♡ 口移せよ!プレイガール♡

x頭金x

第1話

 アメリカの田舎でレストランに入った。入ると店内は薄暗く、誰もいなかった。床は木で出来ていて、踏むと軋んだ。


「良い軋み音だ」


 僕は日本語でそう言った。すると店の奥から太った髭もじゃの禿げ上がった白人の店主が出てきて、「そうだろう?」と英語で言った。僕はもちろん英語なんて話せない。でも確かに店主はその時、そう言ったんだ。


 それから僕たちはテーブルに座り、ウーバーイーツでプレイガールとピザを注文した。30分後、タンクトップに短パン、ローラースケートを履いている、唇がポテっとしてやる気のない眼をした若い綺麗な白人のプレイガールが、ピザを頬張りながらやってきた。そして咀嚼中のピザを口移しで店主に与えた。店主は「マルゲリータ」と言った。そしてプレイガールはピザの箱を開けてマルゲリータピザを一枚取り出し、それを床に落とし、僕に食べるよう命令した。


「なんで僕には口移しじゃないんですか!人種差別だ!!」と僕は抗議した。プレイガールは呆れた顔で僕を見た。僕は抗議を続けながら、落ちたピザを口だけで食べた。


 顔中にソースがついた。それをプレイガールは丹念に舐めとってくれた。ああ、そうか、そう言うことか、ごめんなさい、拙速でした謝罪いたします。僕はプレイガールの足元に土下座をして、くるぶしにチュッと口づけをした。


 満たされた僕たちはテーブルに座り、残りのピザをゆっくりと堪能した。プレイガールがコーラが欲しいとのことだったので、店主は冷蔵庫から瓶のコーラを出し、蓋を開けてプレイガールの前に置いた。


「名前は?」


 僕は日本語でそう聞いた。「メリッサ」、そう彼女は答えた。僕たちはそれからいろいろな話をしたのだが、次の朝目覚めるとなにを話したかはなに一つとして思い出せなかった。


 僕は今日もまたあのレストランに行ってみたのだが、その店はどこにもなかった。コーラの瓶の蓋だけが、そこにはあった。

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