第173話

「管理番?」


 私はビックリして思わず声を上げ、それと同時に口を塞いだ。


 覗いていたのがバレちゃう。


 その様子を隊長さんが楽しそうに見ていた。私が驚いたのが予想通りだったのだろう。横にある隊長さんは、いたずらが成功した気分なのか嬉しかったのか、とてもいい笑顔だ。


 「ここは管理番の職場なの?」


 「ええ、管理番室です」


 今さらだが、私は声を潜めながら確認する。しかし、遅かったようだ。窓が開けられた。


 「姫様?!」


 管理番のひっくり返った声がした。


 声の方向を見ると、窓を開けた管理番がいて、その後ろには何人かの男性たちが私たちを見ていた。私はどんな顔をすればいいのかわからず、とりあえず挨拶をしておく。




 「ぐ、偶然ね管理番。今日はいいお天気ね」 


 「姫様。偶然は無理があるかと」


 窓を開けつつぐったりと項垂れる管理番がいた。確かに無理があるけど、私としても思いつかなかったから仕方がない。管理番の後ろの人たちは興味津々な様子の人と、どうしたらいいのかわからない人と反応は様々だ。隊長さんは一人、余裕の表情。当然だろう彼が連れてきたのだから。




 管理番は驚きつつも私たちを管理番室へ迎えてくれた。


 管理番室は3つに分かれていた。一つは彼らが仕事をする仕事部屋。一つはお客さんを迎えるための応接室。もう一つは休憩室。当然ながら私たちは応接室に迎えられる。管理番がお茶を入れてくれている間に室長たちが挨拶に来てくれた。まあ、当然と言えば当然だ。隊長さんがいるのだから。挨拶にも来るだろう。その時、疑問が頭に浮かぶ。


 そういえば始めの頃、私の所には管理番が来てくれたけど、結果的にはそれが良かったけど。普通は室長とかが来るんじゃないかな? 疑問に思ったけど追及は辞めておこう。こういう事は追及するとろくなことが無い。私は疑問を頭から追い出し管理番のお茶を待つ。挨拶が終わった室長さん達には丁重に仕事に戻ってもらった。ここにいても話題に困るし、寛げない。


 「お待たせしました。姫様にお出しできるようないいお茶ではないのですが。お菓子もあまり期待しないでくださいね。」


 管理番がお茶を持ってきてくれる。トレーには一緒にお菓子も乗っていたが、期待しないように先に釘を刺されてしまった。


 私は美味しければなんでも良い人なんだけど。美味しくないのかな? それはないか、お客様用なのだから、謙遜しての言葉だろう。


 私は結論を出すと、お茶とお菓子を頂く。


 結果、美味しくないわけではないけど、美味しいわけでもない、と言うなんとも微妙な感じだった。でも、ありがたくいただく。


 私たちがお茶で喉を潤していたら管理番が当然の質問をしてくる。その声には心配な様子も滲んでいた。


 「それで、どうなさったんですか? ただ寄ってくださっただけですか? それとも何か? 姫様の目元が少し赤いようですが?」


 「ちょっと気分転換にな」


 隊長さんが言いにくいので誤魔化して答えてくれたが、私としては管理番に知られる事はなんとも思っていないので、普通にさっきの事を話し出す。


 「ええっとね。今日、始めて殿下にお会いしたんだけど、あんまり話が合わなくてね。それで、隊長さんが気分転換に連れてきてくれたの」


 「そうだったんですか。私のことろに来て気分転換になるかはわかりませんが、お話相手に慣れれば幸いです」


 「ありがとう。管理番が働いている場所を始めて見るわ。部屋は意外に狭いのね。窮屈ではない?」


 「そうですね。今日は事務仕事があるので部屋にいますが、普段は在庫の確認で席を外している事も多いです。不在者が多いので、部屋が狭くてもそんなに窮屈ではありません」


 「そうなの? じゃあ、今日はここにいてくれたから運が良かったのね」


 「そうですね。いつもなら倉庫に行ったり、始めての品物は別室で確認するので。姫様とすれ違わずに済んで良かったです。今も二人は席を外していますし」




 管理番は私の目元が赤いのを気にしていたけど、その事に私が触れなかったので、それ以上追求してくることはなかった。さすがは管理番、気遣いの人だ。


 やっぱり、パートナーは管理番ではダメなのだろうか? 管理番なら何も心配はいらないし、私も気楽で助かるのだけど。私は横にいる隊長さんをチラ見する。聞くとダメと言われるのでここは強行突破。管理番のOKをもらってしまおう。




 「管理番。お願いがあるの」


 「どのような事でしょうか?わたくしで出来る事でしたら」


 「姫様。何を言われるのですか?」


 隊長さんは嫌な予感がするのか私に静止をかけてくる。が、そんなものは無視だ無視。私は聞こえない振りをして管理番に話を持ち掛ける。


 「デビューのパートナーをお願いしたいの。ダメかな?」


 「パートナーですか? 姫様のパートナーは殿下と耳にしましたが。それに私では身分的に不足かと」


 管理番は慌てて、恐れ多いと両手を振っている。


 「そんなの関係ないわ。私は管理番がいいもの」


 「姫様。管理番では問題があると以前にも申し上げましたが」


 隊長さんが口を挟む。でも、私の中では殿下と言う選択肢はないし。隊長さんでは後が面倒。商人にお願いできるならそれでもいいかもしれけど、流石に商人では申し訳ない気がする(身分的に)。そうなると私的に安心で、気心が知れている管理番が一番安心なのだ。お願いできたらいいんだけど。隊長さんの意見はこの際聞かないことにしよう。管理番次第だけど。


 「さっきも言ったけど殿下とは話が合わなくてね。お断りする事にしたの。その方が嫌な思いをしないでしょう? お互いに。それで、休むことも考えたけど学校に行くことを考えるとそうも行かないみたいだし。お願いできないかな? ダメ?」


 子供の特権を使ってみようかと思ったが、その必要もなく、管理番は申し訳なさそうな顔になったのが見えた。


 「申し訳ありません。姫様。私はその日は親戚の者に付き添う予定になってまして」

「そうなの?」

「はい。申し訳ありません」 


 管理番がもう一度謝って来るがこれは仕方がない。親戚の付き添いという事は以前から決まっていたのだろう。そこに私が横入りするわけにはいかない。


 私の頭の上には、石が乗ったようにガーンという気分になり。


 私は項垂れた。

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