第7話 盗掘
「んな訳ないだろ。種類にもよるけど、入り口付近にボスがいるなんて事はねーよ」
ダンジョン攻略を終え、凛音の運転するワゴンの車内。
ボスが入り口に居た事が少し気になったので、そういう物なのかと聞いてみたら全力で郷間に否定される。
「じゃあなんであんな所に居たんだ?」
「まあ……盗掘屋だろうな」
「盗掘屋?」
「ダンジョンの権利を買い取らず、勝手に中に入って金を稼ぐハイエナみたいな奴等の事だよ。俺らの業界だと、そういう奴らを盗掘屋っていうのさ」
「へぇ。そんなのがいるんだな」
魔力結晶やアイテムはボスだけではなく、ダンジョンに出て来る全ての魔物が一定確率で落とすと言われている。
どの程度の確率で、どういった物が出るかはダンジョンの種類や難易度次第だ。
ダンジョン攻略の権利が売買されるのは、そういったリターンがある為だった。
まあでなければ、大金を払ってまで権利を購入したりはしないだろう。
「けどそれと、ダンジョンの入り口にボスがいた事に何の繋がりがあるんだ?」
盗掘屋が人のダンジョンを荒らし、金を稼ぐ非合法の能力者だというのは分かる。
だがそれと、ボスが入り口に居た事とに、いったい何の繋がりがあるというのだるろうか?
そこが分からない。
「移動タイプのボスに出くわして、追いかけられたまま入り口のクリスタルを使って脱出したんだと思いますよ」
「ああ、成程」
凛音の補足説明でやっと理解できた。
ダンジョンの入り口には、脱出用のクリスタルがある。
ボスを処理できなかったからそこまで逃げて、そのまま脱出した結果、そこにボスが残ってしまったという訳か。
「しかしそりゃ、迷惑極まりない話だな」
まあ俺達の場合は問題なく倒せたから良いけど。
普通、ボスがいきなり入り口で襲い掛かってきたら面食らうだろう。
場合によっては死人だって出かねない訳だし、とんでもなく迷惑な行為だ。
「人の金をくすねる様な奴らだからな。最低の屑共だよ」
郷間は盗掘屋の事を毛嫌いしている様だった。
今回大コケしてピンチになっているとはいえ、なんだかんだでこいつは真面目に働いてる訳だからな。
自分達の仕事にケチを付ける様な輩に、好感を示すはずもない。
「まあでも、その盗掘屋共が郷間んとこのダンジョンを両方クリアしてくれてれば借金も気にする必要なかったのにな」
攻略のための依頼費3億円。
それがあったから、郷間は必死だったのだ。
だが盗掘屋とやらが代わりにダンジョンを攻略してくれさえいれば、そんな物は必要なくなっていたのだ。
まあ今となっては、俺が手伝う事になっているから問題ないが。
「蓮人さん。盗掘屋はダンジョンを絶対に攻略しませんよ」
「ん?なんでだ?ひょっとして、ボスを倒せないぐらい弱い奴らの集まりなのか?」
正直、攻撃的な特殊能力があればあの位は簡単に倒せる気がするんだが?
クッソ弱かったし。
「クリアしちまうと、痕跡が残っちまうのさ」
そう言いながら、郷間がポケットにしまってあった手のひらサイズのクリスタルを取り出す。
これはダンジョン攻略報酬――入り口となっているクリスタルが力を失い、小さくなった物だ。
「触って見ろよ」
言われて触ってみる。
すると、例の青いパネルが浮かび上がった。
そこには攻略者――つまり、俺達3人の名前が載っていた。
「ああ、そうか。名前が残るのか」
「そ。盗掘は犯罪だからな。自分達の名前が残ったら不味いだろ?だから絶対攻略しないのさ」
怪盗じゃあるまいし、名前を残すのはリスクしかない。
しかも本名となれば猶更である。
だからそれを避けるため、攻略はしないという訳だ。
「けどさ。それならクリスタルを売るなり壊すなりで、処分すればいいんじゃないのか?」
攻略後のクリスタルは国の買い取りだ――価格はダンジョンのランクで決まる。
個人での所有は認められておらず、売買も当然禁止されていた。
とは言え、ここまでビジネスとして成り立っているジャンルなら、そう言った品を扱う非合法な業者がいてもおかしくはない。
現に、盗掘屋なんてのがいる訳だし。
「クリスタルは簡単には壊れない様になってる。それに特殊な追跡装置で、持ち去っても直ぐにばれちまうんだよ」
「じゃあ隠すのも無駄って訳か」
「そう言う事だ」
攻略すると名前が残り、その隠蔽も難しい。
まあそう言う事情なら納得だ。
しかし――
「俺の名前も残っちまうのか……」
郷間を助ける2回だけだから、多分弊害はないと思う。
けど、戦いの記録みたいで心情的にはなんか嫌だ。
何とか俺の名前だけ消せないかな?
