第5話 舞踏会

「ローズ! 今この時、この場所をもって、お前との婚約を破棄する!!」


 どういうことだろう?

 確か、私はお嬢様の身代わりとして、処刑されたはず。

 それなのに、息がある!

 もしかして、生き返った?!


『生まれ変わってでも、私を身代わりにした奴らに復讐してやる!!』

 そう、願ったせいだろうか?


 だが、それにしても、この状況は何だろう?


 目の前にいるのは、お嬢様の婚約者だった、第二王子のラーク様で間違いないだろう。

 その殿下が、私に婚約破棄を宣言している。

 しかも、私のことをローズと呼びつけにしていた。

 お嬢様が後ろにいるのでは、と、確認するが、舞踏会の最中らしく、着飾った見知らぬ紳士や淑女ばかりだ。


『生まれ変わってでも』と願ったが、なにも、お嬢様に生まれ変わらなくても……。

 しかも、今は、お嬢様が婚約破棄され、殿下を氷漬けにした舞踏会であるらしい。


 一体、何がどうなっているの?!


「お前が、リリーを虐めていたことは、調査済みだ。何か申し開きがあるなら言ってみろ」


 落ち着け、私。

 ここで、魔眼を暴発させれば、お嬢様の二の舞だ。


 落ち着くため、殿下の隣を見ると、借りてきた猫のように怯えた表情の少女がいた。

 殿下は彼女を庇うような仕草を見せる。

 リリーという少女は、可愛いが、少しおどおどした、自分に自信がない、男性の庇護欲を駆り立てる、お嬢様が一番嫌いなタイプだった。


 悪役令嬢という言葉がお似合いの、意地悪なお嬢様のことだ、殿下の言う通り、彼女を虐めていたのは本当のことだろう。


「言い返す言葉もないか?だいたい、お前は、その魔眼と同じように、冷たい女だからな」


 お嬢様の切長の銀の瞳は、氷雪の魔眼と呼ばれ、見た物を凍りつかせる、非常に珍しい物だ。

 王家は、その力を手にいれるため、お嬢様を第二王子の婚約者としたのだ。

 だが、第二王子がこんなことを言い出すなんて、それはうまくいっていなかったようだ。


「あの。私の瞳は本当に冷たい銀色ですか?」

「何を今更?」


「お願いします。もう一度、よく、確かめてください」

「そこまで言うなら確かめてやろう」


 そう言うと、殿下は私の瞳を覗き込んだ。

 なんという美形なのだろう。

 お嬢様は、殿下の何が気に入らなかったのだろう?


「ふん。やはり冷たい銀色だ」

「そうですか。ありがとうございます」


 どうやら、氷雪の魔眼を持ったお嬢様に生まれ変わったことは、間違いないようだ。

 僥倖である。

 魔眼の力をもってすれば、復讐も容易いだろう。


「俺は、お前との冷たい結婚生活でなく、ここにいるリリーと温かな家庭を築くと決めたのだ。お前がいると、王宮が寒くなる。さっさと出て行け」


 きっと、お嬢様は、殿下のこの言葉に我慢できずに、切れて、魔眼の力を使ってしまったのであろう。

 お嬢様は、殿下を愛していなかった。だから、婚約破棄はお嬢様に好都合だ。

 だが、プライドの高いお嬢様のことだ。

 他の人に取られるのは我慢ならなかったのであろう。

 その相手が、この、リリー様なら、尚更に。


 しかし、私には殿下に切れる理由がない。


 たとえ、お嬢様が事件を起こした原因が、殿下の、この行為が元であったとしても、私が恨むのは筋違いな気がする。


 それよりも、私は、私をお嬢様の身代わりにした奴らに、どうやって復讐するかで頭がいっぱいだ。


「なにをしている。さっさと出て行け!」

「わかりました。それでは失礼します」


 殿下、よかったですね。今回は、リリー様と一緒に氷漬けにされなくて。


 前回は、切れたお嬢様が魔眼の力で、殿下とリリー様の二人を氷漬けにしてしまったのだ。

 幸い、二人とも一命は取り留めたが、王子が命を落としたかもしれない事態だ。

 流石に公爵令嬢とはいえ、その場で取り押さえられて、投獄され、処刑されることになってしまった。


 馬車で待っていた侍女の私は、その知らせを聞き、急ぎ公爵の屋敷に知らせに戻った。

 問題はこの後だ、公爵に知らせた後、侍女の私は部屋に戻り就寝した。そして、目覚めた時には、お嬢様の身代わりとして、処刑されることになっていた。


 状況からみて、私が身代わりにされたのを公爵様が知らないはずがない。

 それと、執事のフォセカと、私の愛するスグリも知っていたはずだ。


 では、誰が最初に私を身代わりにしようと言い出したのだろう?

 スグリはきっと反対してくれただろう。

 だが、スグリはまだ、執事見習いに過ぎない。

 仕方なく黙認するしかなかったのだろう。


 復讐するに当たり、そこを確かめておかなければならない。

 そのためには、殿下の茶番にいつまでも付き合ってはいられない。


 お嬢様の姿をした私は、殿下にお辞儀をすると、誰が私を身代わりにしたのか、確認するため、舞踏会の会場を出た。


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