カウボーイ・NLN

0:危機感で主人公より先にラスボスを倒しました。

 サイバーパンク・ガールという安直な名前のソシャゲが存在する。

 時間設定は西暦2080年の近未来、とあるマッドサイエンティスト元凶が開発したアーツ特殊能力発生装置のせいで世界の均衡は一方的に崩れた。

 アーツにはランクがあり、一番低いランク1、一番高いランク10というソシャゲらしいガチャ要素。まあ、一番低いランク1のキャラクターは一人も実装されておらず、ランク5からガチャキャラだ。


『君達は死んでしまった』


 こんなことを言われたのがつい最近に思える。俺ともう二人が神様の手違いで殺されてしまい、このソシャゲの世界に転生することになった。それはいい! でも、神様はオプション特典の配分を間違えたのか、俺と相棒のアーツランクは1と2、1が俺で2が相棒だ。

 で、残る一人のランクは? それはこのゲームの主人公が持つ『友軍強化(女限定)』のランク10。はい、見事に俺と相棒は見事に主人公から外され、物語に絡むことすら出来ない。はい、おしまい。

 俺と相棒が出会ったのはラスボスがアーツを研究するアーツ研究所安直に身売りされ、才能開花すると同時に殺処分の気配がムンムンとしていた時である。


『おまえさ、転生者じゃない? 主要キャラのことよく見てたし』

『奇遇じゃな、儂も同じ理由でおまえが転生者だと思っていた』

『このままだと殺処分だ。手を取り合わないか? 俺はこの世界では【ジャック】』

『そうじゃな、それが最善じゃ。儂のこの世界での名前は【陸奥むつ】じゃ』


 これが俺と相棒の最初のコンタクト、互いに殺処分寸前の状態を察して手を取り合った。もし、もう少しだけ互いにランクが高ければ二次創作のような踏み台転生者のようなことをしていたかもしれないが、俺達にそんな力は存在せず、互いに手を取り合って逃げるという選択肢を選ぶしかなかった。

 低ランクのモルモット実験体が逃げ出すことは珍しくなく、低ランクのタコ部屋には監視も少ない。体は子供、頭脳は大人な俺と相棒は何事もなく脱走に成功、そのままカウボーイ賞金稼ぎとして表の世界で生活するようになった。

 この世界、ゲームのアーツはランクとは別にアーツレベルが存在し、低ランクのアーツでもレベルを強化することによって上位のアーツを遥かに凌駕する能力を獲得することがある。案外、ランク5くらいのアーツ持ちキャラがレベルアップによって人権キャラとして君臨する。

 俺と相棒は互いにゲームの知識を駆使し、敵、いや、ギャングがたむろする狩場でアーツを駆使してアーツレベリングを原作開始前にはじめた。そして狩場を転々としながらどうにか原作が開始する前にアーツ完凸に成功。


【ランク1:空間認識能力Lv.10】

 相手との間隔や動きを予測するアーツ。

 開放能力『スロータイムLv.3』


【ランク2:肉体強化能力Lv.10】

 自身の運動能力を底上げするアーツ。

 開放能力『シャドウムーブLv.3』


 こんな感じで互いに低ランクだが、レベルを上げて能力で殴れという悲しい現実。結局はレベルと筋力がこの世界の摂理なのだ。

 こうして、この世界のキャラクター達と遜色ない実力を身に着けた俺達は大物犯罪者を捕獲したり、護衛任務をしたりとそれなりに有名になったころ。


『柊 修一郎 五千万ウィン』


 なぜか、この世界の主人公であるもう一人の転生者が大規模指名手配され、その金額は日本円にして五千万に達する。

 ――なんで主人公が大規模指名手配されるの?

 そして理解したこと、それは……もう一人の転生者は『サイバーパンク・ガールズゲーム』をプレイしておらず、アーツはランクしか存在していないと思い込んでいる。


『……やばいな、このままだとやばいな』

『……ああ、予想以上にヤバイのぉ』


 互いに悶絶に近い表情でこの世界の主人公系転生者くんに項垂れる。

 結構、セルラン上位のゲームだから普通にゲームの内容くらいは把握していると思っていたが、生粋の据え置きゲーム勢だったらしく、このゲームをプレイしていない。だからアーツはランク以外に存在せず、侍らせている少女達の本来の力を発揮出来ていない。

 これは不味い! このままだと博士の野望で全人類が粛清される!?

 他力本願していた俺達も悪いのだが、主人公に丸投げするのはモブの特権でしょ? それを拒否られるとは思わなかったのだ。

 そして、俺と相棒は……。


『ラスボス……弱かったな……』

『儂達が強くなりすぎたんじゃ……』

『見つけたぞ! ドクターワイゼル!! 勝負だ!!』


 主人公くん達がアーツ能力だけは高い主要キャラを引き連れてラスボス撃破後にやってきました。でも、見る限りアーツレベルで発生する開放能力は開花しておらず。本当にアーツランクだけ、確実に負ける編成でしたよ。


『む、陸奥!? な、なんで!!』

『……ジャック、儂、お寿司食べて帰りたいのぉ』

『……そうだな、今日はお寿司食べて帰ろうか』


 互いに主人公くんから逃げるようにラスボス部屋から逃げた。

 知るか! 後は勝手にやれ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る