「もっかい見せて貰っていいか」
「ああ、いいぜ。俺は親父に電話するから、ちょっと静かにしててくれ」
「わかった」
俺は郷間からクリスタルを受け取り、こっそりとバレない様に魔法を使ってみた。
使うのは、
これは魔法の契約書すら書き換える強力な魔法で、普通の人間では絶対に習得できない。
何故そんな魔法が使えるかって?
俺には学習チートと呼ぶべき能力があるからさ。
――
それは一度でも見た事のある技術や力など、ありとあらゆる物を習得出来る様になるという能力だ。
まあこの説明だと勘違いするかもしれないが、見る=習得ではない。
あくまでも
簡単な物はともかく、難易度の高い力や技は扱える様になるまで相当修練しないといけないので、万能とまではいかない。
とは言え……努力次第でどんな力でも手に入れる事が出来る訳だからな。
規格外のチート能力であるのは間違いないだろう。
因みに、この世界の特殊能力も習得できるのは確認済みだ。
郷間の使った鑑定を、じかに目にしているからな。
思った以上に難易度が糞高いので今はまだ使えないが、訓練すればその内使える様になるだろう。
「親父、今電話大丈夫か。実は――」
郷間が嬉しそうに現状の報告をする。
親父さんは今回の一件で心労が祟って倒れてしまい、今は入院しているそうだ。
……郷間の親父さんは、人情溢れるいい人だった。
そんな人を平気で裏切り、窮地に立たせた奴ら。
明らかに嫌がらせの様なタイミングで引き抜きを行った大手。
考えれば考えるほど、不快極まりない話である。
……早く元気になってくれるといいんだがな。
「おう、マジだって。クリアクリア。それもワンパンでさ!これならあっちの方も楽勝だと思う。だから安心してくれて――」
で、肝心の魔法の方はと言うと――
「成功だ」
周りに聞こえない様、小声で呟く。
クリスタルに触れて名前を確認すると、勇気蓮人の部分がエギール・レーンに変わっていた。
エギール・レーンって言うのは、俺を異世界に召喚した女の名だ。
人を呼び出すだけ呼び出して、自分は何もせず丸投げした奴で、俺はこいつが大っ嫌いだった。
――なんでそんな嫌いな奴の名前を使ったのか?
簡単な事だ。
死んだ仲間達の名前を、偽装なんかには使えない。
だから嫌いな奴の名前で試したんだ。
そういや、あいつには元の世界に帰る時指輪を持たされたな。
特に興味が無いから放ったらかしにしていたが、確か絶対役に立つって言ってたはず。
一応、家に帰ったら確かめてみるか。
「うん、うん……分かってる。ああ……じゃあ」
郷間が電話を切り、こっちに振り返った。
「親父がさ……蓮人にありがとうって……」
郷間の声が少し震えていた。
その眼には涙が溜まり、今にも溢れ出しそうだ。
――それまで終始無駄にテンションが高かったが、きっと親父さんに連絡した事で緊張の糸が切れたのだろう。
「俺からも……礼を言わせてくれ。ありがとう……蓮人……」
「蓮人さん、私からも……本当に……本当にありがとうございました」
凛音の声も震えている。
「気にしなくていいさ。友達だろ。俺達」
俺は笑顔で二人にそう答えた。
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