2.偏執狂 その④:狂言誘拐

 約束の時間――十四時を半刻ほど過ぎた頃、ニナが猫の入ったケージを携えて学院に戻ってきた。


 話を聞くと、王立第三公園の広場にある噴水の側に小さな箱が置かれており、そこへ指輪を仕舞うよう指示された。指示をしたのは公園で遊んでいた子供だった。金で伝言を頼まれたらしい。


 小さな箱へ指輪を仕舞うと、その子供は「猫はあっちに居るらしいよ」と路地裏の方を指さし、再び他の子供と遊び始めた。言われた通りにそちらへ行ってみると、そこには愛猫のクミンが入れられたケージが無造作に置かれていた。


 ニナはケージを回収し、ふと広場の方を振り返ったが、その時には既に指輪を入れた箱はなくなっていたという。


 私たちは生徒の出入り記録を閲覧するために結界管理人のもとへ向かう道すがら、お互いに監視した結果の報告を済ませることにした。


「ねえ、リン。西門からは誰か出た?」

「いいえ、西門からは誰も出なかったわ」


 ぶっちゃけると、ちゃんと見ていなかったからこれは当てずっぽうだ。しかし、同時にこれは信じていい情報でもある。


 西門は裏手に位置するので、ニナも私の報告に納得して使い魔メイトであるリリーの方に水を向けた。


「じゃあ、リリー。東門の方はどうだった?」

「十二時頃にロクサーヌ、コーネリア、ヨアナが三人で、十三時頃にサマンサが一人で出てゆくのを見ました。写真もしっかり撮影してあります」

「じゃあ、それ以外で学院外に出てる奴が居たら取り敢えず怪しいね!」


 そう言うニナは妙に嬉しそうである。ロクサーヌに、お前の友人がやはり犯人だったぞと突きつけるのがそんなに待ち遠しいのだろうか。


 そんなこんなで結界管理人室へ到着した私たちは、中に居た結界管理人に事情を説明して『外出記録』を閲覧させてもらった。


『12:04 ロクサーヌ、コーネリア、ヨアナ

 ︙

 13:09 サマンサ』


 リリーの報告通り、四人が結界から出た記録が残されていた。そして、彼女たちの他にロクサーヌの取り巻きが出入りした記録がないか探してみると。


『13:45 オフィーリア』


 私とリリーが監視していた時間中にも関わらず、学院を出ているロクサーヌの取り巻きが一人だけいた。


「――オフィーリアァァァァァァ!」


 鬼の首を取ったようにニナが猛々しく吠える。


「アイツ、諸侯派貴族の癖に! 貧乏臭いみみっちいことをおおおおおおお!」

「貴族といえども、ピンからキリまでいるということなのでしょう。つまり、の者はキリだったのですよ、キリ」


 リリーが横から疑念を補強するようなことを吹き込むと、ニナはますます勢い付く。とんでもない激情家だ、全く。結界管理人も困り顔なので、これ以上手が付けられなくなる前にと、私はニナを宥めにかかる。


「まあまあ、落ち着いてよ。ニナ」

「これが落ち着いていられるかああああああああ!」

「ほら――もうも来てるんだから。そのオフィーリアも居るわよ」

「えッ!?」


 ニナの振り向いた先――結界管理人室の入口にはロクサーヌ一派が勢揃いしていた。これに隠し切れぬ驚きを示したのがだ。


「どうして、ここに……!」


 思わずといった風に呟いたリリーは、一点にオフィーリアを見詰めていた。


「私が呼んでおいたのよ」

「……そう。気が利くじゃない! 即座に糾弾できる用意をしておくなんてね!」


 ニナが、ビシッとオフィーリアを指さす。


「証拠は挙がってるのよ! この盗人がぁ!」

「――ニナ、犯人はオフィーリアじゃないわ」

「正気かァあ? リン! 反駁するなら理由を言えぇぇぇぇ!」

「はいはい、こっちの『立入記録』を見て」


 私は、さっき『外出記録』と一緒に結界管理人に頼んでおいた『立入記録』をニナに見せる。ある一点を指さしながら。


『13:46 オフィーリア』

「……これは」


 つまり、オフィーリアは13:45に結界外へ出て、13:46に再び結界内に入っているのだ。その差、僅か一分。たったそれだけの時間では、学院から公園へ向かい指輪を回収し、そして戻ってくるなんてことは到底できない。


