文月 クローバー
どうも、今度は純白の羽に身を包んだ白鳩に生まれ変わった俺です。
相も変わらず、花を手渡すこと以外自分に関する記憶を思い出せないでいます。
じっくり考える時間があればもしかしたら可能なのかもしれませんが、今はそんな暇は皆無なので無理です。
なぜって。
「おらあ!訓練中だよそ見をすんな!」
訓練飛行中だからです。
他の白鳩たちと連携を取り、空に四葉のクローバーを形作って、戦争に向かう戦士たちを祝福する役目を担っているようです。
これまでの経験上、俺をしごく上官は彼女だというオチになりそうですが、今回は違いました。つるっぱげのおじさんです。
ではまだ彼女に出会っていないのかと言えば、そうではありません。
今世の彼女は、青い甲冑に身を包んで、先陣を切って戦場を駆け走り、みなを鼓舞する大将軍だそうです。
「疲れているのにまた来たの?」
過去三回の彼女とは違い、今世の彼女は花を手渡さなくてもすでに女神の微笑みを向けてくれるので、期待せずにはいられませんでしたが、結果から言えば、今回も笑顔で花を受け取ってはくれませんでした。
いえ。笑顔で受け取ってはくれたのですが。
「それにまたクローバーの四葉と花を持って来てくれたの?」
ありがとうね。
悪霊を即刻成仏させられるくらいに後光が射す笑顔で彼女は俺の嘴からクローバーの四葉と花を受け取ってくれたのですが、即、周りにいる戦士に渡してしまうんですね。
守護鳥の有難いお守りだと言って。
これで全部を護れるって。
やめてー。
そんな力ないからー。
俺はあんただけに渡そうとしているだけだからー。
あんた受け取ってくれないけどねー。
力いっぱい叫びますが、白鳩の俺の喉から出るのは、クルポッポー。
その鳴き声ですら、加護とみなされてしまいます。
訓練飛行中と見送りの飛行以外は外にいる彼女にせっせとクローバーの四葉と花を渡そうと飛びまくる中、戦士に捕らえられて、食べられました。
加護を求めるあまりの行動だったのか、単に空腹を満たす為だったのかはわかりませんが、こうして今回も彼女に花を渡せないまま、生を終えました。
ちょっと、次回があるなら。いえ、きっとあるでしょうけどよ。
こうもっとほのぼのした再会にならんでしょうかねえ、神様仏様。
(2021.12.8)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます