卑怯で臆病な僕は血塗れの聖女を受け入れることができない
歌川ピロシキ
婚約破棄
「フェルチア・ポピエル公爵令嬢。『戦場の天使』と呼ばれていい気になっているようだが、ろくに役にも立たんくせに、夜な夜な兵士を咥えこんでは淫行に
僕は執務室に呼び出した婚約者を立たせたまま高らかに言い放った。僕の隣に座ったルーレル・クラマッチ侯爵令嬢が悲しげに続ける。
「
わざとらしく涙ぐむその表情には隠し切れない
「かしこまりました。婚約破棄は謹んでお受けします。
ただし、不貞については心当たりがございません。
平坦な声で答えるフェルは人間らしい表情が抜け落ちてまるで人形のようだ。
かつては宝石のように美しかった碧の瞳は底知れぬ沼のように虚ろで、何も見ていないかのように感じる。ほぼ丸刈りと言ってよいほど短く刈り込まれた銀髪と相俟って、中性的を通り越して無生物のようだ。
「黙れ、この淫婦め!婚約破棄を告げられても涙の一つも零さず、私がルーと睦まじくしていても嫉妬する素振りもない。これぞ貴様が姦淫に
彼女の無機質な美貌に気おされていると気取られまいと虚勢を張って怒鳴りつけるが、肝心のフェルは顔色ひとつ変えない。
「お話になりませんね。とりあえず父に報告して手続きを進めねばならないのでこれで失礼します。陛下への報告は殿下からお願いします」
かつりと軍靴の踵を鳴らし、肘を張らずに顔の正面で腕を垂直に押し上げる、戦車隊特有の敬礼。凛としたその姿は幽鬼のように影が薄いのにどこか異様な迫力が漂い、不吉さを感じさせる。
そのまま踵を返すとこちらに見向きもせずに退出しようとした彼女の姿に、なんとも言えぬ胸騒ぎがした。
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