 加えて、そもそも約束の時間は十四時である。指輪の回収はどうしてもそれ以降になるのだから、オフィーリア当人による猫質交換は不可能だ。


「理解した? 彼女に犯行は無理なのよ」

「ぐ……」

「ついでに言うと、他の連中にも無理」


 そう言って、他の『立入記録』を見せる。


『13:48 ロクサーヌ、ロクサーヌ、コーネリア、ヨアナ、サマンサ』


 全員、約束の時間の前に戻ってきている。すると、ニナはばつが悪そうに黙りこくった。彼女の頭からはまだ疑心は消えちゃいないが、確たる証拠を失ってそれは宙ぶらりんになってしまったようだ。


「じゃ、じゃあ……誰が犯人だって言うのよ! 他の奴ら!? 猫が返ってきて、指輪が持っていかれたのは事実なのよ!?」

「――この写真を見て」


 私は撮影機カメラで取った写真をニナに突きつけた。


「これは……オフィーリア?」

「そうよ」


 そこに写されていたのは、オフィーリアが今まさにを出ようと足を踏み出す場面だった。


「ねぇ、?」


 いきなり話を振られたリリーは肩をビクッと跳ねさせた。話につられてそちらを振り向いただけのニナも、その反応に違和感を覚えたようで不審そうな顔付きをする。


「記録によるとオフィーリアが結界を出入りした時刻は13:45-13:46、そして写真の右下に記されている撮影時刻もまた13:45……この時間、リリーは東門の見張りをしていた筈よね? どうして、オフィーリアと私を目撃していないのかしら?」


 リリーは滝のように汗を流しながら、やはり何も答えなかった。今、必死で言い訳でも考えているのだろうが、もはや言い逃れの余地はない。


 数時間前、私は西門の監視をせずロクサーヌたちに会いに行っていた。彼女たちに、本来の予定通りの時間に学院を出てもらった後、学外からをしてもらった。


 そして、リリーが猫質交換のために離席したところを見計らい、オフィーリアに東門から出入りをしてもらい、その様を撮影機カメラで撮影した。


 全ては、犯人であるリリーを言い訳不能なところまで追い込むためである。


「ちょ、ちょっとまって!」


 場に流れかけた沈黙を嫌うように、ニナが口を挟む。


「話が見えないんだけど、それってつまり……リンは、私の使い魔メイトが犯人だって言いたいの!? というか、西門の監視をしていた筈よね? どうして、東門で写真なんか……」

「私は最初からリリーの犯行を疑っていたから」

「そ……そんな訳ないじゃない! どうして、リリーが誘拐なんて……そんなこと、する理由が……」

「でも、そう考えないとさっきのリリーの発言はおかしいわよね? 学院をただ出入りするだけの様子は相当に目立つ筈なのに……『外出記録』を見た時、さもオフィーリアは門以外のところから出たと確信しているような口ぶりだった。ちゃんと東門を監視していたらそんな言葉が出る筈もないのにね」

「ぐっ……」


 ニナは歯を食いしばりながら言葉を探し、懸命に使い魔メイトの弁解を試みる。それは、決してロクサーヌたちを疑ったことに対する後ろめたさだけでなく、真に使い魔メイトを信頼しているからこその行動だった。


 けれども、時として真実は受け入れがたいほどに残酷なものだ。


 しかし、ここまで来てもニナは認められないようだった。今回の事件が、自分の使い魔メイトの仕出かした『狂言誘拐』だということを。


「――はっ、分かったわ、皆グルなのね!? リンも、ロクサーヌも、そこの結界管理人も! 皆でグルになって私を馬鹿にしようって魂胆なんでしょ!? はずかしめようって、そうに……そうに決まって――!」

