悪役令嬢の魅力にはまってしまったので友達作りを頑張ったら逆効果だった

仲仁へび(旧:離久)

第1話






 悪役令嬢って、好きになる要素なんてないと思っていた。


 だって悪役は登場人物の足をひっっぱったり、イジワルしたるするのだから。


 好きになるはずがない。


 でも、その悪役令嬢と出会った瞬間俺はその魅力にはまってしまったのだ。


 というか彼女が悪役だなんて、何かの間違いだ!









「ポメちゃんどこいくの~」


 俺は、その日。

 その少女に出会ってしまった。


 その瞬間の出会いは、俺に衝撃の嵐をもたらすっ!


「あらあら~、お友達に会いたかったのね~」


 ズガーーーーン!!


 雷でも落ちたのかと思った。


 違った。


 俺が衝撃を受けた音だった。


 ポメラニアンの子犬を散歩していたら、出会った少女。


 同じ犬種のポメラニアンを散歩していた彼女は、犬に引っ張られるように俺の元へやってきた。


 その瞬間。

 俺は一目で恋に落ちてしまったのだ。


 かわいい!

 ものっくそかわいい。


 ズキューーーーン!!


 ヒットマンに撃たれたのかと思った。


 違った、俺のハートが愛の矢で射貫かれただけだった。


 この世界にっ、こんなかわいい子がいていいのかよ!


 これ現実かっ!


 俺は衝撃を受けまくった。


 気が付いたら話しかけてしまうくらいには。


「あのっ、あなたのっおっ、お名前はなんでしょう」

「この子のお名前は~、ポメラニアンのポメ子ちゃんよ~」


 違うっ!

 そうじゃない。

 俺が聞きたいのは、君の名前だ!


 でもそんな天然な所もかわいいっ!


「俺の犬畜生の名前はポメ太郎ですよ。なんだかネーミングセンスが似てますねははは」


 すると、足元にいたゴンタが思いっきり俺を睨んできた。


 許せ、口がいけないんだ。この口が。


 次にこの人と会ったら訂正してやるから、次に繋げるまで我慢してくれ。


「まあ、そうなの~、おそろいね~」


 のんびりとした口調で、ふんわりとほほ笑む少女。


 俺は、もう彼女しか見えなくなってしまっていた。


「私の名前は、ナナリー。外国からこっちに引っ越してきたばかりなの~。これからよろしくお願いしますね~」


 そこで、俺は「あっ」と声をあげ、「いえ、何でもないです」と誤魔化す。


 ナナリーという言葉を聞いて、何か思い出すものがあったのだ。


 その瞬間、俺は雷にうたれたような衝撃をうけた。


 この世界はなんと乙女ゲームの世界だったらしい。






 この世界は、乙女ゲームの世界で、そして彼女は悪役令嬢。


 俺の前世の知識がそう言っている!


 うそ、だろ……!!


 あんな可憐で可愛い女の子が、悪……役!!


 ありえなさすぎて自分の記憶を十回ぐらい疑ったわ。


 でも、事実だったらしい。


 一体なんでか分からないけれど、彼女は悪役令嬢でこの世界は乙女ゲームの世界。


 それは確実だ。


 だって、ゲームに出てきた地名とおんなじ場所がいくつもあるし、ゲームに出てきた有名人も結構いる。


 こんなの偶然っていうには、できすぎだ。


 だから俺は、認めなければならなない。


 この目の前にある現実を。


 認めたうえで、どうするか考えなければっ!


 俺は、果たしてどうするべきだ!









