神の血に溺れる~Wild Life~
出っぱなし
第1話
『マーガレット・リバー カベルネ・ソーヴィニョン
2017
ヴァス・フェリックス』
西オーストラリア州南西部マーガレット・リバー、オーストラリア随一のプレミアムワイン産地である。
マリンスポーツ、特にサーファーの間では有名な土地でもある。
が、僕はサーフィンはやらないのでワインの話をしよう。
マーガレット・リバーはワールドクラスのワインを生み出す産地であるが、比較的歴史は浅い。
1967年にブドウを植樹したこちら、ヴァス・フェリックスが最初に設立された商業ワイナリーである。
50年ほどの歴史でワールドクラスに名を連ねているのだから驚異的だ。
そして、始まりは小さな畑だったらしいが、今では一面の広大なぶどう畑が広がっている。
さて、大自然の大地から造り出される逸品を空けてみようじゃないか。
古典的とも言えるほど、濃厚な色合いでフルボディのカベルネ・ソーヴィニョンを予感させる。
オーストラリアらしい赤ワインだと思われる。
カシスのように甘い香りもあるが、香ばしいコーヒーのような香りもある。
味わいも凝縮された黒系の果実感、程よく酸味もあるのでもっさりとした野暮ったさがなくて濃いのにスルスルと飲めてしまう。
恐ろしいワインだ、財布的にも。
『カンガルーバーガー』
オーストラリアのジビエといえばカンガルーだ。
知らなければ驚きに顔をしかめるだろうが、オーストラリアでは普通のスーパーでも買えるほどごく普通の食肉である。
高タンパク、低コレストロール、そして野生肉なので有機食品でもある。
しかし、カンガルー肉には独特の臭みがある。
初めて食べるときは注意が必要だ。
今回仕入れた先で天然スパイスを加えているらしいので、特に気にすることはないだろう。
バンズを買って、パテを焼き、トマトをスライスしてレタスを挟んだ。
オーソドックスなハンバーガーだ。
さて、まずは一口。
うむ。
うまく処理できているのか、昔オーストラリアで買って食べた時に比べて食べやすい。
あの独特の何とも言えない臭みがスパイスで中和されている。
しかし、赤身肉らしい食べごたえがある。
ワインも当然合わせる。
これは言わずもがな。
合わないわけがない。
大口で一口、バーガー、ワイン、と交互に飲み食いしても全く違和感もないどころか加速していく。
あっという間に大きなハンバーガーを二つ平らげた。
低コレステロールでも量を食べれば、低ではなくなってしまう。
だが、No Warries Mate!(大丈夫、気にしない!)
このキーワードだけで気分もお腹もオージーだ。
☆☆☆
オーストラリア、周囲の海に目を向ければグレート・バリア・リーフなどの海洋公園、どこまでも広がる大牧場や大農場、内陸にはエアーズ・ロックなど壮大なアウトバック(荒野)、カンガルーやコアラなどのユニークな固有動物たち、ここは雄大な自然とともにある移民国家である。
僕が降り立ったのは、西オーストラリア州州都パースである。
緑豊かなキングス・パークや湖のように川幅の広いスワンリバーなどがあり、自然と都会が調和した街並みのため、人気のある都市だ。
僕にとっては懐かしい郷愁を感じさせてくれる。
実はオーストラリアは三度目であった。
かつてワーキングホリデーで訪れ、二度一年ずつ滞在した。
この時にワインの味を知ったわけだが、仕事に関してはズブの素人だった。
ブドウの収穫をしたり、剪定の手伝い(切った枝を取り除く作業)程度しかしたことはなかった。
今回もフランスに引き続き、ビザのない僕でも働くことのできるWWOOFでワイナリーに滞在しようという目論見だ。
僕は出発前にパースの安宿で久しぶりのカンガルー肉を焼いて食べた。
この独特の臭みが何とも言えない。
濃厚な赤ワインのシラーズに合うのだが、フルボディのカベルネ・ソーヴィニヨンでも十分にいける。
さて、今回の目的地はグレートサザン地区にあるマウント・バーカーという小さな町、そこからさらに奥地だ。
僕はパースから長距離バスに乗り込み、4、5時間(細かい時間は忘れた)で到着した。
バスから降りると今回お世話になるワイナリーのオーナー、バリ―氏が出迎えてくれた。
オーストラリア人にしては小柄ではあるが、農夫らしくヒゲを蓄え、握手した手はゴツゴツとしている。
だが、紳士のように柔らかい笑みだった。
年季の入った(決してオンボロとは言わない)日本ではもはや見かけることもないほど古い型のトヨタのピックアップトラックに乗せられてワイナリーへと向かった。
乾燥大陸であるオーストラリアの中でも緑の多い地区であるため、アンガス牛牧場や森林を通って到着した。
小さな小屋のようなワイナリーの建物があり、その隣に家があった。
ここで到着かと思いきや、羊が草をはむ牧草地をさらに車で走った。
そうして、牧草地とぶどう畑の中にぽつんと建つ住居でようやく車は停まった。
バリーの奥さんのシェリー、僕と同じ日本人のM子が出迎えてくれた。
この日から短い間ではあるが、
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