第159話
私は宰相に会うために執務室を目指していた。事前に私が呼び出す事も可能だと言われていたが会いに行くことにする。その方が話がうまく進むと思ったからだ。執務室まで歩いている間に隊長さんの勘違いを訂正しておこうと思ったのも理由の一つだ。
「ねえ、隊長さん。さっき厨房で何か勘違いをしていたと思うのだけど」
「勘違い? 厨房で? 何のことでしょうか? 姫様」
「ほら、これが狙いでしたか、みたいなことを言っていたでしょう? 誤解していると思って。そんな事は考えてないからね。計算して行動するようなんできないから」
そう、私は計算して行動するような器用なことは出来ない。思いつくままに行動しているのだ。まあ、大事な話の前は話の組み立てをしたり、会話の内容を想像して答えを用意する事はあるけど、それだけだ。それ以外の事は想定できない。隊長さんにもその事を力説しておく。隊長さんは私の話を黙って聞いてくれていたが、呆れたようなため息を付かれた。
私の前でそのため息はいかがなものか、筆頭さんに叱られると思うけど、と筆頭さんを見たら筆頭さんは額に手を当てている。この二人、なにか言いたそうだ。
「わかりました。そういう事にしておきましょう。その方が安心ですしね」
「分かってないでしょ? 」
話を聞いているようで聞いていない隊長さんを睨んで見せるが隊長さんは気にしていないようだ。私から見ると『何言ってくれるの!!』と言う気分だが隊長さんはどこ吹く風で、聞き流している。これはダメだ。何を言っても逆効果になりそうだ。隊長さんの中で、私は計算高い子供になっているらしい。
現時点での説得は諦めて頭が冷えた頃に話す方が賢い気がした私はこの話を打ち切る。
筆頭さんも聞いているはずなのに反応はゼロ。この話をどう思っているかは分からなかった。厨房で隊長さんと話をしていたし。予想だけど、私の話をしていたと思うんだけど。この様子では何を話していたかは教えてもらえなさそうだ。
私が諦めたのを察したのか隊長さんは別な話題を振ってきた。これから会う宰相についてだ。
「姫様。宰相閣下にどのように話をされるつもりですか?」
「どのうようにって、そのままよ。ありのままを話すわ」
「見習いを離宮に迎えたいと話すのですか?」
「そうよ。他に話しようもないでしょ?」
宰相への対応の方法を確認されたが私にできる手段なんて限られたものだ。しかも私は交渉の高等てくにっくなんて持っていない。気持ちの上ではテクニックは平仮名になっているはず。諦観の念が現れているはずだ。
私は諦めを胸に執務室に到着した。隊長さんが来訪を告げ、中に通される。
面会希望を伝えていたせいか準備をして待っていてくれたようである。
私は行動に出ないように注意しつつ気合を入れる。今日のミッションは二つ。成功できるように話運びは組み立ててきた。昨夜のイメージトレーニングの成果が発揮できるように頑張りたい。
「待たせしたかしら?」
されげなく上座にエスコートされ、当たり前を装いつつ話の主導権を握るべく上から目線で挨拶代わりのジャブを放つ。私の対応に宰相は片眉を上げる。以外に思ったようだ。今までの私の対応を違うので当然だろう。しかし、私は話し方を変えるつもりはなかった。そのままソファに腰を降ろす。
今日の目的を滞りなく達成するためには必要だと判断しているからだ。宰相は私の対応を気にする様子はない。私の前に腰かけると普通に話し出した。
陛下抜きで、宰相と二人で(隊長さんや筆頭さんもいるが)正面切って話をするのは初めてだ。もしかしたら陛下がいないから、上から目線の話し方だと思っているかもしれない。
「いえ、とくには。時間通りです。姫様からご希望がおありと聞いていますが?」
「ええ。知っているのなら話は早いわね」
「どのようなご希望でしょうか?」
「知っているのに私に聞くのかしら? まあいいわ。宰相。私は一人離宮に見習いを入れたいと思っているわ。問題はないわね?」
なるべく傲慢にこれがポイントだ。私は慣れない話し方に苦労しつつ頑張っている。
内心は冷や汗ものだ。
私の言い切った話し方をしたが、今度は宰相の眉は上がらない。表情が変わらないので何を考えているのかは分からなかった。
私が苦手とする部類の人だ。のっけからこんな感じで上手く話を進めることが出来るだろうか?
不安しかない。
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