 彼女とは奇跡的な事に、散歩コースが同じだったらしい。


 遠くから引っ越してきた彼女は、その日から俺と同じ時間帯に同じコースを散歩するようだった。


 その日も俺は、ポメ太郎あらためゴンタとお散歩。


 リードを新調したので、彼女は気が付いてくれるだろうか。


 男らしいゴンタにふさわしい、エネルギッシュなカラー・まっかな赤だ。


「あらあら~、おはようございます~。今日もいい天気ね~」

「そっ、そうですねっ」


 合流できる場所まで、歩いているうちに汗をかいてしまったのだろう。


 季節は初夏。朝早くでも気温はそれなりだ。

 汗をかいている俺に、彼女はハンカチを差し出してきた。


 なんていい子なんだ。

 しかも女子力が高い。


 しかし、このあとは学校に登校しなければいけない。

 あんまりのんびりしてられないんだよな。


 驚くべき事に俺と彼女は同じ学校に通っている。


 遅刻魔になって、そんな評判が彼女の耳にはいったらとんでもない。


 くっ、この甘いひと時の余韻にひたっていられないなんてなっ。


 これでクラスが同じだったら、もっと嬉しいんだけど。彼女は違うクラスどころか違う学年、しかも年上だからな。


 ずっと学校にいられるか分からないけど、どうしても彼女の方が早く卒業してしまうのだ。


 くそう。







 ナナリーさんは、とても可愛い。


 そして、のんびりしてるけれど、人に優しい。


 遅刻しそうになってしまっも、人助けしてしまうような人だ。


 そんな彼女はさぞもてるだろう。


 と思ったが、学校では意外と誰も彼女の傍にはいない。


 みんな、彼女の家が大きすぎて敬遠してしまうのだとか。


「学校の中でお友達がたくさんできたら嬉しいわ~」と言っていた彼女の周りに、人がいるところを見たことがなかった。


 こうなったら、俺が一肌ぬぐしかない!


 俺がナナリーさんの良い所を宣伝するのだ。


「というわけでナナリーさんのお友達になってください」


 ナナリーさんのクラスメイトに突撃してみた。


 けれど「えぇ……」みたいな反応しか返ってこなかった。


 勢いで行動してしまった。


 これはまずかっただろうか。


 いや、まずいだろう。


 冷静になれ俺。


 いきなり見知らぬ人から何の説明もなしに「友達になってくれ」なんて言われたら身構える。


 しどろもどろになりながらなんとか説明しようとする俺だけど「じつ、実はこれはナナリーさんがそれでそのっ」「いえあの、間に合ってますので」と、失敗。


 いきなり家に訪問してきたセールスマンにするような対応で、相手はその場を去ってしまった。


 なんてことだ!


 失敗してしまった!


 でもめげない!


 次の作戦だ!







 俺はナナリーさんの美しいお顔をポスターにして校内に貼り付けた。


 こうすればナナリーさんをより身近に感じてもらえるし、親近感をもってもらえるはずだ。


 なんていいアイデアだろう!


 このためだけに絵画教室にかよって、頑張って技術を学んだ絵画あるな!


 写真で十分?


 ばかっ、盗撮なんてできるわけないだろ!


 それにナナリーさんの魅力を表現するなら、あたたかみのある絵画が適してると思ったんだよ!


 さぁ、結果はどうだ?


「こんなものをあちこち貼るなんて」「ナナリーさんって人は、目立ちたがりなのね!」「関わらないでおこうっと」


 なっ、なんという事だ!


 逆効果になってしまった!


 俺は、なんという事をしてしまったのだ!


 どっ、どうしよう。


 なんとか誤解を、解かねば!


 俺のせいでナナリーさんに迷惑をかけられない!







 というわけで、誤解をとくために学校の中のいたるところを修繕してみた。


 うちのがっこう、長い歴史に比例してあちこち痛んでいるからな。


 ふぅ、このためにDIYを勉強したかいがあった!


 休校舎の腐食していた床もきっちりなおしておいたし、中庭の小屋だって屋根をかえておいた!


 ナナリーさんがやったと思わせるために、サインも書いておいたぞ!


 だけど、その際におまもりに持ち歩いていたナナリーさんのミニポスターを落としてしまった。


 大切なものだったのに、後で探さねばな。


 しかし、そしたら「一体だれがこんなひどい事を!」俺のDIYがとんでもない結果を引き起こしてしまった。


 なおした床に穴があいて、屋根もくずれおちてきたらしい。


 なんという事だ、俺は不器用だったのか!


 俺のせいでヒロインが怪我をしてしまったようだ。


 もっ、もうしわけない。


 その後も、俺の不器用な修繕箇所がたびたびヒロインに迷惑をかけていく。


 これでもかというくらい、狙い澄ましたかのように穴に落ちたり、壁が崩れたりしてしてしまう。


 攻略対象達は、誰がやったんだといきり立っていた。


 こっ、心が痛い!


 しかもその内、それをやったのがナナリーさんのせいだと噂されるようになってしまった。


 やっ、ヤバすぎる!


