第47話

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 047_新しいラビリンス

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 ベック港の沖合に島がある。そこに島などなかったのに、いつの間にか島ができていた。


「まさか……」


 ロドニーには思い当たることがあった。

 ラビリンスの宝物庫を開くと、そのラビリンスのそばに新しいラビリンスができるのだ。これは賢者ダグルドールに教えてもらったことだが、賢者ダグルドールも過去に2回宝物庫を解放して、新しいラビリンスができたのを確認している。


「まさか島ができるとは思ってもいなかったぞ」


 島の近くで漁をしていた漁師に聞いたところ、ロドニーが王都に出発した翌日後にできたらしい。

 ロドメルが調査をしているというので、ロドメルに話を聞いた。


「あの島はラビリンスに間違いございません。島自体がラビリンスのようで、セルバヌイが闊歩しておりました」

「島自体がラビリンスなんて、聞いたこともないぞ」


 こんな時に賢者ダグルドールが居たらと思う。だが、甘えてばかりもいられないので、ロドニーはロドメルからしっかりとラビリンスの情報を聞いた。


「すると、あの島で上陸できるのは、1カ所しかないのか」


 かなり峻嶮な崖に囲まれていて、1カ所だけ砂浜がある。その砂浜に小舟で上陸するしかないらしい。


「島の周囲には多くの岩礁があって、小舟でしか近づけません」


 デデル領沖300ロム(600メートル)にできた島型のラビリンスは、南北15ケンツ(3キロ)、東西10ケンツ(2キロ)の大きさだ。

 島の周囲は岩礁が多く小舟しか近づけないし、上陸できる場所も砂浜に限られている。

 島自体がラビリンスになっていて、砂浜以外にはセルバヌイが闊歩している。

 出没するセルバヌイは上級程度の力を持っているため、かなり危険だとロドメルは報告した。


「いきなり上級のセルバヌイが現れるのか」

「そのため、島の探索はまったく進んでおりません」

「仕方がないな。上級では精鋭たちでも危険だ」


 廃屋の迷宮の7層を探索する精鋭領兵たちだが、その7層で出てくるのが上級セルバヌイだ。6層まで中級セルバヌイだったため、精鋭領兵たちでも7層の探索はほとんど進んでいないのが現状だ。

 上級セルバヌイを倒すのに、従士と6名の領兵では数時間かかってしまう。そんな戦いを1日何回もできるわけがなく、7層の探索は遅々として進んでいない。


「無理をする必要はない。上級では精鋭たちでも被害が出るだろう」


 そこで気になったのは、エミリアだ。無茶をしなかったか、ロドメルに聞いた。


「ロクスウェルと中堅領兵を率いて、廃屋迷宮の7層を探索しております」

「7層をか。大丈夫なのか?」

「精鋭たちよりも戦果を挙げております。彼らは中堅ではなく、精鋭と言っても過言ではありません」


 エミリアはロドメルが島への立ち入りを禁じたことで、廃屋の迷宮へ入っているらしい。これまで中堅と言われていた領兵たちは、精鋭と呼ばれていた領兵たちよりも戦果を挙げていた。

 湖底神殿攻略戦に参加した中堅領兵たちは、『流体爆発弾』という遠隔攻撃の手段があることで上級セルバヌイ相手にも目覚ましい活躍をしていたのだ。


 その夜、エミリアに7層のことを聞いた。

 7層は寒冷地エリアで、気温が低く雪が降っている。出てくるセルバヌイは白い毛に覆われた大きなサル。力が強く氷の球を射出してくるというのが、これまでの情報。


 白い毛に覆われた大きなサルの情報は書物になかった。賢者ダグルドールも知らないと言っていたため、前世の記憶にある雪男やイエティ、ビックフットのようなセルバヌイを思い浮かべていた。

