第2話・彩香の思い
彩香は自身の身の上を打ち明けて、壁掛け時計を見た・・・・・・時刻は既に20時を回っており、ハルに「シャワーを浴びてくると良い。着替えはさっき寝ていた部屋に君の荷物をまとめた段ボールの中だ」と言うと、ハルはそれを聞いて「誰が届けてくれたんです?」と尋ねると、彩香は「君の妹を名乗る中学生が持ってきてくれたんだ」と答えた。
ハルは着替えを取って脱衣所で上半身裸になったところで、洗面所の鏡に映る自身の後ろに立っているシュタインを見て、気まずくなった。
シュタインに向かって右手の人差し指を向けて「・・・・・・風呂場に入ってくるなよ?」と忠告すると、シュタインは「別に見られて減るものでもないだろう?」と答えるが、脱衣所の外にはなぜか服を脱いでバスタオル一枚を体に巻いただけの彩香が引き戸に耳を当てていた。
(あれ? もしかしてスタンバってるのバレてる? しばらくは変に凸しない方がよさそうだな)
何がとは言わないが、てっきりハルに警戒されていると思った彩香は、そっと扉から離れていった。
ハルがシャワーを浴びている間、先程の部屋着に着替えた彩香は自室のベットの上に大の字で寝転がって物思いに更けていた。
(こんな形で彼に再会するとは思わなかったな・・・・・・あの様子だと彼は覚えていないんだろうけど、中学の時にチンピラに絡まれている生徒を助けようとした際に、そのチンピラから風邪気味でまともに動けない僕を庇ってくれた時のことは今でも忘れられないんだよね)
中学時代のある日を思い出しながら彩香は自身の左手首につけている手錠型魔道具のシナー・チェインを見て、複雑な気持ちになった。
(『他人のために自分の命を危険に晒す奴が嫌い』・・・・・・か。口ではそう言っても、自分の手が届く範囲で人を助けようとする心を持つ彼は・・・・・・少なくともこんな物で縛っていい存在じゃない)
そんなことを考えていると、枕元に置いていたスマホがジリリリリンと黒電話の着信音が鳴り、彩香はスマホを取りながら体を起こして電話に出た。
彩香は「はい、もしも・・・・・・」と言いかけた瞬間、スピーカーから耳をつんざくような声量で「お姉ちゃん大丈夫!? 同居人に変な事されたりしてない?」と妹であろう少女の声が響いてきた。
いきなり鼓膜に大音量を喰らった彩香は耳がキーンとなり、両手で両耳を抑えてうつ伏せの体勢で「オォ・・・・・・」と悶絶してから、再びスマホを手に取って電話に出る。
「未希(みき)・・・・・・彼はそんなことするような人じゃないよ。ところでどうしたんだい? まさか僕が家を出て1日足らずでもう寂しくなったとかじゃないよね?」
彩香の質問に未希は「明日こっちに取りに来る大学受験用の教材! 台所のテーブルの上に揃えておいたから忘れないでね!」と、残りの荷物についての状態を教える。
「ありがとう! あと本棚にある漫画本はまた違う日に取りに行くからそのままにしてほしい!」
そんな話がされている中、シャワーを浴び終えたハルは水色と白の縦縞のパジャマ姿で風呂場から出て、飲み物を取りに台所に向かったが、冷蔵庫を開けても中には何も入っていない。
「あら・・・・・・あっ! そっか!」
そう、ハルは自宅ではないことを思い出し、飲み物を買いに行こうと思ったが、監視をつけられていることを思い出し、彩香に声をかけることにした。
彩香の部屋の扉を2回ノックして「飲み物買いに行きたいんですけどいいですか?」と扉の外から尋ねると、彩香は「そういえば冷蔵庫の中は空だったね。すぐに行くよ!」と答えた。
2人は財布を片手にアパートを出て、夜の住宅街へ繰り出した。
「少し遠いけど、コンビニで明日の朝食も買っておこう!」
街頭に照らされる夜道を歩きながら彩香はそう言ってハルに左手を伸ばして「暗いし、手でも繋ぐかい?」と声をかけるが、ハルは彩香から目を逸らして「結構です」と断った。
(初対面だよな? 馴れ馴れしいのは元からなんだろうか?)
ハルは心の中でそう思いながら歩いていると、交差点を超えたところにあるコンビニが見えた。
2人はコンビニに入って買い物かごを取り、別れて必要な物をかごに入れる。
ハル(ツナサンドとたまごサンド・野菜スティック・ミルクティーにコーラと・・・・・・)
彩香(ツナマヨおにぎり・納豆巻き・インスタントの味噌汁とコーヒー・緑茶に、あとお菓子は・・・・・・)
先に支払いが済んだハルは漫画を立ち読みしていると、後ろからシュタインが覗き込もうと背伸びしていたため、ハルはシュタインにも見えるように位置を調整し、2人……ではなく。1人と1霊? は1冊の漫画雑誌を立ち読みした。
店員の「ありがとうございました!」の声が店内に響いて、支払いが済んだ彩香が「すまない! 待たせたね」と声をかけてきた。
ハルは読みかけの漫画雑誌を棚に戻すと、続きを読みたかったシュタインが「おい、まだ読みかけだぞ!」と引き留めようとする。
9時過ぎとはいえ、店員の目がある中で自分にしか認識できないシュタインと喋っていれば、怪しまれると思ったハルは、引きつった顔で聞かなかったフリをして、彩香と共にコンビニを後にした。
「なぜさっきの書物を買わなかった! 続きが気になるだろうが!」
コンビニを出てからも、しつこく文句を言ってくるシュタインに、いい加減に痺れを切らしたハルは「明日実家からコミックス何冊か持っていくから我慢しろ!」と後ろにいるシュタインに怒鳴りつけるように言うと、ソレに驚いた彩香は目を丸くした。
「・・・・・・例の幻覚かい? 何を言われた?」
彩香の問いにハルは「さっき読んでた漫画雑誌の続きが気になって仕方がないそうで・・・・・・」と左手で頭を抱えていると、彩香はこんなことを口に出す。
「まあ、君の見ている幻覚が元の持ち主の残留思念が引き起こしているのだとしたら、その魔道具に関する情報を見れば何か解るかもしれないね」
それを聞いたハルはそう言った物に詳しい人物に心当たりがあった。
「そもそも、あの魔道具を見た時に凪に渡して調べてもらおうと考えてたんだよな・・・・・・家系上、そう言ったの詳しいし」
彩香もハルの口から出た人物と縁があるため、解決の糸口になることを期待していた。
「もしかしたら何かしらの解決策を見つけてくれるかもしれないからね。じゃあ、改めて! しばらくの間はよろしく!」
彩香はそう言って右手を伸ばし、ハルは照れくさいながらも「こちらこそよろしく」と言いながら握手に答える。
こうして・・・・・・異能者になったハルの、自分にしか認識できない存在と、自身と魂が繋がった魔祓い師との共同生活が幕を開けることになった。
しかし、ハルたちは気づいていなかった・・・・・・自分たちの背後に、一振りのナイフを握った人物が、自分たちに迫っていることに・・・・・・
次回・第3話「ブラッドイーター」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます