バーチャルの世界への切符

素人の望月ゆるき

1枚目 〜静かに夜を見守る有明の月〜

まだ冬の香りが残り、雪も山の方にまだ残っている3月7日19時半。

「兄貴そろそろ開店の時間じゃ無い?俺は寝るけど無理はするなよ」

眠そうに声をかけてくれた双子の弟に感謝を伝え今日もカウンターへ入る。

 ここは市街地からは離れた丘の上、開店は20時からとうい事で主婦や仕事の疲れを癒しにくる人がほとんどである。


 開店して約5分した頃常連の近所のおばあちゃんが1人目の客だ。

「いつもありがとうね…来てくれて」素直に出てきた言葉がおばあちゃんに届く頃には何も言わずに笑顔で返してくれた。店には、注文されたジャスミンの匂いが立ち込めていた。その匂いが後になるにつれて無くなることを願い、耐熱ガラスのポットに湧いたお湯を注ぐ。

「そう言えば、この頃は見ないねぇ」少し寂しそうに聞こえてきた音に胸を締め付けられる。

「学生も何だかんだ、夜まで忙しいですからね。そのうち、課題が終わらない!って、ここに入り浸りますよ…」

 そういうとおばあちゃんは楽しみねと言いながら、準備ができたジャスミンティーを飲み始める。自分自身口に出したはいいが心のどこか奥が曇った様な感覚がしたが、店の扉が開く音がしたので気にせず持ち場へと戻る事にした。


 時間が空くがお客様は、わりかし来てくれるのはこちらとして嬉しいことだ。バイトは、雇っていないので1人で回すのは大変だが、お客さんはそれを知ってか、片付けをしてから帰ってくれる。自分は、感謝しかないなと心で噛み締めながらコーヒーの準備に取り掛かる。

「マスター!私大学の課題落ち着いたし、ここでバイトしてもいいんだけど、今って募集している?」たまにここを利用してくれている女子大生がいうと近くに居た他の学生も“俺も”“私も”と名乗りを上げてくれた。しかしここはバイトを募集はしてなく、気がついたら「募集し始めたら言うね」と口にしてしまっていた。大学生たちは「考えてくれるの!ありがとう!」と言って店を後にした。気がつけばもう、22時を回って閉店まであと15分に迫っていた。

 店には自分しか居なく、閉店準備に取り掛かろうとひとり口にした。時計のカッ・チッと言う音が心地よく鳴り、無心で作業をしていく。

 

終わる頃には、閉店時間になっていたので店の扉にかけてあるOpenの札を反対に返し、鍵を閉めようとした。

『あんたは、いつまで無理してんの』

 もう自分しか居ないはずの店から声が聞こえ、すぐに後ろを振り向くとそこには上手く姿が見えないが、どこか懐かしいと感じてしまう“カオリ”がした。

 気のせいかと思い鍵を閉めて2階の自分の住居に向かおうとすると

『そのままで良いのか。そうは思ってないはず。あんたなら…』

 今度ははっきりと聞こえ振り向くがやはり誰もいなく、鼻に懐かしさを感じた。

 不安と恐怖から寝室へ直行し寝る準備をし、ベッドへ潜り込んだ。

 寝る前にいつもスマホで動画を見てから寝るのでスマホを出す。すると、見慣れない白いアイコンのアプリが画面に表示されていた。

 ダウンロードした記憶がないのでアンインストールを試したが、上手くできなく仕方がないので開いて確認した。するとそこには光るアプリと画面に吸い込まれていく自分の姿があった。これは始まりだったのかもしれない。

 

数ヶ月後、21時頃

「皆さんいらっしゃい〜夜カフェ honobono へようこそ〜!ゆるき〜です〜」

 優しいマスターはバーチャル世界でもカフェを開き始めた。

 しかし、現実でも彼が変わっていくことをまだ知らずに…


“静かに夜を見守る有明の月ありあけづき”と“優しすぎるマスター”の始まり


〜Who is the next hero?〜

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