 そのことから、ロドニーはそのセルバヌイをスノーマンと呼称するように、周知している。


 ロドニーは『流体爆発弾』と『高速回転四散弾』の使い勝手を聞いてみた。


「『高速回転四散弾』なら1発でほぼ致命傷を負わせられるわ。『流体爆発弾』でも2発あれば倒せるわよ」


『高速回転四散弾』は致命傷を負わせられるため、その後は剣や槍などの武器で戦っても大して苦労はしない。

『流体爆発弾』は1発では倒せず、武器で直接攻撃するのは危険。2発命中させれば倒せるらしい。


 もっと早くに対策をしておくべきだったと、反省。

 ロドニーはロドメル配下の精鋭たちにも『高速回転四散弾』か『流体爆発弾』を覚えさせることにした。


「そうだ、これ」


 エミリアはスーノーマンの生命光石を経口摂取しろと、3個の生命光石をロドニーに渡した。


「いいのか?」

「1個や2個、私にとっては誤差だから、気にしないで食べて」


 ロドニーはありがたくもらった。

 経口摂取すると、『氷水操作』を覚えた。これは水と氷系の放出系根源力を操るものだ。

 2個目の生命光石を経口摂取したが、何も得られなかった。

 スノーマンの生命光石は普通だと『氷球』が得られると考えられ、経口摂取できるロドニーは『氷水操作』になる。


『氷水操作』は飲み水を出すこともできれば、ビールをキンキンに冷やすこともできる。それどころか、スノーマンのように氷の弾を射出することもできる根源力だ。

 また、所有者は寒さによる影響を受けなくなり、極寒の雪山であっても裸で過ごせるようになる。


「7層探索には都合の良い根源力ね。でも、私は7層はいいわ。デデル領の冬だけで雪は十分だもの」


 最初に7層探索をした精鋭領兵たちと、エミリアたちが集めた生命光石は全部で70個ほどある。

 あと30個ほど集めれば、誰か1人に『氷球』を覚えさせることができるだろう。


「誰かが『氷球』を覚えたら、そこで7層探索は打ち切って島の探索に力を注ぐか」

「それ賛成!」

「だが、俺は自動車の開発もしなければいけないから、7層に関してはエミリアとロクスウェルに任せる」

「仕方ないわね。でも、誰が『氷球』を覚えるの?」

「そうだな……。エミリアには『高速回転四散弾』があるが、『氷球』も覚えればいいだろう。精鋭領兵たちにも『高速回転四散弾』か『流体爆発弾』を覚えさせれば、不満も出ないだろう」

「お兄ちゃんが苦しい思いするだけだもんね」


 エミリアは軽く笑い飛ばし、苦痛を感じるロドニーは苦笑する。


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 自動車の開発を急ぐ傍ら、従士全員と精鋭領兵にも『高速回転四散弾』か『流体爆発弾』を覚えさせた。これでエミリアに『氷球』を覚えさせることに不満はでないだろう。


 ロドニーは自動車の開発を急いだ。島の探索もしたいが、自動車の開発が中途半端なので終わらせないと気持ちが悪い。

 バージスのおかげで港、ガリムシロップ工房、ビール工房を繋ぐ線路はできている。あとはパワーアップした自動車をロドニーが開発するだけなのだ。


 研究施設にこもったロドニーは、『造形加工』を駆使して高出力発電機を作り上げた。ビーム砲にも使えるようなものだ。

 モーターも新型を開発した。発電機はビーム砲のものを再現するだけでいいが、モーターはかなり思考錯誤した。

 回転数を確認したいが、計測器がない。だから、音を聞き分けて回転数が上ったかを確認するしかない。アナログどころか感覚の世界だ。


 思考錯誤の結果、高回転のモーターを開発した。発電機もモーターも大型になってしまったので、自動車の車体も大型化する必要がある。

 今回の車体はトロッコのようなものではなく、ワンボックスのような自動車にする。

 ギア比を調整して高回転でも速度は出ない代わりに、パワー重視にしている。


 最初の試験走行は荷物なしで行った。これは難なく成功した。

 次に荷物を牽いた試験走行をした。ガリムシロップやビールの代わりに、大きな石を乗せたトロッコを牽く。

 供給電力を上げてモーターを動かす。自動車が動き出した。このまま順調に速度が上がると思ったが、モーターから異音が聞こえ止まってしまった。


 試験走行は失敗に終わった。かなりの負荷がかかり、モーターが焼き切れたのが原因だと分かった。

 大きな荷物を運ばなければ、特に問題はない。だが、それでは意味がない。


「新しいモーターの構造を考えないとな……」


 前世の記憶は技術者のものではない。モーターの改造など簡単に行えない。


「とりあえず、冷却してみるか」


 空冷と水冷。どちらがいいかと悩んだが、水冷のほうがよさそうだと考えた。モーターの周囲に水が通る道を作って、循環させることにした。


「かなり大掛かりになってしまったな」


 水を循環させるためのモーターをもう1つ設置した。それ自体はそこまで大きなものではないが、水を循環させるのに必要だった。今はそれしか思いつかなかったのだ。


「やっぱ、技術者が欲しい」


 技術者ではないロドニーには限界があることくらい気付いてはいたが、自動車などつくれる技術者などこの世界にはいない。


 

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