 かくして、ヒロインを邪魔に思う存在するはずのない人物、悪役令嬢ナナリーが誕生してしまったわけだ。


 ナナリーさんが悪役令嬢にしてしまうのは、まっ、まさか俺のせいだったなんて。


 俺は、なんて事をしてしまったのだ。









 なんとか誤解をとかねばと思うが、想像上の悪役令嬢ナナリーの行動に影響をうけた者達がいて、ヒロインに嫌がらせを始めてしまう。


 イケメンとつるむ女、憎し!


 みたいな感じで団結してしまったようだ。


 嫉妬の火が、簡単に消えないほど燃え盛っていく。


 俺のせいでナナリーさんはますます孤独になってしまった。


 友達ができるどころか、人に遠巻きにされてしまう。


 そしてとうとう、乙女ゲームの最終局面。


 悪役令嬢の断罪エピソードが起きてしまった。


 攻略対象達につめよられてオロオロするナナリーさん。


 想像上の悪役令嬢ナナリーさん。その行為に便乗してたヤツは知らんぷりばっかりだ。


 くそっ。


 ナナリーさんが、あんなに悲しそうな顔をしている。それをさせたのが俺のせいだなんて。


 俺はもう、ナナリーさんと話す資格なんてないな。


「ちょっとまったぁぁぁ! それをやったのは俺だ! ナナリーさんは俺が悪事を働く時の隠れ蓑にさせてもらっただけだ! イケメンとつるむカップルが憎かったからやったんだ! ざまぁみろ! ふはははは!」


 俺はあえて、濡れ衣をかぶり真の黒幕を演じる事で、ナナリーさんに対するヘイトを引き受ける事にした。


 これなら、いくら優しいナナリーさんでも俺をかばおうとしないはずだ。


 ナナリーさんは「えっ」という顔をする。


 いいんだ、ナナリーさん。


 俺のは全部自業自得だからさ。







 数日後。


 今日も俺は学校でぼっちだ。


 クラスで話しかけてくれる人はいないし、昼食だって寂しく裏庭で食べてるぞ。


 黒幕だとカミングアウトしたせいで、多くの生徒に嫌われてしまったからな。


 いいんだ。いいんだ。

 甘んじて罰としてうけよう。


 だって、俺は自覚がなかったとしてもナナリーさんに酷い事をしてしまったから。


 けれど、裏庭でもそもそ弁当を食べていた俺の元に、ナナリーさんはやってきた。


 どっ、どうしてここに!


 そのナナリーさんは、俺の無実を心から信じているようだった。


「あんなにかわいいわんちゃんを飼っている人に悪い人なんていないと思うんです」


 そんな事ない!


 ほらっ。


 動物を利用して、動画で荒稼ぎしようとしてる奴だって世の中にはいるし。


 劣悪な環境で育ててペットショップに売ってる奴もいるし。


「それに、あの時ナナリーさんって私の事をさん付けでよんでましたよね。悪い人だったら、そんな風に丁寧に人を呼んだりしませんよ」


 しっ、しまったぁぁぁ!


 いつもさん付けしてるから、やらかしてしまった。


 そんな細かい所でミスるなんて。


 ナナリーさん、よく気がついたな。


「とんでもない! おっ、俺は悪い奴なんです。だからナナリーさんは話しかけない方が良いですよ」


 俺は震える声で否定するけれど、ナナリーさんには全てお見通しのようだった。


「私は貴方が良い人だって信じます」


 うぉぉぉん。


 ナナリーさぁぁぁん。


 もうナナリーさんがヒロインでいいよ!


 主人公でいいよ!


 乙女ゲームの主人公は君で決まりだよぉぉぉ!


 涙をこらえる俺に手を差し伸べるナナリーさんは、まるで聖女のように見えた。


 俺は、その手をとりたい誘惑にかられたが、どうにかこらえて背中を向けて去っていく。


 俺なんかと一緒にいちゃいけません。


 ほら、「あんな奴と一緒にいちゃだめよ! 何されるか分かったものじゃないわ。ナナリーさん」とか言ってるクラスメイトの女の子が呼びに来てるよ。


 俺はふりかえらずに、とぼとぼと歩き去っていく。








 そのまま学校でも一人ですごして、一人さびしく帰宅。


 帰った俺をなぐさめたのは、ゴンタだった。


 おまえ、良い奴だな。


 ごめんよポメ太郎なんてユニークな名前つけちゃって。


 そのまま学生生活は最後まで一人さびしく過ごす決意を固めた俺だった。

 が、ナナリーさんはどこまでも優しかったらしい。


 ゴンタの健康のためにこれだけはやめられない朝の散歩をしていると、ナナリーさんが友達と散歩しているのを見つけた。


 散歩の時間を飼えたのに、なぜに!?


