帰ってきた厄災と死にかけの研究者

朝霧

警備室前

 弟と妹を振り払って、俺はあいつの職場である研究所の前まできていた。

 普通に入ろうと思ったらカードがないと入れないようなので、仕方なく警備室に向かう。

「すみません、ここで働いている知人に会いにきたのですが……こちらで呼び出してもらうことって可能ですか?」

 愛想良くにこにこ笑いながらそう言うと、警備員は「お会いしたい方のお名前は……」と言ってから表情を硬直させた。

「お、お前は……!」

 どうも俺のことを知っているらしい、まあ仕方ないか。

「な、何故お前がこんなところに! というかいきて……」

「うっさいなあ、知り合いに会いにきただけなんだけど? あいつをここに呼んでくれれば何もしないから、おとなしく言うことを聞いて欲しいな?」

 そう言ってみたらどうやら逆効果だったようで、途端にブザー音が鳴る。

 そうするとどこからともなく警備員共がぞろぞろとやってきやがった。

 こうなるなら変装でもしてくりゃ良かったと思ったけど、後の祭りだ。

 面倒臭いな、まとめてぶちのめすかと思っていたら、奥から見覚えのある眼鏡の男がひょっこりと顔を覗かせてきた。

「なんだどうした?」

 確か彼女の上司で、彼女をスカウトしたというお偉いさんだ。

 眼鏡の男は俺の顔を見て大きく目を見開いた後、何故か穏やかな顔で笑った。

「……ああ、お前さん、生きてたのか……ならちょうどいい、十塚に会いにきたんだろう?」

「……何故、そう思った?」

「あの発表会の後、飲み会でべろんべろんに酔っ払ったあいつからほとんど全部聞いてな。……本人は一切覚えてないし、おれらも話は一つも漏らしてないから許してやってくれ」

「…………」

 あいつ、なにやってんの?

 ばかなの?

「いやあ……まさかあんなうっすいカシオレ一杯であそこまでになるとは思ってなくてな? ……ああ、それ以降酒の類は一切飲ませてないし本人にももう二度と飲まないように厳命してるから、そこらへんは安心してくれ」

 眼鏡の男はそう言いながら朗らかに笑った。

 あいつそこまで酒弱かったのかと思いつつ、こんなに呑気に笑っていられるのだから全部と言っても俺とあいつが顔見知りであることくらいなものなのだろうと、もう一つ問いかける。

「……あいつ、どこまで吐いたの?」

「だから、ほぼ全部だよ。厄災やら殺すっていう約束やら、知っていることがバレたらここの職場の連中の首が全員まとめて物理的に首を飛ばされるようなことを……な?」

 本当に全部だった、あいつ本当になにしてんの?

 思わず片手で顔を覆った。

「さて……と。こいつ、通してやってくれ。うちの問題児の客だ」

「し、しかし……」

「責任はおれが全部負う」

 眼鏡の男が強くそう言うと警備員達はたじろいだ。

 見た目はなよなよしているのに意外と権力があるのかもしれない。

「わ、わかりました」

「ありがとな。んじゃ、こっちだ、ついてこい」

 と、眼鏡の男は俺に手招きをする。

「……いいの?」

「いいんだよ。どうせあいつ以外に用はないんだろう?」

 その通りではあるが、何故こうもあっさりとしているのだろうかと奇妙を通り越して不気味に思った。

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