第29話 ジャスティス

――とあるゲームの掲示板――


ID:897637『お前ら知ってるか?世界各地にSランクダンジョンが大量に発生してるそうだぞ?』


ID:194327『ガセだろ?』


ID:897637『いや、とある情報筋からだからマジだぞ』


ID:961300『とあるってどこだよ(笑)』


ID:897637『その人が言うには、7つも同時に出たらしい』


ID:961300『答えられないからって、無視すんなよ』


ID:336300『7つも同時ってやばくね?2年前の奴って、クリア出来なくてアフリカが滅茶苦茶になったんだろ?』


ID:165596『核兵器バンバン撃って何とかしたんだっけ?」


ID:553199『そんな訳ないじゃん。核なんて撃ちまくったら世界中に影響しまくるってのに。誇張だよ。誇張』


ID:194327『まあそれが嘘かホントかはともかく。今はレベル7が7人いる訳だし、1人1か所筒クリアすれば問題ないんじゃね?」


ID:553199『Sランクも7つだってんなら、正にフィーバーだなww』


ID:897637『笑い事じゃねぇって。日本にも出てるらしいし、顕現して魔物化したら滅茶苦茶になっちまうんだぞ?』


ID:553199『まあでも大丈夫じゃね?日本には雷帝いるし。美女カルテッドだっけ?そいつらも4人でAランククリアできる位強いらしいじゃん』


ID:961300『美女って(笑)一人フルフェイスじゃん』


ID:165596『姫宮グループの3人は確かに可愛いけど、エギールだっけ?あれ絶対ぶっさいくだぜ』


ID:553199『おいおい、夢も希望もない事言うんじゃねーよw』


ID:564818『いい加減にしろよ。ここは【義妹を育てろ!エンジェルハニー♡】の攻略や妹達への愛を語らい合う場だぞ。掲示板規約にも、明らかに関係ない雑談は別の場所でしろって書いてるだろうが。お前ら日本語も読めないのか?アイドルオタクじゃあるまいし、少しはTPOを弁えろ』


ID:165596『長文とか。顔真っ赤だな、おい』


ID:961300『うわ!自治厨だ!きんも!』


ID:564818『キモいのはそっちだろうが。とにかく、迷惑だから他に移れ』


ID:165596『指図すんな』


ID:336300『空気読めよ』


ID:114514『あんたらいい加減にしなさいよ。通報するわよ』


ID:553199『うわっ!女言葉!ネカマかよ』


ID:961300『勝手にしろよ。バーカ』


ID:114514『564818さん、こいつら通報しましょう」



「わかりました。目に物見せてやりましょう。っと」


俺は掲示板の通報フォーラムから、荒らし行為で該当するID共を通報してやった。

完全版発売前の中だるみ期間であるためか、最近こういう輩が多い。


――全ての義妹を愛する者の為にも、俺は悪の魔の手からこの掲示板を守り抜かなければないのだ。


時にその行為を虚しく感じる事もある。

俺のやっている事は、無意味なんじゃないかと思う事も。


だがそうじゃなかった!

ID:114514さんみたいな同志がいてくれるなら、俺はまだまだまだ戦える!


「で、何か用か?郷間」


「何かってのは、俺が言いたい言葉だ。何やってんだお前?」


「見れば分かるだろう。掲示板の治安死守ジャスティスだ」


俺は最高の笑顔で、胸を張って答える。

同志を得た今、俺に憂いはない。


「お前の口から、ジャスティスなんて言葉を聞く日が来るとは思わなかったよ」


「ふ、俺は義妹達を守る守護騎士ナイトだからな」


「おばさんが聞いたら、我が子の残念な進化っぷりに白目剥くぞ?」


「よく言うだろ?子供は親の想像を超えて、大きく羽搏くもんだって」


「そんな超え方、親は絶対望んでないと思うけどな。まあいいや。今日来たのは、日本に現れたSランクダンジョンの事だ。お前も知ってるんだろ?」


「ああ、まあ一応な」


Sランク話題はさっきの荒らし共もしていた。

俺の聖域だけに限らず、ネットではどこもその話題で持ち切り状態となっている。


「それで、協会から噂のエギールレーンに是非攻略参加して欲しいって打診があってな」


「ふーん。いくらだ?」


「2000万だ」


「やっす!」


いや、一般的な感覚で言えば決して安い額ではない。

サラリーマンの平均年収を遥かに超えてる訳だからな。


だがAランクで5億――俺への報酬はその半分の2億5千万だが――だった事を考えると、ランクが上がって支払いが20分の1以下になるのは明らかにおかしい。

もはや意味が分からないレベルだ。


「Sランク討伐は大人数だからな。それにお前は協会に登録してないし。正式な能力者としてのオファーじゃない分、報酬は下がっちまうんだよ」


「正式じゃないねぇ……」


書類の偽造は出来ても、国のデータベースの改ざんは流石に無理だ。

そのため、エギール・レーンには戸籍がない。

当然そんな人間が国の能力者として登録する事は不可能である。


「そういや、税金問題もあるな」


エギール・レーンとして日本で金を稼げば、当たり前の話だが、税金を納める必要が出て来る。

だが国籍のない状態ではそれすらままならないだろう。

かといって稼いでいる額を考えると、納めなければ絶対問題になるはず。


「所得の方ならまあ問題ないぞ。エギール・レーンはボランティアでうちを手伝ってるだけって事にしてあるからな」


「そうなのか?」


「ああ。お前を役員って事にして、報酬は全部蓮人への役員報酬って形で払ってる」


「おお、やるなぁ」


つまり、税金は勇気蓮人として納めればいいって訳だ。

郷間め、中々やりおるわ。


「まあでも所得はともかく。年金や住民税、外国人としてならビザ的な問題もその内出て来るだろうけど」


「面倒くさいな。けどまあ、その辺りの問題が出てきたらドロンすればいいか」


脱税するわけでも無し。

各種税金類も俺はちゃんと支払っているので、その事で負い目を感じる必要もないだろう。


「そしたら今度は勇気蓮人でデビューだな」


「それはあんまりしたくないんだよなぁ……」


変に注目を集めると、後々面倒くさい事になるのは分かり切っている。

そう思ったからこそ、俺はエギール・レーンに扮して活動しているのだ。

自分の素顔を晒して活動するのは、出来れば避けたい所である。


……けどそう言う訳にもいかないんだよな。


ゲームキングになるという夢を考えると、金はあればある程いい。

ゲーム会社の資金繰りのためにも、ダンジョン攻略の筋は残しておきたかった。


其の辺り、何か上手い手は無かろうか?


「人間思い切りが肝心だ――ん?わりぃ、妹からだわ」


郷間の携帯が鳴る。

凛音からの物の様だ。


「おう、どうした。え?エギールを出せって、筋肉お化けが事務所に居座ってる?なんだそりゃ?マジで?」


「どうかしたのか?」


「いや。どうもグリードコーポレーションの奴が急にうちの事務所にやって来て、お前に合わせろって居座ってるらしい」


約束も無しにやって来て居座るとか、禄でもない話だ。


「俺はちょっと事務所に行って来るよ」


「待て郷間。俺も行くよ」


なんかどう考えてもやばそうな奴だし、荒事になったら俺が対処してやらんと。

相手が戦闘系の能力者だったりしたら、訓練中の郷間じゃまだまだ不安だしな。


「おお!来てくれるのか!そいつは助かる!」


俺は郷間の車に乗り、フルコンプリートの事務所へと向かう。

そこで俺を待っていたのは――

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