わたしには現在進行形で１５枚のモニターがある

　小（しょう）説（せつ）を書（か）く。

　かかる作（さ）業（ぎょう）において、わたしはノートパソコンと、外（がい）部（ぶ）接（せつ）続（ぞく）したモニターに文（ぶん）章（しょう）を表（ひょう）示（じ）させている。液（えき）晶（しょう）画（が）面（めん）はこの２枚（まい）だけだ。

　では、残（のこ）る１３枚（まい）のモニターはいったいなんなのか。

　――「付（ふ）箋（せん）」である。

　ちょっとした目（め）印（じるし）や補（ほ）足（そく）のために、教（きょう）科（か）書（しょ）のページなどにペタリ、と貼（は）ったりするアレだ。

　確（たし）かにモニターそのものではない。

　ないのだが、なかなかどうして、代（だい）用（よう）できている。

　お手（て）軽（がる）に使（つか）えて、書（か）き込（こ）む文（も）字（じ）の太（ふと）さも大（おお）きさも自（じ）由（ゆう）自（じ）在（ざい）、おまけに安（やす）かった。

　だからつい、わたしは付（ふ）箋（せん）を貼（は）ってしまう。

　今（いま）や花（はな）びらをつけたように、液（えき）晶（しょう）モニターの縁（ふち）がオレンジ色（いろ）の付（ふ）箋（せん）でびっしりだ。びっしりである。びっしりにする予（よ）定（てい）だ。

　付（ふ）箋（せん）には、主（おも）にとりとめのない言（こと）葉（ば）を書（か）いている。

　たとえば「讒（ざん）言（げん）」「奇（き）矯（きょう）」「宿（しゅく）鴉（あ）」――。

「ニル・アドミラリ（ラテン語（ご））」「頼（たの）む木（こ）の下（もと）に雨（あめ）漏（も）る」などなど。

　そのほか、自（じ）作（さく）の小（しょう）説（せつ）にかかわる造（ぞう）語（ご）、固（こ）有（ゆう）名（めい）詞（し）、伏（ふく）線（せん）の備（び）考（こう）も含（ふく）まれる。

　ぜひとも試（ため）してみてほしい。

　液（えき）晶（しょう）モニターの画（が）面（めん）を占（せん）有（ゆう）することなく、本（ほん）来（らい）の大（おお）きさ以（い）上（じょう）に情（じょう）報（ほう）を広（ひろ）げられるのが、モニター代（が）わりの付（ふ）箋（せん）なのである。

「メモ機（き）能（のう）なら、初（はじ）めからパソコンに搭（とう）載（さい）されてるよね」

「紙（かみ）のむだじゃない？」

　もしかしたら、もしかしなくても、こういったことを考（かんが）える人（ひと）はいらっしゃるだろう。

　前（ぜん）者（しゃ）は、人（ひと）それぞれに親（した）しめる方（ほう）法（ほう）があると考（かんが）えれば、間（ま）違（ちが）いのない意（い）見（けん）だ。

　後（こう）者（しゃ）は、意（い）外（がい）とそうでもない。

　識（しき）者（しゃ）の胸（むね）を借（か）りるつもりで、その理（り）由（ゆう）をさっくりと説（せつ）明（めい）しよう。

　経（けい）済（ざい）産（さん）業（ぎょう）省（しょう）が公（こう）表（ひょう）したデータによると、日（に）本（ほん）国（こく）内（ない）における２０２０年（ねん）度（ど）の古（こ）紙（し）利（り）用（よう）率（りつ）は約（やく）６７パーセント。

　メーカーや紙（かみ）製（せい）品（ひん）ごとの都（つ）合（ごう）を踏（ふ）まえ、単（たん）純（じゅん）に考（かんが）えられないものの、世（せ）界（かい）的（てき）に見（み）て日（に）本（ほん）は紙（かみ）資（し）源（げん）のリサイクルに力（ちから）を入（い）れているのだ。