「ニナ様、もう……お止めください」


 止めたのは、リリーだった。他ならぬ当人から言われては、ニナも観念して閉口するしかない。私はその言葉を自白と取り、彼女に説明を求めた。


「こうなってしまっては……ニナ様の学院での立場をも危ぶみ兼ねません。では済まされなくなってしまいます」

「……やっぱり、アンタはニナとロクサーヌたちの仲を引き裂きたかったのね」

「はい……」


 リリーは私の要求に応え、ゆっくりと事件の流れを説明し始めた。


 ロクサーヌたちとニナの接近を厭うたリリーは一計を案じた。それが今回の狂言誘拐なのである。


 まず、二つの偶然からこの計画はスタートした。


 一つは、ニナが誕生日プレゼントに貰った高い指輪の話をロクサーヌたちだけにしたこと。もう一つは、オフィーリアが毎月、月初めの休日の同じ時刻に美容院に通っていることをリリーが聞き付けたこと。


 今日は無理を言ってオフィーリアに予定をねじ曲げてもらったが、それもロクサーヌの口添えなしでは実現しなかった。それくらいには予定に煩い頑固な女なのだ、オフィーリアは。そして、だからこそ私は脅迫文の日時指定を見てすぐに犯人の目論見にピンと来たのである。


 この二つの偶然を利用して、リリーはロクサーヌたちとニナの仲を引き裂こうと決めた。脅迫文を作成し、ニナが可愛がっていた猫のクミンを学外に隠した。この時、目立つケージを使う必要はない。【魅了チャーム】を使用し、大人しくさせた猫のクミンを鞄にでも入れて運べば目立つことはない。


 警察の捜査で痕跡が何も出なかったのも頷ける。なぜなら、使い魔メイトであるリリーの放つ魔力はニナと同一のものであるし、そもそもこの部屋で共に生活しているのだから魔力的な痕跡は残っていて当たり前だ。大事を取るなら、前日・前々日に【魅了チャーム】を披露する機会でも設ければ良いだけだ。


 そして、今日。ニナはこう言っていた。『門を見張るということにした』と。つまり、ここで誘導があったと考えられる。


 当初は、東門だけをリリーが見張る予定だったのだろう。この場合は「わざわざ人目に付かない裏手の西門を使ったから怪しい」と嫌疑をかけるつもりだった。リリーの目的はニナの中に植え付けた不信の増幅。それが達成できるのなら、口実は何でも良かった。


 だが、ここで予想外なことが起こる。それは私の協力だ。


 安易に異物イレギュラーを招き入れれば、思わぬ形で計画が破綻しかねない。だから、リリーは最初に私を拒絶しようとしたのだ。しかし、それは失敗に終わった。


 そこで、私には人通りの少ない西門の見張りをやらせ、嫌疑の口実を「門以外から出た者」に変えた。突発的なイレギュラーによく対応したとは思うが、まさか私がリリーを決め打ちしてハメにかかっていることまでは読めなかったのだろう。


「リリー、アンタが犯人だってことは薄々勘付いていたわ」


 犯人は一度部屋に侵入しているにも関わらず、なぜか目的の指輪でなく猫を盗っていった。あの散らかりようからピンポイントで探し出すのは難しいとしても、少しは探す努力ぐらいするだろうし、家探しの時に遠慮なんてしないだろうから破壊の痕跡ぐらいは残る筈だ。しかし、それすらもなかった。


