如月 ムスカリ




「待て!待てってば!」


 生まれ変わって、思い出せることは思い出して、そう時間を置かないで出会う運命なのでしょうか。

 そして前回に引き続き、俺は彼女に狩られる運命にあるのでしょうか。

 しかし前回の竜の時とは違い、俺は彼女から逃げています。

 小ぶりで種なしの一房のぶどうの果実に色も形も似ている花、ムスカリを尻尾で掴んで。


「その花を返せ!」


 返せと言われましても、奇跡的に咲いていたムスカリを先に確保したのは俺でして。

 蝙蝠に長くてぎざぎざの尻尾を生やした正体不明の動物に生まれ変わった俺の貴重なご飯でして。

 食べないとお陀仏すると断言できまして。


 いやいやいや。

 本当は渡したいんですよ、本当。

 でもこの身体は前回の竜とは違い、生存本能が超強いっぽくて。

 渡すもんかと全身が叫んでいるわけですよ。


「母さんの!」


 そして今はちっちゃいお嬢ちゃんである彼女も、俺の身体に負けないくらい全身全霊で叫んでいる。




「母さんのお墓に入れるんだから!」




 あー。

 俺は彼女に花を渡した瞬間、死ぬ呪いにでもかかっているのだろうか。




 可愛らしい顔を一度も見られないまま。

 怒って、泣いて、必死な顔と。

 ありがとうと感謝を述べる割には小憎らしい顔を向けられただけ。






 ああ、もしかしたら。

 ただ花を渡せばいいってもんではなく。

 彼女を笑顔にできるような花の手渡し方をすれば。


 この輪廻転生から解かれるのではないのか。と。


 二度目の転生で早々と思い至ったのであった。









(2021.12.6)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る