した訳だが……


結論から言うと、魔法少女には変身出来なかった。

この能力はかなり特殊で、発動に条件が必要だったからだ。


――その条件は、魔法少女を心から愛するという物だった。


うん、無理。

魔法少女は別に嫌いじゃないが、心から愛するとなると話は変わって来る。

という訳で、俺は魔法少女に変身できない。


見た目的に若干難があるとは言え、お手軽パワーアップ出来ないのは本当に残念である。


「まじかるぅ……クレイス爆誕ですぅ!」


ここはCランクダンジョン内。

俺の横で、魔法少女に変身したクレイスがキャッキャ楽しそうにはしゃいでいた。

俺とは違って、魔法少女に一目ぼれしたクレイスは変身条件を満たしていたためだ。


え?

分身も魔法少女の様な特殊能力を使えるのか?


答えはイエスだ。

コントロールはクレイスが握っているとはいえ、分身は俺と繋がっているからな。

此方から干渉する事で、習得した能力を分身側で発動させる事も出来る様にしてある。


但し、本体と同時に同じ特殊能力は使えないが。


だから身体強化レベル7なんかを、俺とクレイスで同時に発動させる事は出来なかった。

ちょっとした制限って奴だ。


まあとは言え、レベルさえ変えれば問題なかったりするが。


俺の場合、能力者プレイヤーの様に特殊能力をレベルアップさせている訳ではなく、レベル毎に特殊能力として習得している。

そのためレベルが違うと、特殊能力は別物として扱われるのだ。


「アクアスさん。水鏡をお願いしますぅ」


クレイスが自分の姿を確認したいのか、アクアスの能力を要求して来る。


≪宜しいでしょうか?マイロード≫


「構わない」


≪では≫


「ほわ~」


アクアスの力で、クレイスの前に巨大な水鏡が現れる。

そこに映る自分の姿――


幼く可愛らしい魔法少女の姿に、彼女は目をキラキラと輝かせた。


「可愛いですねぇ。最高ですねぇ」


「うん、まあそうだな……ていうか、何でクレイスは子供の姿になってるんだ?」


今のクレイスの姿は、ザ・魔法少女と呼ぶに相応しい、幼い少女の姿へと何故か変わっていた。


本来ゴツめの筋肉質の体は影も形もなく消えさり、背はかなり縮んでしまっている。

そのため、ぱっと見の年齢は小学生高学年ぐらいにしか見えない。

但し胸元だけはバイーンのままではあるが……


まあ凶悪な胸はともかくとして、今のクレイスは何処からどう見ても普通の美少女にしか見えなかった。


後、それ以外にも髪型が大きく変化しているな。

ショートのブラウンだった彼女の髪は、長めの金髪ツインロールへと変化していた。


――今のクレイスにテーマカラーつけるとしたら、まあイエローって所だろうか。


胸元が凶悪に膨れ上がっているブラウスと、頭の上に乗っかっている小さめのベレー帽こそ別色ではあるが、それ以外のスカートやブーツなんかは黄色が基本になっている。

それに首元にも目立つ黄色いバラがあるので、まあイエローと考えて間違いないだろう。


しかしアレだな……


こう言っちゃなんだが、クレイスは怪しげなコスプレ姿に見えてしまう神木沙也加とは一線を画す感じに仕上がっていた。

もし彼女が今のクレイスの姿を見たら、ショックで倒れてしまうんじゃなかろうか?

そんな心配が頭を過る。


ま、それはどうでもいいか。


「よく分かりませぇん。でもぉ、可愛いから良いじゃないですかぁ?」


本来の所持者とは異なる挙動。

普通に考えれば異常な事なんだが、当の本人は全く気にしていない様だ。

まあ現状で異常が出ていないからこそ、だとは思うが。


だからと言って、原因不明のままにしておくのは正直あれだ。


「アクアス、心当たり無いか?」


≪恐らくですが、マイロードが生み出した分身の中にある情報――魔法少女としての形が影響した為ではないかと≫


「成程、俺のイメージか」


まあ魔法少女と言えば、可愛らしい女の子だからな。

そんな俺の中にある情報に合わせて、分身の形が勝手に変わってしまったという感じか。


アクアスは全く根拠のない憶測を口にはしないタイプなので、それが原因で間違いないだろう。


「それで、この勝手に変化した状態はクレイスに悪影響はないのか?問題がある様なら無理やり元の形に戻すけど」


「えぇ~、折角かわいいのにぃ」


「でも、筋肉がないぞ?」


「筋肉はぁ、魔法少女には似合いませんからぁ」


そりゃそうだ。

肉体言語系でも、大半はスリムボディだからな。


……稀にマッチョもいる様ではあるが。


「まあその形がいいのは分かるが、影響があると流石にそう言う訳にはいかないからな」


≪ご安心ください、マイロード。確認しましたところ、特に影響は出ていない様です≫


「そっか。なら別にそのままでいいか」


「やったぁ!」


クレイスが可愛い魔法少女の姿で、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

スカートが短めなのでそんな事をしたらパンツが見えてしまいそうだが、魔法少女のそこは鉄壁だった。


さすまほ。


まあ別に見たかった訳ではないのでどうでもいいが。


「んじゃ、出るか」


今回ダンジョンに入ったのは、分身に宿るクレイスが中に入れるかを確認する為だった。

そのため攻略はしない。

それは後日改めて郷間達がやる予定だ。


「はぁ~い」


「じゃあ変身を解く――いや、気に入ってるならそのままでもいいか」


少し派手ではあるが、神木沙也加と違ってクレイスの変身には違和感がない。

寧ろ、俺と身長が並ぶ元の姿の方が違和感がある。

こっちの方が自然だ。


「蓮人さん!魔法少女はぁ、秘めてこそなんですよぉ」


「あ、はい」


俺は変身を解いたクレイスと、ダンジョンから脱出する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る