 この時点で、金銭目的――つまり、ロクサーヌたちの中にいる経済困窮者による犯行ではないと思った。


 となると、他の有力候補はニナかリリーしかいない。なにせ、ロクサーヌたち以外に指輪の話をしていないとニナ本人が言っているのだから。


 そして実際に二人と会ってみて、ニナの悲嘆と憤懣は演技でないと察し、消去法で残るリリーを疑った訳だ。


「でも、動機が分からない。『どうして』とニナも言ったけど、私も同じ気持ちよ」


 どうして、ロクサーヌたちとニナの仲を引き裂こうとしたのか。


 今までのリリーの供述を憔悴した様子で俯きがちに聞いていたニナも、動機に関しては気になるのか顔を上げ興味を示した。暫く沈黙を要した後、リリーは徐に口を開く。


「――ひと目惚れ、でした」


 それからは、まるで堰を切ったようだった。


「宝石のような瞳、絹のような髪、童子のような体躯、その全てを包み込む柔らかな肌……ニナ様の美しさを知るものは私だけでした……それで、十分だったのです……」


 でも――と、リリーは親の仇の如くロクサーヌを睨み付ける。


「そこな売女めが、ニナ様を誑かそうとするからっ……!」

「誤解ですわ。わたくしはただ、ニナさんとお友達になりたかっただけで――」

「――黙れ! ここのところニナ様はずっと貴方の話ばかり! このままでは、ニナ様の美しさがぽっと出の貴方なんかに奪われてしまうかと思うと……耐えられなかった!」


 つまり、全てはリリーの歪んだ情念が原因だった訳だ。


 契約者であるニナに女夢魔サキュバスお得意の【魅了チャーム】はかけられない。それは私の体がマネに溶かされることがないのと同じ理由――使い魔メイトの〝人界〟での身体を構成するのが契約者の魔力だからだ。


 そのためにリリーは一個人としてのアプローチしかできず、焦りから一線を越えた。巻き込まれたロクサーヌたちはもちろん、契約者であるニナもたまったものではない。


「リリーが……私をそんな風に思っていたなんて……」


 ニナが愕然とした面持ちで呟く。


 全く、軽々しく魔族の使い魔メイトの方が良かったと言うものではないなと反省した。なまじっか知性があるだけにこういう人間関係のトラブルに見舞われることもあるのが面倒だ。


「それじゃ……謎は解決したことだし、後はロクサーヌに任せようかしら」


 そのために呼んだのだから、それくらいの仕事はしてもらわないと。


 ロクサーヌの肩をポンと叩いてバトンタッチすると、彼女は小声で「ありがとうございました」と礼を言う。私は「お礼は弾んでよね」とだけ返してその場を後にした。


 結界管理人にはもう少し厄介をかけることになるだろうが、まあ我慢してもらおう。


 管理人室を出て学生寮ドルミトーリウムへ戻る道を歩いていると、マネがうにうにと服の下から這い出てきた。


「なあ、よく分かんねーけどよ。これで良いのか? ロクサーヌの奴に丸投げで」

「もともと、ロクサーヌたちの問題じゃない。私は巻き込まれただけだし。それに……事の収拾は存外に簡単かもしれないわよ」

「マジ? 結構、蟠りが残りそうな感じだったのに?」


 私は軽く頷いた。


「たぶん、ニナはもうリリーのことを受け入れているんじゃないかしら」


 リリーが秘めたる想いを吐露した時、ニナが示した反応は当惑と気まずさがい交ぜになったような微妙なものであったが、私はその中に『嬉しさ』も混じっていることを見て取った。


 友人の少ないニナは、誰かに必要とされる経験も乏しかったのだろう。だから、リリーにそれだけ想われていると知って思いがけず『嬉しさ』を感じたのだ。


 幸いにして、物的被害は何も出ていない。指輪もリリーが持っているだろうし、猫も生きていた。


 つまり、残るは気持ちの問題だけだ。


 ニナがどう思うか、そしてロクサーヌたちがどう思うか。


 しかし、前者はさっき言ったようにニナはもうリリーを受け入れかけていると私は見ているし、後者に関してもロクサーヌたちは許すだろうという確信があった。


「まあ、ここらへんの心の機微みたいなのは魔物には難しいかなー」

「……そうだな」

「あれ、急にしおらしくならないでよ。めちゃ気ぃ悪いじゃない」


 マネはそれから学生寮ドルミトーリウムに戻るまで服の下に引っ込んでしまい、何度か話しかけても何も言わなかった。






 後日、アルダト・リリーが一人で私の部屋に訪ねてきた。


「先日は、大変ご迷惑をおかけしました」


 私がドアを開けるなり、リリーはそう言って深々と頭を下げた。


「アンタ一人? ニナは?」

「『恥ずかしい』……とのことです」


 聞くと、怒り狂っていた時の様子を落ち着いて思い出してみたら、自分でもとんでもない醜態を晒していたと気付いたようで、恥ずかしくて私と顔を合わせられないらしい。確かにあの怒りようは凄まじかった。


