居待月跋渉の旅に赴く黒天
藤泉都理
卯月 アザレア
俺はどうしてあいつに花を渡そうとしたのか。
バランスを取るのが難しい身体。
視界に入る顔の輪郭の一部。
重厚感がありまくる身体。
違和感のある背中。
違和感のある尻。
違和感のある頭。
高い視線。
鋭利な爪。
どうも初めて生まれ変わった先が竜だった俺です。
名前は不明。
覚えているのは、生まれ変わっているということ、花を渡すべきだということと、花を渡すべき相手のこと。
相手の名前も顔もわからないけれど、一目見たらビビッと、渡すべき相手だとわかるのだ。
今のように。
「おらあ!禁酒の為にテメーの花を寄こせ!」
すでに酔っぱらっているうだつの上がらなそうなおばさんは、自分の身体と同じくらいの剣を軽々と持ち上げると俺に向かって駆け走ってきた。
彼女も俺から花をもらうんだと覚えているんだ。
けれどよく見たまえ。
渡すべき花は持っていないというのに。
やれやれせっかちな人だ。
なんて呆れることはできない。
通常竜の頭に生えているはずの角が、なんと、花に置き換わっているのです。
そう。
彼女が欲しているのは、俺の頭に生えている真っ赤な花。
ツツジに似ていますが名前をアザレアと言うそうです。
え?何で花の名前を知っているかって?
いえいえいえ。花に詳しいわけではありませんよ。
彼女が叫んでいるんですよ。
「よっしゃあ、これで禁酒成功じゃー!」
嬉々として彼女は腰に携帯している酒瓶を掲げて言っていますね。
その中身がどうか水かジュースか、もしくは酒だったとしたら飲まないことを祈りますね。
あ。アザレアを取ったからもう大丈夫なのかな。
角、いいえ、アザレアを折られたせいで死にゆく俺は、これでお役御免なのかなと思うと涙が一筋流れてしまった。
(2021.12.5)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます