幼馴染が彼女になったので、真面目なお付き合いをしていきたいと心に誓ったのに、めちゃくちゃ誘惑してくる件

笹塔五郎

第1話 幼馴染はえっちがしたい

 私――城戸じょうとつばめには、とっても可愛いらしい幼馴染がいる。

 彼女の名前は常峰鈴音つねみねりおん。母方の祖母が外国籍らしく、その特徴が色濃く出たのか、綺麗な銀色の長い髪をしていて、顔つきは人形のよう、と表現できるくらいだ。

 肌も白くて綺麗で、そんな彼女と私がずっと一緒にいるのは、今更ながら不思議に思う。

 私の方は、『ザ・日本人』と言えるくらい普通の黒髪で、目立たない女の子って感じだからだ。

 家が近かったのと、鈴音が見かけによらずというべきか、そこそこにずぼらなところがあり、ずっと私が側で面倒を見てきた。

 彼女の世話を焼くのは嫌いじゃなかったし、むしろ好んでやっていたら懐かれた……というのが私達の関係だろう。

 そうして一緒に過ごしているうちに、気付けば中学を卒業する歳になっていた。――と言っても、私と彼女の関係が変わることはない。

 二人で家の近くにある女子校を受験して合格を勝ち取り、春から同じ高校に通うのだ。

 私と鈴音は幼稚園から高校まで一緒の幼馴染となる――これからも、ずっと仲良しでいられるそうだ。

 そう思っていたのだけれど、鈴音は私ともっと近い関係になりたかったらしく、


「ねえ、つばめ。わたしと付き合って」

「……? あ、卒業式終わったし、これから遊びに行こうってこと?」

「違う。恋人になってほしい」

「……え? えええ!?」


 あまりに突然の告白で、私は困惑した。

 卒業式を終えたばかりで、これからクラスメート達はカラオケに行こう、なんて話をしている時――私は鈴音から人気のない体育館の裏で、幼馴染から告白を受ければ誰だって動揺すると思う。

 ここは、お昼寝が好きな鈴音と一緒によく過ごした思い出深い場所で、少なくとももうここに来ることもないんだな、なんて干渉に浸っているところに、物凄い不意打ちを食らった気分だ。

 私は動揺しながらも、念のため鈴音に確認する。


「えっと、恋人って……それは私と鈴音が、だよね?」

「うん。わたしはつばめに告白してる」


 そりゃそうだ、目の前には私しかいないし、このシチュエーションは間違いない。

 鈴音は、私のことが好きらしい。

 いや、私だって鈴音のことは好きだけれど……恋人関係なんて、想像したこともない――と言うと、ちょっと嘘になる。というか、もしも付き合えたら、なんて考えたことがなかったわけじゃない。

 男の子から告白されることは、鈴音にとってそこまで珍しいことではなかったけれど、その全てを問答無用で「嫌だ」と強気のスタイルで断ってきた彼女が、もしかしたら『女の子が好きなのでは?』と思ったことはあったし、それが私なら嬉しい、なんて考えたことだってある。

 今、それが現実となっているのだ。

 でも、実際に告白されると、少し考えてしまうところはある。


「……私達、女の子同士、だけど?」

「わたしはつばめが好きだから。つばめは、わたしのこと、嫌い……?」


 そう聞く鈴音の瞳は少し潤んだように見えて、私は即座に否定する。


「そんなわけないよ! 私も鈴音のこと好きだもん!  告白されてめっちゃ嬉しいし……」

「なら、答え聞かせて?」


 鈴音が私の前に立って、上目遣いに言い寄ってくる。……こんなのずるい。

 幼馴染であることを差し引いても、この告白を断るなんて、私にはとてもできなかった。


「……私でよければ、喜んで」

「やった。ありがと、つばめ」


 テンションは高くないけれど、やや嬉しそうな声で私に抱きついてくる鈴音は、その点も含めて彼女らしいと思った。

 私もそれに応じて彼女を抱き締めて、頭を撫でてやる。

 こうして、私達は幼馴染の関係からレベルアップし、恋人同士となった。

 けれど、付き合い始めたからこそ、私は決意を新たにしたことがある。

 鈴音のことは大切にしよう――絶対に、真面目なお付き合いをしていくんだ、と。

 可愛い彼女にすぐ手を出してしまうような、そんな軽い女では、私はないのだ。段階を踏み、幼馴染であってもより深い信頼関係を結んでいくのだ。

 そんな決意を固めてから、おおよそ二週間。

 入学した高校の制服に身を包み、私と鈴音は入学式を終えて、一緒に帰るところだった。

 そこで、鈴音が私の制服の裾を引っ張りながら、言う。


「ねえ、つばめ」

「ん、どうしたの? 忘れ物?」

「違う。わたし、そんな忘れ物しない」

「いや、結構する方だと思うけど」

「あれは学校に置いてるだけ――って、今はそんなことどうだっていい。今日、わたしの家に行こ」

「鈴音の家で遊ぶの? ゲームでもするの?」

「ううん、違う。遊びじゃない」

「遊びじゃないって……何しにいくのよ」

「それはもちろん、『えっちなこと』」

「…………は?」


 おそらく、告白された時よりも私は驚いていたと思う。鈴音からそんな言葉が出てくるとは思わなかったし、まさか誘いがあるなんて想像もしていなかった。

 ――幼馴染の彼女は、付き合ってすぐに私とえっちなことをしたいと考えていたのだ。

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