♡きみと”がっちゃんこ”がしたい♡

x頭金x

第1話

 凪いた海を右手に、動じない山を左手に、今日も電車が走っている。


 毎日の通学に使っているこの2両の電車は、進行方向に向かって2人掛けの椅子が左右に列をなしてあり、その間に通路があるタイプの電車で、その座席は電車が折り返して運転しても“がっちゃんこ“すれば進行方向を向いて座ることができるタイプの座席で、片方だけ”がっちゃんこ”したら2人同士向き合って4人で和気藹々4人の世界が作れる。


 達海はいつもその2人掛けの座席を一人で使用している。県をまたいだ所にある進学校に地元の中学からは達海1人だけ合格して毎日片道1時間半かけて通学している。似たような境遇の生徒も多くはないが少なくない程度いて、女子の比率の方が多い。毎朝顔を合わせるためその子達はすぐ仲良くなって片方だけ“がっちゃんこ“の4人の世界で和気藹々な生徒が多い。いつも一人でいる達海は毎朝気が重く、そこで繰り広げられているガールズトークを半ば強制的、半分聴き耳を立てて聞いていることへの後ろめたさもある。いつか僕も“がっちゃんこ“がしたい、そう思ってもう3年目、夏、受験のための追い込みの季節。夏休みだというのに夏期講習の為またこの電車に乗っている。


 そんなある日見たことのない女子高生が電車に乗ってきた。ポニーテールに結んだ艶やかな髪、小さな顔が強調されている。目は力のある二重で、何者にも媚びないような目つきをしているがその奥にしっかりと慈愛を秘めていて、慄然と通った鼻筋に、少し厚ぼったい唇が色気を醸し出している。首は長く胸は適度に膨らんでいて、なんといっても足が長い。その足の長さを強調するためにスカートはもう少し短くていいのではないかと思うがきっちり膝ぐらいだ。そんな美人はこの電車を利用していない。制服はうちの高校のだ。転校生だろうか。



 その子は“がっちゃんこ“せず1人で2人席の窓際に座っている。いつも陰気な翔子が座っていた席だ。翔子とは幼馴染である。といっても家が近いわけでもなく、親同士が同窓生だから生まれてからしばらく遊んだ程度で、学区も違うので小学校にあがると頻繁に遊ぶこともなく、物心ついてからは話をした記憶もほとんどない。翔子は太っていてメガネで、ボサボサの髪にロングスカートといういわゆる典型的なアレな子だ。だから同じ高校に受かったからといって仲良くなるわけはなく、いつも同じ電車に乗っていたがそこにいるのかいないのか気にしたことはほとんどない。聴き耳を立てるのに必死だからね。そんな日々の中今日は翔子ではなくとんでもない美人がそこに座っている。なんだろう、不思議な気分だ。よく見ると翔子だった、なんて言うと思うだろう?その通りだった。夏ってすごい成長するからね女の子は。完全に恋してるよこいつ、それって僕にしてるんじゃない?って思うやつってモテないしひたすらモテない。相手にしてなかった子が自分より先に自分の殻を脱して恋しておセッセしてる現実を受け入れることができなくて相手を責めて罵る人生がお前だ達海。翔子はお前に恋していない。家庭教師とずっこんばっこんのハッピーライフハッピーセット将来はタマホームで玉造に家が勃つ。


 そんな事考えてるから受験にも失敗するし30超えても童貞なのだ。そうなりたくないだろう?世界を変える唯一の手段、「行動」。


 失敗してもいい、行動あるのみ。行動が思考を作る。頑張れ。

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