　あれも紙（かみ）のむだ、これも紙（かみ）のむだかと、惜（お）しまなくてもいいといえよう。

　だったら紙（かみ）製（せい）品（ひん）を作（つく）るためのパルプ、その原（げん）料（りょう）である木（もく）材（ざい）はどうか。

　安（あん）心（しん）してほしい。日（に）本（ほん）国（こく）内（ない）の森（しん）林（りん）面（めん）積（せき）、約（やく）２５００万（まん）ヘクタールのうちの約（やく）１０００万（まん）ヘクタール、要（よう）するに約（やく）４０パーセントが人（じん）工（こう）林（りん）となっている（ちなみに１ヘクタールは１万（まん）平（へい）方（ほう）メートルである）。

　人（じん）工（こう）林（りん）の割（わり）合（あい）を森（しん）林（りん）資（し）源（げん）で見（み）てみると、その数（かず）なんと約（やく）６３パーセント。

　いずれも、林（りん）野（や）庁（ちょう）が２０１７年（ねん）にまとめたデータから参（さん）照（しょう）できる数（すう）値（ち）だ。

　すべての木（き）がパルプの原（げん）料（りょう）になったりはしないが、森（しん）林（りん）資（し）源（げん）が計（けい）画（かく）的（てき）に管（かん）理（り）されているあかしと見（み）ていい。

　すぐに使（つか）いきってしまう可（か）能（のう）性（せい）なんて、ほとんどゼロなのである。

　ところで、最（さい）近（きん）なにかと話（わ）題（だい）になっている、なっているはずの二（に）酸（さん）化（か）炭（たん）素（そ）削（さく）減（げん）運（うん）動（どう）――いわゆる、カーボンニュートラル。

　なにを隠（かく）そう森（しん）林（りん）資（し）源（げん）の循（じゅん）環（かん）的（てき）な活（かつ）用（よう）が、脱（だつ）炭（たん）素（そ）社（しゃ）会（かい）への道（みち）をこっそり支（ささ）えている。

　こちらについても触（ふ）れておこう。小（こ）話（ばなし）として、簡（かん）単（たん）に。

　植（しょく）物（ぶつ）は生（せい）長（ちょう）のために光（こう）合（ごう）成（せい）を行（おこな）う。

　その過（か）程（てい）で水（みず）と、そして二（に）酸（さん）化（か）炭（たん）素（そ）を吸（きゅう）収（しゅう）する。

　長（なが）生（い）きな樹（じゅ）木（もく）にとって、この働（はたら）きは樹（じゅ）齢（れい）が比（ひ）較（かく）的（てき）若（わか）いほど活（かっ）発（ぱつ）である。

　そして、森（しん）林（りん）資（し）源（げん）を守（まも）りたい一（いっ）心（しん）で木（き）を切（き）らずにいると、森（もり）全（ぜん）体（たい）が少（すこ）しずつ高（こう）齢（れい）化（か）してしまう。二（に）酸（さん）化（か）炭（たん）素（そ）の吸（きゅう）収（しゅう）量（りょう）も落（お）ちる一（いっ）方（ぽう）だ。

　ある程（てい）度（ど）なら、使（つか）ったほうが環（かん）境（きょう）に優（やさ）しい資（し）源（げん）もある。

　森（しん）林（りん）資（し）源（げん）はそのうちのひとつ、というわけだ。

　つまり、すなわち、言（い）ってしまえば。

　便（べん）利（り）な付（ふ）箋（せん）も同（おな）じように、なるべくむだにしない意（い）識（しき）を持（も）って、思（おも）いきり活（かつ）用（よう）すればいい。

　誰（だれ）もが紙（かみ）を使（つか）わなかったら、きっと、よくない未（み）来（らい）を招（まね）いてしまうだろうから。

　――などと、付（ふ）箋（せん）にいっぱいメモしておこうかと思（おも）う、わたしなのであった。