ケ・セラ・セラ

羽弦トリス

第1話どうぞ、お気楽にいらっしゃい

僕は30歳で統合失調症を発症させた。

しかも、新婚ホヤホヤで。団体職員だったが、向こうから退職させるような、シフトを組んだ。月9万円でどうして生活出来るだろうか?

退職日に各部署へ挨拶周りして、帰宅すると嫁さんが花束を渡してくれた。

「6年半お疲れ様でした」

僕はとても嬉しかったが、感情の平板化で顔からは喜んでいるように見えなかっただろう。


退職日が12月の中頃。

嫁さんは2月、妊娠した。僕たち夫婦はハイタッチして喜んだ。

そして、僕は直ぐに障がい児施設で勤務を始めた。

だが、統合失調症を甘くみてはならない。2か月で退職した。

原因は、僕が昼前服薬しているのを同僚に見られ、薬剤名から精神病がバレて、クビになった。


嫁さんに謝った。

でも、嫁さんは、

「ゆっくりと時間をかけて、病気と闘おうよ」

と、言う。

僕は思った。彼女を伴侶にする目は狂っていなかったと。

優しい嫁さんに対して僕は申し訳なく思えたが、しばらくは甘えてみようか?

貯金通帳は全部渡してあげた。

ヘソクリはバレ無いように、東野圭吾の小説の間に挟んでいる。


一日中、精神障がい者の仕事を検索して、疲れて寝ていると、嫁さんは帰ってきた。

嫁さんは遊技機部品を取り扱う会社の正社員。

買い物袋を手にした姿を見て、

「今夜は、僕が作るよ!」

「えっ、いいの。お風呂、入っていい?」

「どうぞどうぞ」

妊婦の嫁さんは最近、休みの日は寝てばかりだから、できるだけ家事を手伝っていた。

風呂上がり、嫁さんが、

「美味しそうな匂いがする~」

「クリームシチューだよ!」


2人でテーブルで夕御飯を食べた。嫁さんはシチューをおかわりした。

嬉しかった。

僕は、シチューをご飯にかけて食べるのがクセ。

子供が産まれたら、きっとこんな温かい家庭を築きたいと考えていた時期である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る