「私めは、ロクサーヌ様とそのご友人方にも、契約者であるニナ様にもご温情を頂き寛大にもお許しを賜りました。しかし、ニナ様ご本人はあの時の醜態を甚く気にされているようでして……あれ以降、再三にわたるロクサーヌ様のお誘いも全て断り続けておられます」

「あら、まあ。でも、時間が解決するでしょう、それは」

「はい、私めもそう愚考いたします。そして、それはニナ様も同じ考えのようで、心情が落ち着き次第、ロクサーヌ様のお誘いにも応じるつもりのようです。それからはまた友人になりたいと」


 私のところに謝りに来るのも、ニナの気持ちが落ち着いてからでも良かったのに。そんな私の思いに答えるように、リリーが謝罪に来た経緯を説明する。


「明後日から折節実習エクストラ・クルリクルムなる催しが始まるそうですね」

「ええ。――ああ! だから、その前にってこと?」

「はい、一言謝罪しておきたいそうで。どうぞ、これは心ばかりのお礼の品です。これからの友好を願って、とのことです」


 そう言って差し出された物品を見て私は驚いた。リリーの手中に光るそれは、間違いなくあの二百万リーブラもするというマジックアイテムの指輪だった。確かに、ニナは「協力のお礼としてくれてやったっていい」と口走っていたが、こっちとしてもまさか本当にくれるとは思っていない。


、ねぇ……あれで二百万の仕事をしたとは思えないから、戸惑っちゃうわね」

「では、受け取らないということで宜し――」

「――いや、もらうけど」


 引っ込めようとする手から引ったくるようにして私は指輪を受け取った。貰えるものは貰っておく、貧乏人の処世術だ。浅ましいとか言うなよ。言ったら殺す。


「では、そろそろ失礼いたします。他の方のところへも改めて謝罪行脚をする予定ですので」

「そう。頑張って。――あっ、ひとついいかしら?」

「はい、何でしょう」

「どうして、猫を殺さなかったの?」


 思えば、リリーの犯行は最初から生ぬるかった。仲違いをさせたいのなら、決定的にもっと取り返しのつかないことをするべきだった。例えば、拐った猫を殺してしまうとか。


「殺せば良かったのに。そうすれば、仲違いはもっと上手く行っていた」

「……そんなことできませんよ」

「どうして?」


 猫質交換の時、ナイフか何かで首をかっきってから渡せば良い。別に簡単なことだ。指輪を取られた上に猫を殺されて返されたとなれば、ニナは更に怒り狂っていただろう。


 だが、リリーは陶酔の情を呈しながらこう答えた。


「だって、クミンはあんなにも可愛らしい……」


 その時ふと見せた花の咲くような笑顔は、今まで見たリリーの表情の中で桁外れに真正性のあるものだった。それにつられて、私も頬が緩む。


「良かったわ。アンタにも可愛いところがあって」


 もし、彼女が完全無欠の外道だったら、仲を取り持ったことを後悔していたところだ。そうでなくて良かったと心から思う。


「ニナに伝えておいて、といえども折節実習エクストラ・クルリクルムでは手加減無用って」


 はっと、リリーが嬉しそうな顔をする。柄にもなく臭いことを言ったという自覚はある。しかし、最初に水臭いことをしたのはニナの方だ。これからの友好だなんて、私はもうとっくに友人のつもりでいたのに。


「今度、クミンを撫でさせてよ」


 リリーは微笑みを湛えてコクリと小さく頷いた。


「はい。ニナ様ともども、お待ちしております」

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