 傍にいる友達らしき子は、あの時、ナナリーさんを心配して呼びにきた女の子だ。


 良かった、朝散歩できるような友達ができたんだな。


 そう思ってると、ナナリーさんが俺を見つけて話しかけてきた。


 俺はやべっと思って、その場から逃げるけれど。


 ポメちゃん襲撃!


 犬畜生に襲われた俺は、ズボンのすそをかまれてその場から動けなくなってしまったのだった。


 無理して動くと、ズボンがちぎれる!


 そうなると学校の中だけでなく、社会的に死んでしまう!


 ううっ、なんて、なんてしまらない男なんだ!

   

 うだうだしていると、ナナリーさんの友達が近づいてきて、「なるほどね」と喋った。

 そして、うちのゴンタを眺めまわす。


「ナナリーの言う通り、犬の面倒はちゃんと見てるじゃない。毛のツヤもいいし、体重もきちんとありそう」

「そうなんですノンノちゃん。だからゴンタ君を飼ってるこの人は本当は悪い人じゃないんですよ」


 いつのまに友達から呼び捨てされる中になったのだろう。

 ともかく、ナナリーさんは頑張ったらしい。


 まず友達を一人説得して俺の汚名をすすごうとしてくれたようだ。


 ナナリーさんにノンノと呼ばれた女の子は、「ふぅん」と顔を近づけて俺をじろじろ。


 俺は思わずびくっとした。


 それを見てノンノちゃんは肩をすくめたらしい。


「ナナリーの言う通りかもね。こいつに大層な悪事が出来るように見えないわ」


 よく分からないが、もう一名だけ俺の無実を信じてくれる人が現れたらしい。


「まあ、理由の大部分はナナリーが言うから信じたんだけど。あんたも災難ね。どんな理由か知らないけど、学校中の生徒から嫌われるなんて」


 ノンノちゃんは、やれやれと首をふって俺に気安く話しかけてくる。

 まあ、その流れはその、自業自得だしね?


 しかし、この流れは、あれなのか?


 おっ、俺に二人目の女の子の友達が!?


 えっ、できる……のか?


 なんか夢みたいな光景だな。


 夢とかじゃない?


 これベッドに入ってる俺がみた、むなしい幻とかじゃないよね?


 昨日までは学校中が敵みたいな感じだったのに、なんか一瞬で雰囲気がほんわりしてしまった。


 うろたえていると、ナナリーさんが俺ににこりと笑いかけてくれた。


 ずきゅぅぅぅん!


 俺のハートは再び射貫かれた。


 て、天使だぁぁぁぁ!


 なんて、心の清らかな女性なんだ。


 くっ、俺のみみっちい部分とかかっこつけな部分とか、悪しき部分がまんべんなく浄化されそう(そんなにあるかどうかわかんないけど)!!


 俺は涙を流しながら感激するしかなかった。


 尊いって言葉は、このためにあるっっ!!


 すると、ノンノちゃんが引いた顔で俺から離れていった。

 ついでにナナリーさんも遠ざけようとしている。

 良い子だなぁ。


「ちょ、なんか泣き出したんだけど、こいつ! 悪い奴じゃないけどやっぱり変人よ、ナナリーこいつには近づいちゃだめよ!」

「そんな事ないですよ。この人は良い人です。きっと友達ができて嬉しいんですよ」

「えぇ……? ちょっと能天気すぎじゃない?」


 ここまでされたら、俺はもう意地なんてはれないよ!


 くそっ。






 一時はどうなるか分からなかったけれど、俺の学園生活は完全なる灰色では終わらなかったようだ。


 俺はその後もナナリーさんとノンノちゃんと友達でいられるようになった。






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悪役令嬢の魅力にはまってしまったので友達作りを頑張ったら逆効果だった 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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