第27話 スリーセブン

日本初のレベル7到達。

それは雷帝の二つ名を持つ、遠間紫電とおましでんと言う男だった。


ネットの能力者関連の記事を見ると、その話で持ちきりとなっている。

お陰で、美女4人でAランククリアの話題は完全に吹っ飛んでしまっていた。

衆目を集めようとしていた姫宮グループにしてみれば、完全に見込みが外れた感じだろう。


……ま、俺は報酬さえ入ればいいのでどうでもいいけどな。


「蓮人さんはレベル7に興味はないんですか?」


帰宅途中、凛音にそう尋ねられる。


「全くない」


郷間はその事に興奮していたが、俺はびっくりする程興味がなかった。

レベル7なら姫宮達よりも強いんだろうが、だから何?と言った感じだ。


まあそいつのが一瞬でゲームを作る能力者とかなら話は変わって来るが、雷帝って二つ名の奴がそんな能力な訳ないしな。


「日本初。世界でも7人目のレベル7だってのに、お前って奴は全く」


「逆に言うと、世界なら7人もいるって事だろ?1番ならともかく、騒ぐ意味が分からん」


「まあ、確かにそう言われるとそうなんだが……」


郷間は俺の言葉に苦笑いする。

まあ仮に世界初だったとしても、俺の意見は変わらんが。

別に何か恩恵を受ける訳じゃなし。


「そんな物に一喜一憂してる暇があったら、俺はゲームするね」


「ふふ、蓮人さんらしいですね」


7人目のレベル7。

それは本当に、俺にとってはどうでもいい事だった。


だがそれがきっかけとなり、この後世界に大きな衝撃が走る出来事が起こる事になる。


その事を、この時の俺は知る由もなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


人里離れた断崖に立つ古びた巨大な洋館。

その館の最奥に主の部屋があり、その中心には骨で出来た悪趣味な玉座が置かれていた。


――そこに座っているのは、人ならざる異形の存在だ。


「マスター。7人目のレベル7が生まれたそうです」


黒い人型の影がどこからともなく姿を現し、館の主である異形の前で跪いた。


「ほう……もう7人目か。思ったよりずっとハイペースで、レベルアップが進んでいる様だな。素晴らしい」


配下の報告に、マスターと呼ばれたその異形は満足げに口の端を歪めた。

その黒い瞳には、澱んだ歓喜の色が浮かんでいる。


「最初は、ごみの様な世界だとがっかりした物だが、なかなかどうして……この世界の人間は本当に面白い。グヴェインもそうは思わんか?」


「は。人類の脅威マスターの存在に本能的に気付き、特殊能力を発現させたあたり……流石は勇者の生まれた世界と言えましょう」


「勇者に異世界。あの召喚士には感謝せねばならんな」


マスターが右手を伸ばすと、その前方に8つの大きなパネルの様な物が現れる。

そこには8人の人間が映し出されていた。

レベル7の能力者7人と、スマホでゲームに興じる黒尽くめの鎧を身に纏った人物の姿だ。


「そう言えば……この世界では、7と言う数字が三つ揃う事を好むそうだ」


「聞き及んでおります」


「くくく。レベル7が7人では一つ足りん。折角だ、私が7をもう一つ付け加えてやろう」


マスターと呼ばれる異形が右掌を上に向けると、そこに突如7つのクリスタルが出現する。

ダンジョンクリア時に手に入る物と同じだが、そこには強い光が宿っていた。

その事から、それが攻略後の抜け殻などではなく、強い力を宿している物だという事が分る。


「Sランクが7つ。これでスリーセブンだ。人間達は、一体いくつクリアできるかな?」


地球にダンジョンが現れる様になって6年。

Sランクダンジョンは2年前に1度だけ、アフリカ南部に出現した事がある。


――それは攻略されたのか?


答えはノーだ。

最大レベル6までしかいなかった当時の能力者達だけでは、Aランクダンジョンとは桁違いの難易度を誇るSランクのクリアは、到底不可能な事だった。


そして限界を迎えて魔物化してしまったダンジョンにより、アフリカ南部は広範囲に渡って人の住めない区域へと変わってしまっている。


「お前はどう思う?グヴェイン」


「それは勇者次第かと。奴がもし積極的に動くのならば、全てが攻略されてしまうでしょう」


「ふ、そうだな」


「ですが……腑抜けた今の奴が動かない事前提でお答えするならば、良くて4つ程度かと」


レベル7は、Sランクダンジョンの適正レベルである。

だがSランクはパーティー規模が無制限である事からも分る様に、単独でクリア出来る様にはなっていない。

複数のレベル7と、大量の高レベルの能力者が揃って初めて何とかなる難易度だ。


しかもその内部は広大で、一つのクリアにも相当な時間がかかってしまう。

その事から、例えレベル7の能力者が7人いても、期間的な問題により、その全てを攻略するのは難しいと考えられた。


「ははは。無難な答えだな」


グヴェインの答えた4つとは、全てのレベル7能力者が結集し、一か所ずつ確実にクリアした場合の、タイムリミットまでに攻略できるダンジョンの予想数だ。

余りにもその無難過ぎる答えに、マスターと呼ばれた異形が笑う。


「申し訳ありません」


「謝る必要は無い。お前の言う通り、適当にばら撒けばまず間違いなくそうなるだろう。だが、それでは流石につまらん。だから7つ全て、それのぞれの能力者の居る国に設置するとしよう」


自国にSランクダンジョンが出現すれば、その国のレベル7は当然そこの攻略を優先する事になる。

一か所に集まって無難にクリアさせるつもりは、マスターと呼ばれる異形にはない様だ。


「その上で、もう一度聞くぞ?人間はいくつ攻略すると思う?」


「1つ……いえ、流石に日本のダンジョンには奴も参加するでしょうから。2つかと」


「まあそんな所だろうな。5つ顕現したとてこの星が滅ぶ事もないだろうが、腑抜けた奴に対する警鐘には丁度いいだろう」


異形の主の手にあったクリスタルが全て消える。


「さあ、人類よ。私からのプレゼントだ。受け取るがいい」


彼は両手を頭上に掲げ、そう楽し気に叫んだ。

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