猫は水たまりの月を覗く

紗音。

第1話 プロローグ

 暖かい日差しに少し目を開ける。

 太陽の光が眩しく感じる。ぼやけた世界が目の前に広がる。ここはどこだろうか。空を見つめながら、ぼんやりと考えていた。空が見えるということは、外のどこかで寝てしまったのだろう。これで何回目かとため息をつく。

 地面の温かさのせいで、もう一寝入りしようかと目を瞑ろうとするが、近くで人の声がするのが聞こえる。早く起きないと通報されてしまう。昔から遊び疲れてその場で寝てしまうことが多々あって、最初の頃は親が警察を呼んだり、探し回ったりしてくれていたのだが、大きくなってからは呆れられて放置されることが普通になった。そのため、今日もやらかしてしまったのだろう。


 (また、親父に怒られるのか……)


 身体を横に倒し起き上がろうとするが、上手く立ち上がれない。昨日、遊びすぎたのだろうか。記憶を辿るが、何も思いだせない。よくテレビで超人や有名選手の練習風景とかを観て、自分もやればなれると信じてその倍をやって動けなくなることが多かったけど、今回は何をやらかしたのだろうか。

 かろうじて動く手と足を使ってノロノロと噴水に向かう。いつもより視線が酷く低いせいか、すぐそばにある噴水にすら数十歩以上歩いても辿り着けない。


(帰ったら、今日の反省をしよう……次はこんなことしないように)


 噴水に辿り着き、手を伸ばすが届かない。そんなに届かないものかと必死に手を伸ばしている時、ふと自分の腕に視線がいった。


(腕は黒色のもさもさ、手は……肉球??)


 右手左手と見てみると、どう見ても動物の腕である。自分で毛や手を触ってみるが、触られている感覚がある。何故だと困っていた時だった。突然身体が宙に浮いた。

「はい、ねこさん!これでおみずが見えるかな?」

 噴水に映るのは、小学校低学年くらいの男の子と黒色の猫。手を振ると、水に映った猫も手を振ってくる。


(これは、まさか……自分は猫になったのか??)


 どうやら、自分は猫になってしまったのだ。黒色の猫、男の子が軽々と持ち上げられているということは、子猫くらいだろうか。水に映る黒猫の顔が段々と青ざめていくのが見えた。

『ぎゃー!!』

 多分、男の子には猫の鳴き声に聞こえているだろう。男の子が驚いて腕の力が抜けたので、その瞬間に腕の中から脱出し、急いで公園を後にした。

「ねこさん!またねー」


(またなんてあってたまるかー!!!!)


 とにかく落ち着ける場所へ、家にいったん帰ろうと必死に走り続けた。

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